特集 サマーウエアリング/長い猛暑に対応 MD改善進める

2024年04月11日 (木曜日)

 昨年に続き今年の夏(6~8月)も暑くなりそうだ。気象庁は、全国的に気温が高くなり猛暑日が増えると予想している。紳士服の各ブランドは盛夏向け仕事着を強化するほか、最適なタイミングに商品を投入し需要の取りこぼしを防ぐ。

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 新型コロナウイルス禍を経て、仕事着の多様化が一段と進んだ。コロナ禍に浸透した楽な着心地のセットアップは根強い人気が続く。通勤は軽装でも大切な商談時などにジャケットを着用する人も多い。このため、オフィスにジャケットを置いておく〝置きジャケ〟が浸透。夏でもジャケットのニーズはある。

 「着心地や機能性に優れたセットアップはコロナ禍後も需要が高い」。紳士服「アクアスキュータム」を展開するオッジ・インターナショナルは、こう指摘する。今夏向けには、ブランドらしい高級感やきちんとした印象に見えるデザイン性も兼ね備えたセットアップを提案する。昨年は6月に夏向け商材が不足し売り逃しが発生したため、今年は6月下旬に追加投入する計画を組む。また春先から秋口まで着られる羽織りアウターも重点商材に位置付け、拡充する。

 紳士服「マッキントッシュ・フィロソフィー」などを手掛ける三陽商会は、新たに盛夏シーズンのMDを構築する。セール期間だった例年と違い、6~8月度に鮮度の高い実需アイテムを投入。店頭では先物買いが減り、気温や気候に合わせたジャストシーズンで購入するケースが増えていることに対応する。慣例だった6月のプレセール、7月のクリアランスセール、8月の最終セールといった値引き販売を改め、正価販売を主軸とする。

 「クールビズ」や「ビジカジ」など服装のカジュアル化は進んでいるが、仕事内容などによってはスーツを着なければならない場面もある。紳士服ブランド「五大陸」を手掛けるオンワード樫山は、上質な生地でクラス感のあるビジネススーツを提案。暑い夏でもフォーマルな身だしなみを重視するビジネスパーソンの需要を取り込む。

〈オッジ・インターナショナル「AQ」/綿とポリのいいとこどり/セットアップ提案に力〉

 オッジ・インターナショナル(大阪市中央区)が展開する紳士服「アクアスキュータム」(AQ)は、綿とポリエステルを使ったセットアップの提案を強める。▽コンパクト(簡潔)▽コンビニエント(便利)▽コンフォータブル(快適)――の3要素を掛け合わせた「テックスリー」ラインの商品群を軸に、清涼感や着心地の良さを訴える。

 綿とポリエステルを用いた編み地のセットアップは、和歌山の36ゲージニットを採用した。ジャカードでストライプを表現している。担当者は「一般的に夏向けセットアップは合繊素材を使った商品が多い」と指摘。その上で「綿を入れることで高級感を出し、着心地を高めることができ、他ブランドとの差異化につながる」と狙いを話す。ジャケットが8万8千円、パンツが3万5200円。

 綿とポリエステルを使用した織物製のセットアップも提案する。凹凸感のあるシアサッカー素材で通気性や防シワ性に優れ、縦横に伸びる。ウエストがドローコード仕様のパンツはベルトループも付いており、利用シーンに応じて使い分けが可能。ジャケットが6万6千円、パンツが3万800円。同素材を用いたボンバージャケット(7万1500円)も用意。軽量アウターとして訴求する。

 春先から秋口まで着られる軽量アウターや羽織りアイテムの売れ行きは好調で、近年は重要商材になっていると言う。

 ジャケットのインナーとしても単品使いでもさまになるウール100%のポロシャツやTシャツも、カラーバリエーションを増やして投入。ラグジュアリー感を強みに、ジャケットやパンツなどとセットで提案する。

〈三陽商会「マッキントッシュ・フィロソフィー」/盛夏アイテムを強化/機能性素材で付加価値〉

 三陽商会が展開する紳士服「マッキントッシュ・フィロソフィー」は、猛暑や残暑を想定した盛夏向けアイテムの提案を強化する。暑い夏に特化した素材を用いた商品を幅広くそろえ、顧客ニーズに応えていく。

 ビジネスウエアは着心地や快適性に一段と磨きをかける。透けや汗染みを防ぐ機能素材「ムーンテック」を使ったアイテムではジャケット(3万5200円)やパンツ(2万2千円)、ポロシャツ(1万4千円)などを投入。ポリエステル100%だが綿のような肌触りの素材「カミフ」を用いた長袖シャツも提案する。

 裏地に冷感性を持続させる特殊プリントを施した素材「フリーズテック」を採用したポロシャツ(1万7600円)なども投入。「汗の水分を吸うとさらに冷感効果を発揮する」(担当者)と言う。

 吸水速乾や接触冷感といった機能性を備えた綿100%のTシャツは、後加工技術「カバロス」を採用。「これまでの機能性アイテムには合繊素材を使うことが多かったが、風合いの良い天然素材にも機能を付加して製品化していく」(担当者)。

