繊維ニュース

特集 コットンの日(1)/人を優しく包む天然繊維

2024年05月09日 (木曜日)

 明日5月10日は日本紡績協会が提唱する「コットンの日」。環境配慮やサステイナビリティーへの関心の高まりで、綿(コットン)の良さに対する認識が向上しつつある。人類の歴史に多大な貢献をしてきた綿について改めて知るとともに、これからの綿の未来を見つめていきたい。

〈広がる市場と環境配慮〉

 米調査会社のテクナビオによると、世界の綿花市場規模は2023年から27年にかけて79億7千万米ドル増加すると推測されており、年3・08%の成長が見込まれている。

 綿花産業にはさまざまな用途があり、年間約500億ドルの市場規模を誇るとされる。アパレルをはじめ、さまざまな用途で使われ、副産物として綿実油の需要も多い。綿花は70カ国以上で栽培され、1億人の家族農家に雇用をもたらし、特に発展途上国にとって重要な収入源となっている。

 綿は多用途の天然繊維であり、世界の繊維生産量の3分の1を占める。うちアパレルが64%、家庭用家具が28%、産業用途が8%となっている。

 綿花の中でも特に米綿は安全で持続可能な生産体制を整えており、農法のハイテク化で環境負荷の低減を進めてきた。

 国際綿花評議会(CCI)によれば、1985年から35年間で、米国の綿花生産者は水使用量を79%、エネルギー使用量を54%、温室効果ガス(GHG)排出量を40%、土地利用を49%削減。最小限の耕起、GPSなどを活用した精密農業、冬季被覆作物の栽培などの実践に努めてきた。これにより土壌の健康状態の損失と侵食がエーカー当たり37%削減され、土壌炭素レベルも増えたという。

 20年から始まった米綿のサステ・トレーサビリティー検証・認証システム「USコットン・トラスト・プロトコル」も広がりを見せる。CCIの「コットンUSA」マークはライセンス基準を変更し、USコットン・トラスト・プロトコルへの加盟が必須となっている。

 ただ、発展途上国では米綿と同じような取り組みは難しく、生産での課題が多い。水と農薬の削減と労働環境を整えるための国際団体が運営するプログラム「ベター・コットン」(旧BCI)といった認証も今後、ますます重要性を増してくる。

〈23年の綿花輸入/12万俵台に大幅減〉

 日本綿花協会によると、日本の2023年の綿花輸入高(通関ベース)は12万6497俵(前年比35・7%減、1俵=480ポンド)と大幅減少した。22年に19万俵台まで回復していたが、国内紡績設備の減少や海外生産シフトが一段と進んだことで12万俵台に減少した。

 日本の綿花輸入は20年に新型コロナウイルス禍で減少に拍車がかかり15万俵台となった。ただ、コロナ禍収束による経済正常化で21年は増加に転じ17万俵台、22年は19万俵まで回復していた。このため23年は20万俵台回復への期待が高まっていた。しかし、前年までの積極的な輸入の影響で在庫調整局面に入るなど反動が生じたことに加え、紡績会社の構造改革による国内紡績設備縮小と海外生産シフトが一段と進んだことで、綿花輸入は大幅な減少となった。

 さらに世界的なインフレ高進によって原材料やエネルギー価格、加工費や人件費が上昇する中、コストダウンのために安価なポリエステルに需要を奪われている可能性もある。

 国別で見ると米綿が6万3162俵で36・1%減と最大の減少幅となった。ただ、シェアは50%を占めており、引き続き安定した供給力と品質への評価から日本にとって最大の供給国となっている。

〈強まるトレーサビリティーへの要望〉

 現在、欧州連合(EU)ではエコデザイン規則案の一環として、繊維製品で「デジタル製品パスポート(DPP)」の導入が検討されつつある。サプライチェーンの透明性の確保に向けた動きが加速する中、国内の紡績各社でも米綿や豪州綿使いであることをアピールし、品質や安全性を協調する動きが強まっている。

 シキボウの「サウステキサスコットン」は、サステな目標を掲げ数値管理された方法によって栽培された米綿の中でも、厳選したテキサス南部の綿を使った原糸となる。大和紡績は米綿100%使用の糸「テキサス7」を訴求。空気精紡の糸構造が生み出す爽快なドライタッチとボリューム感が特徴だ。

 近藤紡績所では、白度が高く環境にも配慮した豪州のBMP(ベスト・マネジメント・プラクティスコットン)使いの定番糸を今後の主力商品に育てる。

 フェアトレードで調達した綿花の普及を目指す動きも活発になってきた。シキボウは豊田通商、信友と連携し、国際フェアトレードラベル機構が認証したフェアトレードコットンを8%以上混綿した糸「コットン∞」(コットンエイト)を展開。ビジネスシャツやカジュアル製品に採用されるなど少しずつ広がりを見せる。