春季総合特集Ⅲ(7)/Topインタビュー/クラレトレーディング/社長 山田 武司 氏/異分野との連携も重要/素材の拡充がポイントに

2024年04月24日 (水曜日)

 「繊維業界は先行きが混沌(こんとん)としているため、将来を考えた変化が必要」と話すクラレトレーディングの山田武司社長。企業の枠を超えた連携や協働の理由をこう分析する。一方、「異分野との連携も必要」と指摘。クラレグループが社内外と連携を推進するイノベーションネットワーキングセンター(INC)にも参画している。

――近年、繊維業界では企業の枠を超えた協働や連携が増えています。こうした動きの背景には何があるのでしょうか。

 通常、協働や連携は規模の拡大を目的としたものが多いのですが、繊維業界はその必要性が低いケースも少なくありません。やはり先行きが混沌とする中で、何もしなければダメになる。今は好調でも将来を見据えて変化しなければならないという考えの下で協働や連携が進められているのでしょう。特に販売機能の異なる協業があり得るでしょう。例えば川下中心の企業が素材メーカーと、素材メーカーが川下企業と連携するといった形です。

 当社の場合、これまで事業構造を改革することで川下シフトを進めてきました。このため素材がやや手薄になっている面があります。ですから、自社にない素材を持っている企業や、加工場を多く持っている企業との連携などあり得るでしょう。強いサプライチェーンを持っているアパレルとの連携も可能性があります。

 もう一つ、異分野との連携も重要になるでしょう。社内外で横串での開発などを進めることです。例えばクラレグループは現在、INCが中心となって社内外のリソースを連携させ、新たなイノベーションを創造する取り組みを進めています。これに当社も参画しており、具体的な成果も徐々に上がっています。ですからクラレとクラレトレーディングのグループ内での連携は強まっていると言えるでしょう。

 ただ、やはり素材ありきではなくマーケットインの発想がなければ連携も開発も成功しません。その意味でマーケットインの発想を連携や開発に持ち込むのがメーカー系商社である当社の役割となります。

――2023年度(12月期)は増益となるなど堅調な業績でした。

 19年度まで増収増益で推移していたのが20年度に新型コロナウイルス禍の影響で大きく落ち込み、21年度から再び増収増益基調が続いています。コロナ禍の影響も考え、20年度に在庫を大きく減らすなど改革したことが現在までの業績回復につながっています。また、ポートフォリオも大きく変えました。婦人服などファッション用途を大きく減らし、スポーツなど強みを発揮できる分野の拡大を進めました。さらに糸・生地ではなく縫製品での販売を拡大したことが現在の好調につながっています。これは学販ユニフォームも同様です。従来の体育衣料に加えて、介護分野にまで広げ、さらに縫製品での販売を増やしてきました。こうした流れは24年度も継続しています。

――24年度の課題と重点戦略は。

 24年まではこれまでの流れが継続し、増収基調を維持できるとみています。しかし、戦争や為替、金利など不確定要素が非常に多い。特に為替は懸念材料です。繊維事業は海外調達が多いため、円安が過度に進むと打撃となります。一方、スポーツ分野などは引き続き堅調に推移し、化学品を中心に中国市場も徐々に回復に向かっています。

 繊維事業は現場が頑張っており、用途に横串を通した新規開発などを進めています。また、縫製品はまだ伸ばせるでしょう。クラレグループの中期経営計画最終年度である26年度に向けて生産量で15~20%拡大する計画です。スポーツや学販に力を入れます。スポーツは既存取引先との取り組みをさらに深めます。学販もアパレルが自家縫製スペースの不足に悩んでいるので、生地の在庫機能も含めて当社の役割を発揮する機会が増えています。そのために縫製などへの投資も継続します。一方、課題は素材のバリエーション。自前の素材だけでは限界がありますから、ここは他社とのコラボレーションも進めたい。現中計までは現在の事業ポートフォリオで事業の拡大に取り組みます。

〈最近のプチ贅沢/ランチで新規開拓〉

 「ちょっと高級そうなすし店や天ぷら店に妻とランチで入るのが最近のプチ贅沢」と言う山田さん。ディナーだと値が張るが、ランチなら手頃な価格でその店の味を楽しめる。なにより敷居が下がるので気が楽だ。「それで気に入れば、次は夜に行ってみたり、仕事の接待で使ったりする。そうやって最近は新規開拓を増やしています」。主に大阪・天満界隈で山田さんの外食のレパートリーが拡大中。

【略歴】

 やまだ・たけし 1984年クラレ入社、クラレトレーディング衣料カンパニーテキスタイル部長、同カンパニースポーツ部長、衣料・クラベラ事業部副事業部長、可樂麗貿易(上海)総経理などを経て、2015年クラレトレーディング取締役、18年常務、18年常務繊維事業統括兼衣料・クラベラ事業部長、20年から代表取締役社長