特集 メンズインナー&ソックス(1)/市場の変化捉え好機つかむ/インナーでヒット商品も

2024年05月27日 (月曜日)

 メンズのインナー・ソックス市場は、昨年の新型コロナウイルス感染症の5類移行を経て回復基調をたどっている。全体としては厳しさも残るが、インナーではヒットと呼べる商品が登場し、ソックスも売れ筋商品が出てきた。これらは男性の嗜好(しこう)や時代の流れをうまく捉えたものだ。市場は変化の時を迎えており、好機が訪れている。

 メンズインナーの国内市場は2300億円程度と推定されている。2023年はほぼ前年並みとみられているが、中長期的観点では漸減傾向が続くと予想される。全体として厳しい状況からは脱し切れていないが、ヒット商品が登場するなど、明るい話題も出てきた。

 代表例がワコールの「レースボクサー」やグンゼのTシャツ専用インナーで、潜在需要の掘り起こしに成功した。レースボクサーは見た目の美しさと機能の融合が評価され、Tシャツ専用インナーも「白Tシャツが透けない」というエチケットがキーワードの一つになった。

 ソックス市場に目を転じると、コロナ禍前の60~80%の水準とされるなど、まだまだ厳しい状況の中にある。ただ、百貨店のビジネスソックスが復調の兆しを見せつつあるなど、ポジティブな動きも見える。

 販売が順調に伸びている企業・ブランドもある。いずれもモノ作りにこだわった比較的価格の高い商品で、「高感度・高品位」「インバンド需要」「新しい売り場」といったキーワードが浮かび上がってくる。

〈子会社と連携深める/独自ブランドの認知向上も/アツギ〉

 アツギは、子会社のレナウンインクスとの連携強化によって紳士インナーウエアカテゴリーを拡大する。レナウンインクスが企画した商品をアツギが持つ販路で展開することで成長につなげており、2023年度(24年3月期)の販売は前年を上回った。今年度も増販を目指す。

 レナウンインクスの商品では、ライセンスブランド「プレイボーイ」のインナーが順調で、24春夏物で販売を始めた“ちょい漏れ対応”のトランクス・ボクサーの注目度も高い。そのほか、「キースへリング」や「ヒロココシノ」などの販売も伸びている。

 アツギの独自ブランドでは「みんなの、みんなの。」を展開している。24春夏では14店舗で期間限定店展開が決定(実施済み含む)している。4月に開いた有楽町マルイでは「優しさだけでつくったパンツ」(紳士ボクサー)が一番人気となり、前後表裏のないTシャツも好評を博した。

 みんなの、みんなの。は、ブランド・商品の認知拡大とリピーターの獲得が第一義。ウェブ上の施策や期間限定店で商品の魅力を伝えていく。

〈専用レースのボクサーパンツ/美しさと機能性両立/ワコール〉

 ワコールの紳士アンダーウエア「ワコールメン」の販売が順調だ。「レースボクサー」などがけん引し、2023年度(24年3月期)は全体で前年比24%増だった。自社電子商取引(EC)サイトのワコールウェブストア、百貨店店頭、専業ECで前年を上回った。

 レースボクサーは、レース素材を使うことで美しさと機能性を両立したボクサーパンツで、21年12月に販売を開始した。現在はシリーズにブリーフタイプやユニセックスモデルがそろう。新規顧客とリピーターを獲得し、23年度の販売はシリーズ全体で76%増を記録した。

 婦人下着で使用しているレースの転用ではなく、専用のストレッチレースを開発した。「レース自体の美しさに加え、通気性をはじめとする機能性を同時に訴求した」ことが需要の獲得につながった。

 そのほか、エイトウエーストレッチとフリーカットが特徴の「気持ちいいパンツ」、ファッションブランド「N.ハリウッド コンパイル」と協業したボクサーパンツの販売も伸びている。

〈Tシャツ専用インナー好評/汗対策の新製品も注目/グンゼ〉

 グンゼは、Tシャツ専用インナー「in.T」(インティー)の販売が好調に推移している。24春夏物も電子商取引(EC)を中心に大きく伸長している。24春夏は汗に焦点を当てた新製品「アセドロン」の打ち出しなども注目を集めている。

 インティーは、汗染みや臭いの軽減、白Tシャツが透けにくくなる、Tシャツからはみ出しにくい、Tシャツが長持ちするといった特徴を持つ。2019年の販売開始以降着実に浸透し、24春夏は70%の伸びを示していると言う。

 一つのカテゴリーと言えるまでに成長してきた。同社は「高止まりすることなく、ずっと右肩上がりで販売が増えている。全ての男性が着用しているわけではないのでまだ販売拡大が可能」と強調した。

 アセドロンは、独自の汗解消テクノロジーによる新ファンクションブランド。生地には、吸湿性が高く滑らかなレーヨンとドライ感の強いポリエステルを使用しており、さらっとした触感が持続する。紳士ではTシャツや靴下などを展開する。

〈新ブランド続々/電熱ヒーター搭載/アズ〉

 アズは24秋冬、コメの保湿成分を後加工で付着させた「ライスメティックス」や保温性能、蓄熱性能を引き上げた「まるで」シリーズ、電熱ヒーターを活用したベストなどの「ヒータードラゴン」といった新ブランドを重点的にプロモートする。

 ヤング層を中心に保湿や美容に関心を持つ男性が増えていることから、ライスメティックスを企画した。保湿効果とともに滑らかで優しい肌触りを訴求する。

 まるでシリーズには「まるで着るカイロ」と「まるで着る魔法瓶」があり、Tシャツやパンツなどで展開。カイロには光蓄熱機能のあるフィルムでプラス3℃の保温性能を持たせた。

 魔法瓶には内側に軽くて断熱効果の高いポリプロピレンを、外側にピーチ起毛を施し熱を逃がしにくくした。

 ヒータードラゴンはベストの背中に搭載された薄膜(カーボンナノチューブ)の温度が別売りのバッテリーによって数秒で50℃超まで上昇し着用者を温める。折り畳んでも断線の心配がなく洗濯機で洗えるなど既存品との違いをユニフォーム系の販路に訴求する。

〈プラス10℃の薄手肌着/24秋冬に向け増強/平松工業〉

 平松工業は暖冬で防寒アイテムが苦戦したことから、24秋冬商戦には薄手のアイテムを重点的に投入する。この一環として、プラス10℃の保温効果が得られる新ブランド「サーモラップ」を企画した。

 サーモラップにはカーボン練り込みのポリエステルで蓄熱保温性能を持たせた。温度が10℃上がるとのデータが得られている。

 ポリエステル/ポリウレタンによるベア天竺を採用しており、生地の目付が110グラムと春夏アイテムのような薄さが売り。

 東京・大阪で開いた展示会では「かなりの受注がついた」としており、レディース向けも含め10万枚をめどに作り込みを進めている。

 また、24春夏から販売を開始した「風で紡ぐ糸」による肌着の販売が「好調」なため、24秋冬に向けて増産体制を敷いた。

 伊藤忠商事が風で紡ぐ糸を展開しており、紡績糸の生産時、火力発電由来の電力だけでなくグリーンエネルギーである風力発電由来の電力を使用することでCO2排出量の削減を目指すとしている。