産資・不織布通信Vol.11

2024年05月24日 (金曜日)

 繊維素材企業にとって産業資材分野の重要性が年々増している。ただ、衣料用が中心の繊維素材企業はどうアプローチすれば良いのか。手法の一つが展示会への出展。8~10日、インテックス大阪(大阪市住之江区)で開催された「第12回高機能素材Week大阪」のサステナブルマテリアル展(大阪)など各種展示会には新たな出会いを求め、さまざまな企業が出展した。

《非衣料の開拓に挑戦/高機能素材Weekより》

〈紡績技術で産業資材へ/産資伸ばすには情報発信〉

 紡績技術の産業資材への応用は多くないが、東洋紡せんいはこの数年挑戦を続けてきた。その一つの形として完成させたのが、熱可塑性炭素繊維複合糸「CfC yarn」だ。炭素繊維と熱可塑性のナイロン6長・短繊維による3層構造糸で、熱可塑性炭素繊維複合材料(FRTP)の課題である含侵性が高く、高強度を実現した。

 コットンによる強化プラスチックも同社ならでは。これまでは熱可塑性樹脂と綿紡績糸のUD(単一方向性)シートとの複合材だったが、このほど熱硬化性樹脂使いで織物との複合品も開発した。竹繊維と綿との混紡糸によるUDシート使いについてもトライアル中という。

 染色加工場も一部を除き産業資材向けは少ない。小松マテーレはさまざまな産業資材分野を手掛けるが、どうしても衣料用のイメージが強い。このため、非衣料、産業資材を伸ばすには情報発信が重要と判断。その一環でサステナブルマテリアル展(大阪)に出展した。

 さまざまな製品を提案したが、イチ押しは環境配慮型耐久合成皮革「ビオ ディマ」。表皮のウレタンの一部に植物由来(最大50%)を使用する。これに食品残さを着色剤に活用したタイプや赤外線を吸収しにくく、表面温度の上昇を抑えるタイプ(+コマクール)なども加えた。「ビオ ディマ+コマクール」は自転車のサドルなどで既に採用されているという。

〈編み地のような不織布/銅イオンパルプを繊維に〉

 短繊維不織布製造の西川ローズ(滋賀県甲賀市)は、独自のステッチボンド不織布「フレックスニット」の訴求を強めた。具体的な製品で紹介したが、家電製品や照明器具のカバーなど面白い提案を行っていた。

 一方で、展示会ではあまり訴求していなかった自動車内装材向けも改めて紹介した。自動車メーカーの若手デザイナーにとっては、ステッチボンド不織布が新鮮に感じる可能性があるとの判断だ。

 創業102年のボタン製造のクラウン工業(奈良県大和高田市)は、金型から成形まで一貫生産の特徴を生かし、厳しいアパレル用以外の開拓に取り組んだ。

 逆に繊維分野の開拓を狙ったのはパルプなど製造の日本製紙。銅イオンを担持させたパルプ「シーユートップ」を紹介した。エアレイド不織布や湿式不織布、紙糸など繊維関連での製品を数多く並べた。

 シーユートップは抗菌性、抗ウイルス性、消臭性などの機能性を持つ。エアレイド不織布は金星製紙(高知市)が完成させており、湿式不織布は子会社の日本製紙パピリア(東京都千代田区)が商品化する。紙糸は布巾や靴下など製品を並べた。同社では繊維分野に使われることでボリューム化につながると期待する。

《産資の期待株/ミライ化成/炭素繊維複合材を再生》

 炭素繊維複合材料(CFRP)は軽く、強く、腐食しない先端材料だ。その特性を生かして航空・宇宙、スポーツ、各種産業資材で使われる。一方、炭素繊維は原料となるアクリルトウ(プリカーサー)を焼成するので製造時のエネルギー消費が多い。樹脂と複合するため、廃棄も埋め立てや産業廃棄物処理が中心となる。

 炭素繊維複合材料をリサイクルできれば、製造時の使用エネルギーを抑え二酸化炭素の削減が期待できるため、数多くの企業が開発に取り組む。その1社が三谷産業(金沢市)のグループ会社で化学品や食品添加物など販売のミライ化成(長野市)だ。

