LIVING-BIZ vol.106(4)/フレスコ/30周年/「ふとんは洗って使う」を常識に/清潔保ち快適、健康

2024年05月16日 (木曜日)

 ふとん丸洗い事業を全国展開しているフレスコ(大阪市中央区)は今年、設立30周年を迎えた。「ふとんは洗えない、洗ってはいけない」という寝具業界の常識に挑み、ふとんの丸洗いの洗浄システムを開発、普及させてきた。清潔なふとんで快適、健康に過ごせる社会の実現を目指してきた同社の軌跡を紹介する。

〈素材別も確立〉

 フレスコ誕生のきっかけは、1982年までさかのぼる。同年2月に起きたホテルニュージャパン火災後、不特定多数の人が利用する施設には防炎寝具が必要になると見込んで、鐘淵化学工業(現カネカ)と山一(大阪市西区)が防炎寝装品開発チームを発足。商社の山一の原綿販売有力先で寝具製造や基準寝具のリースを手掛けていた井戸太蒲団店(奈良県天理市)も開発に関わった。

 防炎商品には日本防炎協会の防炎認定ラベルの縫着が義務付けられているが、病院の貸しふとんに血痕が付着して返却された場合、従来のように仕立て直しでは認定商品にならず、洗って再納品することが必要となる。そのため、井戸太蒲団店の前田正一郎社長(フレスコ初代社長、現会長)は、メンテナンス方法としてふとんの丸洗いシステムの開発に着手した。

 前田社長には「ふとん屋として寝具が汚れたまま使われている状況を何とか変えたい」との思いも強かった。86年に井戸太蒲団店工場内にふとん丸洗い工場(現フレスコ天理)を建設。同年アイナックス(現アイナックス稲本)と洗濯脱水機、91年に晃栄興業と平面連続乾燥機(実用新案取得)を共同開発した。

 当時、ふとん丸洗いを手掛けているクリーニング業者もあったが、中わたまでしっかりと洗うと繊維が傷み、ふとんが乾かないとのことで、ふとんの表面を洗い、中まであまり濡らさない洗い方が常識だった。井戸太蒲団店が開発した丸洗いは、中わたまでしっかり洗って清潔にする点で画期的だった。

 今では広く取り入れられている“すし巻き”もその一つ。ふとんを洗う前に巻きずしのように巻くことで中わたの空気が抜けて水が入りやすくなり、しっかり洗える。洗濯脱水機は、激しくもんだりたたいたりといった力は加えない低速回転で洗浄し、ふとんの中わたまで水に漬け込んで汚れを溶かし出す。さらにふとんを動かさずに静止乾燥する平面乾燥機による乾燥工程でも傷まないように工夫する。工場内の「汚い、きつい、危険」のいわゆる“3K”もできる限り取り除くことができた。

 後に独自開発した10種類を超える洗剤、仕上げ剤のバリエーションを組み合わせてふとんの素材別に適した洗い方、染みがあるふとんに自社開発した皮脂用洗剤と酵素材を前処理工程で塗布する方法も確立した。

 ふとん丸洗いのシステムの構築にめどが付いた頃に、前田社長が出会ったのが、第二電電(現KDDI)を共同創業し通信業界に革命を起こした実業家の千本倖生氏だ。奈良ロータリークラブの例会に講師として訪れた千本氏と交流を重ねる中で、自社の仕事について「そんなのは仕事じゃないよ。少なくとも全国を相手にしなきゃ」と言われ、一念発起。「良いパートナーを見つけることだよ」とのアドバイスももらい、出会ったアパレルの藤井(大阪市)と合弁で94年にフレスコを設立した。

〈全国に洗浄システム広げて〉

 フレスコは、ふとん丸洗いシステムを全国に普及させるため、ふとん丸洗いの新技術とウオッシャブルふとんを開発・提供する「フレスコウォッシングシステム」を軸に、丸洗いに関する機器・薬剤・ウオッシャブルふとんの研究開発と関連商品の物品販売、ふとん丸洗いの仲介業務などを担う。

 96年に同システムを推進するネットワークとして商社や合繊メーカーも参画したフレスコサークル会を設立。97年には同システムを採用する提携工場の募集を始めた。98年に工場の受注活動を側面支援する目的で、ふとん3枚を1万円で丸洗いする個人向け宅配サービスを自社インターネットと通販で始めるなど積極的に事業展開した。

 同社の主な収入源は、提携工場への洗濯機器の販売や仲介、洗剤などの関連消耗品の販売、個人顧客の注文仲介などになるが、99年2月期まで赤字決算が続いた。

 ふとんを洗う習慣があまり普及していなかった中で厳しい経営が続いた時期もあったが、経営理念に掲げる「寝具の清潔性を追求し安全で快適な睡眠環境を創ることで一人でも多くの人の健康に貢献する」思いは一貫してぶれることがなかった。

 2002年8月にダスキンと業務提携するなど広がりを見せ、経営が安定。同システムを採用した認定工場は現在、直営2拠点を含めて20工場に上る。

 洗えるふとんの開発にも積極的に取り組んだ。94年に耐洗濯回数30回をクリアした基準寝具(病院用)「ウォッシャブルふとん」の販売を始め、98年に東洋紡のクッション材「ブレスエアー」を採用したウオッシャブルマットレスを開発。99年には業界に先駆けてサークル会でウオッシャブルふとんの品質基準を策定し、洗えるふとん作りに貢献してきた。

〈エネルギー削減でSDGs〉

 そして現在、フレスコの創業時からの考えが時代とマッチする。同社のふとん丸洗いは、SDGs(持続可能な開発目標)の点からも適している。30年以上丸洗いしながらリースし続けている寝具が多数あり、最新の化繊ふとんは耐洗濯回数が数百回に上る。自社テストでは、羽毛ふとんを100回洗っても問題がなく、丸洗いでふとんをメンテナンスすることで長く使えることを実証している。

 洗い工程でも省エネルギーに貢献する。平面乾燥機を導入して上部から熱風を流し、下部で吸引して暖気の約80%を循環させることで、タンブラー乾燥と比べてエネルギー使用量が2分の1~3分の1になる。同システムでも、ふとんをふっくら復元するためにタンブラー乾燥を併用するが、平面乾燥機の工程を入れることで乾燥効率を高め、タンブラー単体での乾燥と比べて、トータルエネルギーを削減できる。

 水の使用量も、一度に数十枚単位で洗えるため、1枚当たりで換算すると、コインランドリー、家庭用洗濯機と大きく変わらないと説明する。

 15年に父の正一郎氏から後を継いだ前田正芳社長は、ふとんが洗えるコインランドリーや、衣類以外のクリーニングに力を入れる業者が増えていることに触れ、「さらに市場が拡大していく状況が始まった」と歓迎しながら、中わたまでしっかり洗える高品質、かつ省エネで量産が可能な同社の丸洗いの優位性を説く。「フレスコウォッシングシステムを普及させ、日本中の寝具を清潔にし、皆さまの健康に貢献していきたい」と前を見据える。