春季総合特集Ⅱ(11)/Topインタビュー/大和紡績/社長 有地 邦彦 氏/IPOに向け企業価値向上/グローバルに勝負できる商品創る
2024年04月23日 (火曜日)
大和紡績は、3月27日にダイワボウホールディングス(HD)保有の発行済み株式の85%が、事業投資会社アスパラントグループ(東京都港区)の特別目的会社へ譲渡されたことで、ダイワボウHDグループから独立し第三の創業へ一歩踏み出した。有地邦彦社長は将来的にIPO(新規株式上場)を視野に入れ、「持続的な企業価値の向上を目指す」と話す。今期(2025年3月期)から来期にかけ新たな投資案件に対し「かなり増やす」方針で、「グローバルに勝負できる商品を創る」ための戦略も加速していく。
――共創、協働の取り組みは。
ダイワボウHDからの独立で支援していただいた、事業投資会社のアスパラントグループさんとは共創、協働の関係にあると言えます。アスパラントさんは金融のプロであり、大和紡績が企業価値を高めていくには、繊維業界に限らずどのような企業と取り組み、どう力を入れていけば良いのかなど、さまざまなノウハウを持っておられます。
例えば設備投資であれば現状のキャッシュフローの中だけで考えてしまいがちですが、われわれが従来になかった発想や金融の力によって、一緒にリスクを取っていこうとしています。今後の投資では、老朽化設備の更新だけでなく、生産性の向上や職場環境の改善・労働安全、品質の向上にもつなげていきます。
将来的にはIPOも目指しています。そのためにも今期から来期にかけて投資を具体化していきます。
――2021年には研究開発部署を播磨研究所(兵庫県播磨町)に一本化し、合繊・レーヨン、産業資材、製品・テキスタイルの各事業分野横断で基礎研究や商品開発に取り組む体制が整っています。
どんどん成果が出てきています。当社が取り扱う商品にはファイバーや不織布など、世の中の表に出ていないけれども、縁の下の力持ちになっているものが多い。顧客からテーマを頂きながら、具体化に向けて進めつつある開発案件がたくさんあります。
例えばフィルターでは高機能化が進んでいます。播磨研究所との連携で新型フィルターの試験販売に入っています。
全体的には持続可能で環境負荷の低減につながるような製品が求められつつあります。環境配慮型の原料を取り扱うメーカーともタイアップした研究も進んでいます。
――前期を振り返ると。
原燃料価格は高止まりが続くとともに円安によって、収益面でしんどい部分がありました。価格転嫁も進みましたが、市況に何となく力強さがありませんでした。
合繊・レーヨン事業では新型コロナウイルス禍で活況だった衛材向けが落ち着き、おむつの需要も少子化の影響で不振でした。不織布では制汗シートやコスメティック分野などの製品の動きが活況でした。
サステイナブル関係では引き合いが増えています。海水中での生分解性を確認し、第三者認証も取得した「エコロナ」、リサイクル原料を使った「リコビス」といったレーヨンでは広がりを見せています。原料調達に限りがあり、十分に供給できていませんが、新しい芽は出てきていると感じています。
産業資材事業では電子部品向けカートリッジフィルターが、半導体メーカーの稼働率悪化の影響を受けました。自動車関係や電池セパレーター、建材用途なども伸び悩みました。建築シートは首都圏中心に堅調でした。
製品・テキスタイル事業では、米国市場の今までないようなレベルの在庫調整を受け、衣料品輸出が落ち込みましたが、今年に入ってから回復傾向にあります。“もしトラ”ではありませんが、大統領選挙の年は景気が回復するといわれていますので、期待をしています。
全体的に低調でしたが、今期に入ってから持ち直していくとみています。生産コストは工場の操業率を高めれば下がってきます。売り上げを伸ばすことでしっかりと順回転をさせていきます。
――今期から新中計がスタートします。
骨子としては三つの方針があり、まず一つ目として、持続的な企業価値の向上を目指すことを掲げています。設備投資や研究開発に積極的に資金を投入するかどうか迅速に判断していきます。そのためにKPI(重要業績評価指標)を定めて、今まで以上に各部門での数値管理を強めています。
IPOを目指すに当たりガバナンスも強化していきます。いつでも上場できる状態を維持しながら、しっかり足場を固めていきます。
二つ目は次世代の柱となる商品の創出です。持続可能な地球環境、社会に貢献するファイバーの研究、リサイクルの仕組みの開発もしていきます。そういうことを可能にするために事業の連携やM&Aなど、次世代の商品の販売や開発を加速化させるような投資を積極的にしていきます。
そして三つ目が世界のマーケットにチャレンジするグローバル企業への転換です。現在海外の事業会社としてインドネシアに5社、中国に2社あります。特にインドネシアと日本を大きな2拠点と考え、グローバルで戦える人材の育成にも努めます。単純に日本から輸出するだけではなく、海外企業との連携も積極的に進めていきたいと考えています。
原燃料高や円安など先行き不透明な環境が続く中、一企業がしっかりとグローバルに勝負できる商品を創り込んでいかなければ生き残れないと思います。その危機感はみんなで共有しています。
――数値的な目標は。
まだ公表はできませんが、アスパラントさんと話し込みながら地に足を付けた目標となっており、かなり確度の高いものとなっています。売上高、利益のバランスをとった形となります。
投資もかなり増やしていきます。投資の規律を緩めるわけではありませんが、しっかり精査し、短期的にキャッシュフローの枠を超えようが、必要なところには投資をしていきます。
〈最近のプチ贅沢/パーソナルトレーナー〉
コロナ禍が落ち着き、会食が増えたことで奥さんから「お腹が出てきたと指摘された」と有地さん。そのため、2月からジムに通い始めた。これまで続かないことが多かったので、今回は10回分だけパーソナルトレーナーを付けた。だいたい週1回のペースで通い、食事制限もしていたことから、お腹回りがすっきりし「効果が出てきた」。「このまま継続するか、自主トレにするか……」。ちなみに奥さんからジムの効果については何の指摘も受けていないそう。
【略歴】
ありち・くにひこ 1987年大和紡績(現・ダイワボウホールディングス)入社。2017年ダイワボウホールディングス執行役員経営企画室長兼大和紡績取締役、18年ダイワボウホールディングス取締役兼常務執行役員、19年ダイワボウホールディングス専務兼大和紡績監査役、21年4月から大和紡績社長