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生地商社/海外市場開拓待ったなし/国内向けは付加価値化へ

2024年05月17日 (金曜日)

 生地商社各社が改めて輸出拡大への意気を高めている。輸出に有利に働く昨今の記録的な円安傾向に加え、新型コロナウイルス禍が収束すると同時に発生したリバウンド消費が一気に減速するなど国内アパレル市況が著しく低迷期に入ったことが背景にある。この市況低迷を受け、各社の売り上げ、利益計画は共に、一部の例外を除き慎重な数字が並ぶ。「数量はもう追えない」との声も相次ぐ中、活路は付加価値化による単価上昇と海外市場開拓になっている。(吉田武史)

 一昨年ごろから欧米中のアパレル市況低迷が伝えられてきたが、日本の生地商社による海外市場向け販売はおおむね堅調だ。双日ファッション(大阪市中央区)は2024年3月期で中国など海外市場向けを拡大させた。コスモテキスタイル(同)も積極的な海外展出展が奏功して、「分母はまだまだ少ない」ながらも伸ばした。

 海外市場向けが売上高の95%を占めるデビス(同)の23年12月期売上高は8・2%増の106億円だった。納期遅れによる機会損失が多発しながらも伸ばした。欧州は消費低迷の影響で減らしたものの、米国向けや中東向け、豪州向けなどが拡大した。

 スタイレム瀧定大阪(同浪速区)の24年1月期海外市場向けも、納期遅れによる機会損失が発生したが、欧米、中東、中国など各国・地域で10%以上の伸びとなった。

 柴屋(同中央区)も23年1月期で輸出売上高を前期比4%伸ばした。小口が大半だが、欧、米、中向けがバランス良く伸びた。北高(同)の同期海外市場向けは横ばいだった。米国や中東、アジア向けは拡大したが、欧州向けと豪州向けが苦戦した。

 宇仁繊維(同)の上半期(23年9月~24年2月)の輸出売上高は前年同期比でやや落ち込んだが、前期が絶好調だったことの反動であり、心配はしておらず、今後も伸ばしていく方針に変わりはない。

 全社が引き続き海外市場向け拡大を重点方針に位置付けている。国内市況が急激に冷え込んだことも関係しており、「成長戦略は海外でしか描けない」という声すら出る。「作りすぎ、売り残しは悪」という価値観が浸透する中で数量拡大が見込めない国内向けは、定番から付加価値系生地への置き換えが進む。それにより単価を上昇させ、利益率を高めようという狙いがある。

 海外市場向け拡大については、語学堪能なスタッフの採用を各社が狙っている。「中途採用を増やしていく」という声が各生地商社トップから聞かれ始めたのは、海外人材を求める流れの表れでもある。

 欧米や中国、ベトナムでの生地見本市に参加する企業も目に見えて増えており、課題は多く「行うは難し」とはいえ、日本の生地商社による海外市場開拓は今後も勢いを増しそうだ。「備蓄販売機能が強みになる(はず)」という見解も各社で一致する。