春季総合特集Ⅲ(9)/Topインタビュー/豊島/社長 豊島 半七 氏/非繊維の業界とつながりを/「点」で終わらない協働模索

2024年04月24日 (水曜日)

 豊島は今後もサステイナビリティーを意識した商材の提案を継続する。業界内ではいち早くサステな取り組みを手掛けてきたという自負があり、今後も独自に進化させた商材を開発することで他社の先を行く。豊島半七社長は「価格面での課題はあるが、やり続けることで潮目が変わると信じている」と強調。サステな取り組みを高付加価値化の一つとして捉え、「顧客に提案して、きちんと納得してもらえるようにすることが重要」と語る。ライフスタイル提案商社として異業種の開拓にも引き続き力を入れるほか、海外販売も軌道に乗せることでさらなる飛躍を目指す。

――協働の取り組みを社内外問わず教えてください。

 当社が販売する機能素材で、大口の案件で2社ほど決まりました。検査や試験代などのコストはかさみましたが、営業を含めて丁寧な提案を心掛けたことで受注につながりました。これは営業だけの力ではなく、他の関係部署との協働があったからこそ成し得たことだと思っています。

 社外との協働については、今後は繊維とは全く異なる業界とつながっていければと考えています。どのように協働していくかなどは具体化していませんが、これまでのビジネスでは得られないような、さまざまな発見があるのではと思います。そのつながりを「点」で終わらせるのではなく、さらなる広がりを持って進めていくことが重要でしょう。

――今期(2024年6月期)の業績見通しはいかがですか。

 素材部門は減収減益となりそうです。相場で大きく乱高下することから綿花の先物取引の制限を進めており、その影響で200億円の減収を見込んでいます。糸や生地の販売は苦戦を強いられています。尾州をはじめとした国内産地は規模が縮小しており、商況も低迷していますからね。そういった厳しい環境下でも各部署は健闘していますが、苦戦を余儀なくされています。

 製品部門は減収増益を見込んでいます。既存よりもワンランク上の価格帯の商品が一定数の顧客に採用されたことが大きかったと言えます。素材や機能などの付加価値を高めた商品も決まりました。ただ、引き付け型の発注が増加していることや、3月の冷え込みなど気温の影響を受け、売り上げは伸び悩みました。国内では物流費の高騰などがあり、コスト面の工夫などをしていく必要があるでしょう。新規先の開拓を含めて今後の挽回策が求められます。

 当社全体では減収見通しです。利益面は前期を上回ることを期待したいですが、現状では不透明な情勢です。

――海外販売の状況はいかがでしょうか。

 昨年新設した海外販売推進室は輸出全般の仕事を増加させる目的のほか、三国間貿易の橋渡し役としての機能も備えています。現状ではこの推進室を軸としながら素材を中心に海外への攻勢を掛けていますが、売り上げ規模などを含めてまだまだ途上の段階です。

 海外の展示会へ出展するなどして、仕向け地の市場や顧客のニーズなどをさらに研究し、今後の提案や開拓に生かすことが必要です。

 先ほど話したように産地の疲弊で国内向けの素材販売は厳しいですから、海外向けをしっかり増やしていくことが重要です。

――異業種開拓について今後の方針や進捗(しんちょく)状況を教えてください。

 当社は異業種への豊富な知見があるわけでもなく、言わば素人ですから、かなり神経を使って取り組んでいます。特に食品やコスメティックなどは体内に入ったり、人体に直接触れたりしますし、電気製品についても人への安全性や耐久性などが重要となります。何か事故になっては大変ですから気軽に手を広げないようにしています。

 例えば食品に関しては国産に限って仕入れるなど、細心の注意を払っています。当社はメーカーではありませんので、仕入れ先を含めて信用できる会社と組んでビジネスを進めるようにしています。

 異業種の開拓は徐々にではありますが着実に進んでいます。今の店舗は単一の商品だけでなく、ワンストップショップのように他の分野を含めたさまざまな商品が並んでいます。それこそ、一つの店頭で衣料品や雑貨、コスメなどが販売されています。当社が行っている繊維を中心とした既存の商売から大きく離れているわけではありませんので、関連する売り先などへの横展開を増やしています。異業種と聞くと全くの新しい分野と思われがちですが、当社としては新しいビジネスをしているという感覚はありません。

――来年、オーガニック綿の普及プロジェクト「オーガビッツ」が20周年を迎えます。改めて今後のサステへの取り組みを。

 「テンセル」は35年前から展開していますので、環境配慮をはじめとしたサステな取り組みは以前から進めてきました。テンセルは植物由来のセルロース繊維で土に返ります。その後スタートしたオーガビッツは肥料などによる土壌汚染防止、「フードテキスタイル」は食品残さの再利用、そして近年では、海岸の漂着ペットボトルをリサイクルする「アップドリフト」や不要になった繊維製品を活用する「ワメグリ」などが登場しています。

 これまでも視点や発想を変えつつ、新たな素材の開発につなげてきました。サステな取り組みは他社よりも先行していますし、商品も充実していますので、追い付かれないように今後も独自の進化をさせた商品の開発や取り組みに力を入れていきます。

 一方でこうしたサステ商材はどうしても価格が高くなるため、なかなか採用が進まず、マスの商売になりません。ただ、1995~2010年ごろに生まれたZ世代と、それ以降に生まれたα世代には間違いなくサステが浸透しており身近なものになっていますので、いつか潮目が変わることを信じてやり続けることが重要でしょう。

〈最近のプチ贅沢/ネットでの買い物に夢中〉

 「ネットで当社のお客さんの商品を買っている」と話す豊島さん。最近はアウターやインナーを購入した。「その会社の自社電子商取引(EC)サイトを使い、なるべく定価で買うようにしている」と話し顧客の売り上げに貢献する。ネットと店頭での買い物は半々ぐらいだが、ネット通販に抵抗感はない。「一回買えばサイズも分かるので」と重宝しているようだ。ただ、サイトではお目当ての商品を探しきれないことも。「そんな時は営業の若い子に聞いている」と笑う。

【略歴】

 とよしま・はんしち 1985年豊島入社、90年取締役。常務、専務を経て、2002年から現職