特集 スクールユニフォーム(3)/利益改善が喫緊の課題

2024年05月31日 (金曜日)

 増加する中学校でのモデルチェンジ(MC)へ対応する大手学生服メーカー。その一方で、さまざまなコスト上昇が各社の採算を悪化させており、今後は価格改定が喫緊の課題となる。学生服市場が変化する中、中堅メーカーは自社の強みを生かし、差別化を追求する。

〈コスト増足かせに/価格改定を本格化〉

 学生服メーカー大手のトンボ、菅公学生服、明石スクールユニフォームカンパニーの3社は中学校からの旺盛なMCに対応し、今春の入学商戦では受注を大きく伸ばした。

 MC校からの受注が好調なことから、大手3社は増収基調な一方、原材料価格など、さまざまなコストが上がっており、各社の収益を圧迫している。詰め襟などに加えて生産の手間がかかるブレザー制服の採用が増加。地域や学校ごとにデザインが変わるケースも多く、多品種・小ロット化が顕著なこともコスト増の要因となっている。

 コスト吸収にも限界があり、大手学生服メーカーは来春に向けて価格改定を本格化させる。トンボの藤原竜也社長は「価格改定が経営に直結する段階に入ってきた。既存校に対し、ここで一気に値上げをお願いしていきたい」と語る。菅公学生服の尾﨑茂社長も「もはや社内でコストダウンを進めるという話ではなくなっている」と指摘し、価格改定を進めている。今期の最重要施策として価格改定を挙げるのは明石スクールユニフォームカンパニー。河合秀文社長は「まずは正しい利益を確保できる体制にしなければならない」話す。

 トンボのグループ会社の瀧本(大阪府東大阪市)も利益面が圧迫されており、今期は前期に増やし過ぎた在庫を適正化し、学校や販売代理店へ価格転嫁の交渉を進める。

 MCが増える中、物流や生産体制の整備も進む。トンボは昨年、関東に東京物流センター(茨城県笠間市)を開設。同センターが「今シーズンはアソートや出荷で非常に貢献してくれた」(藤原社長)と言う。明石スクールユニフォームカンパニーは22年に山口県宇部市に新物流拠点を新設するなど、「ここ3年は(生産や物流拠点のある)宇部へ積極投資してきた」(河合社長)。菅公学生服もこの先を見越し、米子工場(鳥取県米子市)の隣にブレザーなどを生産する工場を建築中だ。

〈中堅は大手と差別化/ニーズに応える提案を〉

 中堅学生服メーカーは大手とは差別化した独自の取り組みによって顧客のニーズに応える。

 オゴー産業(岡山県倉敷市)では、子供の安心・安全をテーマにした製品やサービスが充実する。制服の着こなしセミナーなど、学校や生徒に有益なサービスを提供し関係性を構築する。吉善商会(東京都中央区)はデジタル化を推進。取引先ごとにオリジナルのウェブサイトを作るスタイルに電子商取引(EC)サイトを昨秋刷新したほか、今後はデジタル採寸の「ウオス」の活用を進めていく。

 「M&Aの効果が出始めた」とするのは金原(横浜市)だ。昨年に同社グループに加わった、スクールコート製造などを手掛けるユース(栃木県佐野市)と自転車通学用ヘルメット「ゼブラヘルメット」を企画開発。販売数が前年比で6倍以上に拡大している。

 このみ(新潟県妙高市)は、カタログから制服を選んで購入できる「セレクト型学校制服」サービスが堅調。今春は通信制高校や私立中学校などを中心に採用校を伸ばした。

 学生服販売店の支援に取り組むのはベンクーガー(倉敷市)。入学シーズン以外の売り上げ確保に向けてビジネススーツ販売に加え、今後はTシャツなどへのプリント事業を販売店へ提案していく。

〈岡山県井原市の中学校/地域性感じさせる制服に/市内統一型MC事例〉

 中学校を中心とした制服のモデルチェンジ(MC)が活発化する中、自治体単位でデザインを統一した、“地域共通型”の標準服を取り入れる動きも各地で見られるようになってきた。岡山県井原市は2025年度から市内の中学校で共通デザインの制服を取り入れる。

 中学校ではこれまで男子は詰め襟、女子はセーラー服を着用していた。長年制服が見直されておらず、井原市中学校制服検討委員会の田中正行委員長(美星中学校長)は「一番新しく制服を変更した学校でも30年以上が経過していた」と指摘する。ジェンダー対応や機能性などの面から対応が必要と考えた。

 21年に市内中学校校長会で制服変更の必要性について協議を開始。翌年5月に実施した、中学校の保護者692人を対象にした制服に関するアンケート結果を基に、PTAなどから意見を集約した。制服変更に後ろ向きの学校が少なかったことから、制服検討委員会を組織して進めていくことにした。

 制服の価格を抑えたものにしたいとの声も多かった。このことから、スケールメリットを生かすため、市内統一型の制服を取り入れることにした。

 23年9月、中学校の校長5人、教職員代表5人、市内小学校の5年生の保護者代表13人に加え、オブザーバーとして同市教育委員会担当者1人で構成される「第1回井原市中学校制服検討委員会」にて、25年度に新制服を導入することを決めた。

 同年12月のコンペには4事業者が参加。同委員会での採点に加え、5中学校に制服モデルを巡回させ、生徒による採点も実施した。この結果、総合点の高かった菅公学生服の提案が採用されることになった。

 新制服はブレザータイプとなる。ブレザーには前合わせを左右自由に変えられる男女共通デザインを取り入れた。さらにボトムスは男子と女子の2タイプのスラックス、スカートに加え、キュロットタイプもそろえる。

 ブレザーはニットタイプで、ストレッチ性が高く動きやすい。さらに家庭で洗濯が可能なことに加え、シワになりにくい。

 同市は国内有数のデニムの産地でもある。ボトムスには「デニム風の青を基調とした柄を取り入れた」(岡山菅公学生服担当者)。学校の独自性を表現する各校のオリジナルワッペンは、同市で生産された綿100%のデニム製だ。デザインは各校の生徒が考えた。

 来春入学予定の新入生267人が着用する。