 同社は2020年に再生炭素繊維事業の基礎研究に着手、21年には研究開発・少量試作を行う、三沢LAB(青森県三沢市)を開設した。23年には新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム(追加公募)」実用化開発フェーズで、「再生炭素繊維不織布を利用した高効率CFRTP(熱可塑性炭素繊維複合材料)加工技術の開発」が採択されている。

 同社の劔知孝循環型CFRP開発課長によると、「複合材料の工程端材や廃材を分別・カット(一定の繊維長)した後、薬剤を使った溶媒法で樹脂を溶かし、炭素繊維のみを取り出す」。取り出した炭素繊維を100%使い不織布化・成形し製品化する。紡績糸も可能だ。ポリプロピレンやポリエステルなどの熱可塑性樹脂を配合したペレットで、射出成形、押出成形の開発も進める。

 先日開催された「高機能素材Week大阪展」の「第4回サステナブルマテリアル展(大阪)」に出展し、再生炭素繊維の技術をアピールした。NEDO採択で導入を予定するレーザー加工機の販売元である、三菱電機のブースに同じく導入する成形機メーカーの放電精密加工研究所などと共同出展だったが、多くの来場者が関心を示した。

 ブースでは炭素繊維のリサイクル工程を紹介するとともに、ナイロン6樹脂複合のプリフォーム、レーザー加工品やプレス加工品、可とう性型エポキシ樹脂を含侵したフェイクレザーのサンプル(メモ帳カバー、カードホルダー、キーホルダー)も展示。再生炭素繊維の今後の広がりを期待させた。

《トピックス》

〈漁網回収でチリ合弁/アクアフィル〉

 イタリアの再生ナイロン繊維メーカーのアクアフィルは先ごろ、チリのリサイクル企業、アタンド・カボスと合弁会社、ACCAを設立した。

 ACCAはチリのロス・ラゴス、ビオビオ、アイセン各地域から古い漁網の回収と選別などを行い、アクアフィルの再生ナイロン繊維「エコニール」の製造に活用する。処理能力は第一段階が年間2500トン。

 アクアフィルは漁網や養殖網のリサイクル企業、スウェーデンのNofirと共同で同様の取り組みを欧州でも行う。アクアフィルはNofirに出資しており、そのノウハウを生かす形で、チリでの新会社を設立するに至った。アクアフィル・グループのジュリオ・ボナッツィCEOは「ACCAはエコニールの能力を拡大することにつながる」と抱負を述べた。

〈ニッケ傘下で社名変更/カンキョーテクノ〉

 東洋紡エムシーのフィルターバグ製造子会社、東洋紡カンキョーテクノ(大阪市中央区)は4月17日付でニッケが買収したことに伴い、「カンキョーテクノ」に社名変更した。

 ニッケは中長期ビジョンで自動車・環境関連事業を産業機材事業分野の成長ドライバーと位置付けており、買収はその一環。カンキョーテクノは、1947年に三重繊維工業として創業した。旧新興産業や短繊維不織布製造の呉羽テック(滋賀県栗東市)の出資などを経て、97年に東洋紡が100%子会社化。2023年4月の東洋紡エムシー設立で、同社の子会社となっていたが、事業の選択と集中の一環として、ニッケへの譲渡となった。

 特に、フィルターバグ(ろ過布)製造で知名度が高く、岡山工場(岡山市)で生産する。

〈2年連続の減産に/23年のタイヤコード生産〉

 経済産業省の生産動態統計によると、2023年のタイヤコード生産量は前年比9・4%減の1万8057トンだった。2年連続の減産で、17年(3万1581トン)比では42・8%減となっている。

 ただ、日本自動車タイヤ協会によると、23年のタイヤの原材料消費量のうち、繊維製タイヤコードは0・5%増の5万5935トンだった。一方で、スチール製は4・3%減の21万2904トンとなった。

 繊維製タイヤコードの内訳はレーヨン8・7%減の1975トン、ナイロン0・6%減の1万4335トン、ポリエステル1・5%増の3万9281トン、その他3・1%減の344トン。

 タイヤはゴム(天然・合成)、補強剤(カーボンブラック、シリカ)、タイヤコード、配合剤、ビードワイヤーなどで構成され、タイヤコードは全体の約14%を占めている。