特集 快適・衛生機能の繊維(2)/生活をより豊かに変える素材・加工・製品
2024年05月30日 (木曜日)
〈用途広がる消臭や制菌加工/デオドラント需要を深耕/シキボウ〉
シキボウでは消臭加工「スーパーアニエール」や、制菌加工「ノモス」の用途が広がっている。以前はGMSや量販店向け衣料、ユニフォームなど限られた用途に使われていたが、最近では消臭や制菌に対する加工への関心の高まりによって、ファッションアパレルでも“デオドラント加工”として広く使われるようになってきた。
スーパーアニエールはアンモニア臭などアルカリ性や、イソ吉草酸などの酸性の幅広い臭いに対応。繊維が臭気成分に触れることにより不快臭を減少させるとともに、洗濯によって消臭が回復する。昨年、汗臭だけでなく尿漏れ臭に効果がある「スーパーアニエールP」、ストレス臭に効果のある「スーパーアニエールS」を打ち出した。
フェムテック対応とし経血に含まれる臭い成分を吸着、中和できる消臭加工「フェミュー」もショーツなどに採用され、販売実績が増えてきた。
工場や産業廃棄物処理場などのさまざまな現場で採用されている臭気対策剤「デオマジック」では近年、大量発生で話題のカメムシの臭いに対しても「効果的な部分があるかもしれない」として検証を進める。
ノモスは黄色ブドウ球菌、肺炎カン菌、大腸菌、緑膿菌などに有効で、洗濯を100回繰り返しても99%以上の減菌効果があることから、インバウンドで需要が高まるリネンサプライ関連へも使える。ポリエステル高混率素材に対しても加工でき、ユニフォームを中心に幅広い用途へ提案できる。
〈快適と環境両立/フェムテックでも拡大/レンチング〉
レンチングの再生セルロース繊維「テンセル」の快適性と環境に優しい特性への注目が改めて高まってきた。最近では社会的にも注目が高まるフェムテック製品でもテンセルの採用が拡大している。
テンセルは、適正管理された森林資源による木材パルプを原料とし、厳正に管理された化学的プロセスによって製造されている。このため環境に優しい天然由来の再生セルロース繊維として豊富な実績を持つ。特に最近ではテンセルの優れた吸放湿性への評価が改めて高まっている。
このため環境配慮と快適性を両立する繊維素材として高い評価が続いており、フェムテック製品など新たに登場した製品カテゴリーでも採用が拡大した。
香港発の人気アンダーウエアブランド「Tani」(タニ)もテンセルを積極的に採用するブランドの一つ。今月1~14日には阪急メンズ館大阪(大阪市北区)でレンチングと協力して期間限定店を開いた。テンセル使いの商品を前面に打ち出した。SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みも紹介したほか、アーティストとのコラボレーションも披露。こうしたブランドのコンセプトに最適な素材としてテンセルへの評価が高まっている。
〈ダイワボウレーヨン/練り込み技術生かす/難燃レーヨンに消臭など付与〉
ダイワボウレーヨンは、得意の練り込み技術を生かし、快適や衛生に焦点を当てた機能レーヨン短繊維を多彩にラインアップしてきた。最近では防虫や消臭などの機能レーヨンへの引き合いが海外を中心に増えている。
快適や衛生に焦点を当てた機能レーヨンで、特に最近引き合いが増えているのが防虫機能レーヨン「バグノン」。練り込む機能剤は香料として一般的に使用されているケイ皮酸誘導体を応用しているため安全性も高い。特に海外からの引き合いが多い。東南アジアなどでは蚊が媒介する感染症が多いだけに、防虫機能への関心が高い。
もう一つ国内で提案に力を入れているのが難燃レーヨン「DFG」に抗菌防臭や消臭などの機能を付与したタイプ。難燃レーヨンはユニフォーム用途が中心となるが、こうした用途でも着用者の快適性や衛生状態改善のニーズが高まっている。また、強力消臭機能レーヨン「ATL」も海外中心に提案を進めている。
機能レーヨンは従来、衣料用途を中心とした紡績用での採用が多かったが、ここに来て不織布製品でも機能レーヨンに関心を寄せる動きが一部にある。このため紡績用途と不織布用の両方に対して積極的な提案を進め、機能レーヨンのさらなる普及を目指す。
〈抗ウイルス×接触冷感/“ワンランク上”のソックスを/ハラダ〉
靴下製造卸のハラダ(奈良県桜井市)は10~20代の女性をターゲットとしたファッションソックスを主力とする。SNSで強い影響力を持つインフルエンサーと組んだ商品プロモーションを得意とし至近2年は過去最高業績が続く。
若い女性向けのファッションソックスでの華々しいヒットだけでなく、近年、機能ソックスの売り上げも着実に拡大させている。新型コロナウイルス禍が始まった2020年に発売した、独自の抗ウイルス加工を施した靴下「デオゼロ」(写真)は新たな需要を掘り起こした同社の代表的な機能商品だ。発売以降、毎年底堅く売り上げを伸ばし、今では子供から大人まで幅広い世代に合った商品展開となっている。
原田慎太郎社長は「当社はトレンド重視のファッションソックスがメインだが、機能商品も欠かせない存在となっている」と強調し、その理由について「機能という付加価値で単価アップが期待できる」と話す。靴下業界も原料高、製造・運送費の上昇、円安などコストアップ要因が山積しており、販売単価の引き上げが差し迫った課題だ。
こうした中で同社は従来の抗ウイルス機能にさらに機能を重ねた“ワンランク上”の製品で単価アップを狙う。現在、抗ウイルス機能商品に、肌にひんやりと冷たく感じる繊維を使って接触冷感機能を加えた靴下を開発中。25春夏に販売する予定だ。
〈ハイブリッド触媒に新機能/吸水涼感、防ダニなど/サンワード商会〉
サンワード商会(大阪市中央区)のハイブリッド触媒「ティオティオプレミアム」は、多機能性を生かしながら用途を広げている。現在はマスクなど新型コロナウイルス禍での特需が沈静化したが、フィルターやユニフォームなどが堅調で、販売数量は横ばいを維持する。今後も新しい提案を加えて用途を広げていく。
ティオティオプレミアムは、大阪大学産業科学研究所と共同開発したハイブリッド触媒で、抗菌、消臭、抗ウイルス、帯電防止などの機能を持つ。近年はこれらの機能に吸水涼感や吸湿発熱、防ダニ、撥水(はっすい)などの機能を加えた新タイプも拡充している。
既にマスク用などでの動きは落ち着いたが、引き続きユニフォームや学生服などが堅調で、フィルターや車輌などの用途も伸びている。新機能を加えた商品では、吸水涼感タイプや吸湿発熱タイプなどが人気で、秋冬物では従来の機能である帯電防止性への注目も高まっている。海外展開も伸ばす考えで、まずは空調フィルターでタイへの輸出が始まった。
ティオティオプレミアムは多くの機能を持つが、特に消臭や抗菌への注目が高まっている。新たな開発も進めており、ストレス臭の消臭や防カビなどの性能確認も進めている。
SDGs(持続可能な開発目標)を視点にした提案も重視する。特に消臭を訴求する分野では、ティオティオプレミアムにより、洗濯での洗剤使用量や容器の廃棄、排水などの削減につなげようとする動きもあると言う。