特集 スクールユニフォーム(7)/探訪 学生服の現場から/自らの進路切り開け/大阪府立北野高等学校

2024年05月31日 (金曜日)

 大阪府立北野高等学校(大阪市淀川区)は、自由闊達(かったつ)な校風の下、文武両道の実践を大切にするとともに、知・徳・体のバランスが取れ、豊かな人間性と心身のたくましさを備えた生徒の育成に力を入れている。創立から150年にわたる歴史の中で培われてきた教育理念によって、これまで数多くの優れた人材を輩出。高い志とチャレンジ精神によって、自らの進路を切り開く教育を目指す。

〈自由闊達な校風〉

 北野高校は1873年、大阪市東区(現在の中央区)難波御堂に開校した欧学校を起源に持つ。府内でトップの進学校であり、これまで画家の佐伯祐三や小説家の梶井基次郎、実業家の藤田田、数学者の森毅、漫画家の手塚治虫ら数多くの著名人を輩出。リチウムイオン電池の発明者でノーベル化学賞受賞者の吉野彰氏や、元大阪府知事・元大阪市長の橋下徹氏、元ラグビー日本代表主将の廣瀬俊朗氏らも同校の出身だ。

 創立から150年がたち、「他校にない独自の校風が育まれてきた」と、浅田充彦校長は話す。知・徳・体の教育方針とともに、「授業第一主義」「文部両道」「六稜魂」によって独特な校風を醸成してきた。

 授業第一主義では一般的な50分授業でなく、65分授業を採用。65分授業のメリットを生かし、探求的、主体的な学習に取り組む。教科中心のカリキュラムだけでなく、「学際的な学び」も推進。生徒が自身で課題を見つけて研究する探求活動にも取り組む。

 また、大阪大学や京都大学との高大連携、各界で活躍する卒業生とのコミュニケーションによってアカデミックで自由闊達な校風を育む。

 文武両道とは文字通り、文化的、体育的を問わず多彩な行事に全力に取り組む姿勢のことだ。「部活動への参加率は106%」と、全員が部活動に参加するだけでなく、掛け持つ生徒も多い。府内では屈指の50㍍プールを保有し、毎年9月には水泳大会が開かれる。

 伝統として、生徒には卒業までに2重飛び50回、後ろ2重飛び20回が課せられている。縄もプラスチック製ではなく本物の縄を使う。2月には淀川河川敷で断郊競争を実施。手塚治虫の作品の中にも断郊競争での思い出が描かれている。

 六稜(りくりょう)魂とは、同校の校章の六稜から由来するもので、やるべきことをやり抜く忍耐力、何事にもチャレンジする精神力や決断力を表すものだ。長い歴史の中で受け継がれ、生徒たちにとって力強い指標となっている。

 「良い大学に入ることが目的ではない。人のため、世の中のため、社会に貢献していくためにも、生徒自身が生きる力を伸ばす」(浅田校長)教育に力を入れる。

〈ジェンダーレス制服の導入〉

 制服は長い間、男子が詰め襟服、女子が紺色のブレザーだった。2021年に生徒有志による制服変更の意見書が校長や指導部、人権推進委員会宛てに提出されたことで、制服更新の機運が高まった。生徒の1人がジェンダーで悩みを抱えていたことがきっかけで「学校の伝統と、今いる生徒の人権を天秤に掛けた時、必ず変えていかなければいけないと感じた」と、当時生徒指導部主任だった川副弘二教諭は振り返る。

 全生徒に対してアンケートが行われ、制服の変更が決定。もちろん旧制服に愛着を持つ教員や卒業生のOBも多かったが、「生徒が楽しく学校生活を送る」ことを一番に考えれば、目立った反対は出てこなかった。

 22年5月から教員数人による制服検討委員会が立ち上がった。生徒自治会でも委員会を作り、意見を集約していく形で新制服への要望をまとめた。

 昨年3月に学生服メーカー数社でコンペが開かれ、トンボと協力しながら制服を選定することが決定。6月には新制服のデザイン候補が4案でき上がり、全生徒や教員のアンケートを基に案を絞り、細かな修正を施しながら、10月には完成した。

 ジャケットは濃紺で2ボタンのシンプルなデザインで、最新の機能を盛り込んだ。ウール80%で上質な風合いを持ちながらも家庭洗濯が可能。ボタンの付け替えによって「右前」「左前」とすることもでき「見た目で性差を感じないようにした」。

 パンツ、スカートは濃紺のチェック柄で、よく見ると濃い紺色の2重の線が格子状に入っているなど、デザインも細部にこだわった。耐久性を重視し、ウールは30%混となる。他にもネクタイやリボンも用意し、着用は自由。セーターやベスト、サマーニットもオプションで購入できる。

〈受け継ぎ発展させる〉

 新制服は今年の新入生から着用しており、おおむね好評だ。2、3年生の女子生徒から旧制服ではリボンがなかっただけに「リボンを付けたい」「新しい制服の方が良い」という声が多いと言う。府内には約160の高校があるが、制服のおしゃれさを決めるランキングでは「下から数えた方が早かった」(川副教諭)。

 新制服となり「違う学校みたい」という声もあるが、毎日楽しそうに通ってくる新入生たちを見て、川副教諭は「制服変更に携わることができて良かった」と目を細める。

 今年は創立から151年目となり、学校の歴史に新たな1ページが刻まれようとしている。浅田校長は「このタイミングでの制服更新はすごく大きい気がする」と話す。生徒たちにはこれから「何を積み上げていくか。伝統を受け継ぐだけではなく発展させ、オリジナリティーを出していってほしい」と期待する。先生から与えられるだけでなく「自分たちでつかみ取る。そういう学校であり続けたい」。