 さらっとしたドライな肌触りと高いストレッチ性が特徴の素材を使ったアイテムも拡充する。ジャケットやパンツ、Tシャツ、カーディガンと幅広く用意。高機能を売りに単価アップを図る。

 カジュアル領域では、羽織りシャツを拡充する。凹凸感が特徴のシアサッカー素材を使ったり、オーバーサイズにするなどバリエーションを増やす。「かばんに入れておいて、朝晩の気温の低い時間帯にさっとTシャツの上に羽織ってもらうことを想定して開発した」(担当者)

〈オンワード樫山「五大陸」/クラス感備えたスーツ/POと既製品の両構え〉

 オンワード樫山が展開する紳士服「五大陸」は、上質な生地でクラス感のあるビジネススーツを提案する。生地は高級服地製造販売の御幸毛織(名古屋市西区)と協業し、インポートを上回るような高級感を訴求。24春夏シーズンは両者で「スーツ生地を多数開発した」と言う。

 コロナ禍で公私ともに衣服のカジュアル化が進んだ。紳士服市場でも、ネクタイをしないオフィスカジュアル需要に向けた企画が目立つようになった。

 その一方で、フォーマル路線への揺り戻しも見られる。こだわりのスーツを求める人が増え、かっちりしたスーツやオーダー品の人気も高まっている。

 そんな中、五大陸はシックなスーツを提案する。厳格なクラシックとは違い、軽量な仕立てでリラックスして着られるのが特徴だ。カラーも優しい色合いを採用している。

 シーズンテーマは「CLASS CHIC(クラス・シック)」で、リーダー層の仕事着を深耕する。「価格以上の価値を感じてもらえる商品をラインアップした」(同社)としている。

 コロナ禍にスーツ販売をパターンオーダー(PO)にシフトさせたため現在、五大陸のスーツ売り上げの約8割はPOが占める。最短1週間の短納期が強みだが、それでもすぐにスーツが必要な消費者も少なくないことから、既製品のスーツ在庫を一定量構える。

 同社では「POと既製品のハイブリッド」と表現。アフターコロナ下で多様化するニーズに応える。価格は前年の春夏と比較し、据え置いた。

 高単価なドレスシャツなども、オーダーを中心に拡充している。

〈太陽繊維/機能ポリエステルなど軸〉

 紳士ドレスシャツ生地商社の太陽繊維(大阪市中央区)は、機能ポリエステル「クールマックスエコメイド」や綿100%形態安定を夏の中心商品としている。24春夏の販売は、23春夏の実績を上回り、新型コロナウイルス禍前に近い水準にまで回復してきた。現在、定番ブックの改訂などを進めており、さらなる拡販を図る。

 クールマックスエコメイドは、ほとんどがペットボトルなどの再生資源からなる。環境負荷低減に貢献し、涼感をはじめとする機能も持つ。消費者のブランド認知度も高く、毎シーズン人気を博す。綿混タイプのほか、ポリエステル100%タイプもラインアップしている。

 24夏ではからみ織りやサッカー、オックスなど、「少しドレスダウンした商品」も提案した。からみ織りは完売し、サッカーとオックスも健闘するなど、クールマックス綿混タイプのバリエーションとして好評を博した。

 今後に向けて、3、4年ぶりに定番ブックを改訂中。人気の高い生地と顧客の目に止まりにくい生地を入れ替える。トリコット生地などを加える。

 生産面では、中国一極集中からの脱却を検討している。リスク分散の一環として取り組むもので、新生産場としてインドでのモノ作りに目を向ける。見本生地の品質は良く、量産での品質について精査している段階にある。

〈成和/多様な角度でファン獲得〉

 ネクタイ企画製造卸の成和(東京都千代田区)は、電子商取引(EC)ビジネス拡大の一環として、SNSを活用した情報発信を強化している。同八王子市に製造子会社の成和ネクタイ研究所があり、モノ作りのストーリー性をはじめさまざまな角度から情報を発信し、ファン獲得を図っている。

 SNSでは、2023年末にインスタグラムを、今年に入りX(旧ツイッター)を開設した。同社によると中でもXの反応が良く、「ECでの販売にも少しずつつながっている」という。今後も商品に限った話だけではなく、社内外の出来事などいろいろなことを発信していくと話す。

 自社サイトでは、シルクによる優れた肌触りが特徴で、最高峰のネクタイブランドと位置付ける「ROYTOUCH」(ロイタッチ)などを取りそろえる。特別企画として、美しいピンク色が特徴の華やかなネクタイ「桜染ネクタイ」の販売も開始した。

 同社ではネクタイ以外にも領域を広げており、服地の開発・製造・販売にも力を入れている。成和ネクタイ研究所には150㌢幅のドビー織機など、服地用の織機も導入している。展示会の出展を重ね、新規顧客も増えてきた。付加価値の高い生地が顧客の目に止まっているほか、ネクタイで培った小ロット対応も評価を得ている。

〈フレックスジャパン/汗染み防止や伸縮性訴求〉

 フレックスジャパン(長野県千曲市)は汗染みがしにくいポロシャツや、伸縮性が高く楽な着心地の織物シャツを提案する。24春夏は「フレックスジャパンラボ」と銘打ち、シャツ着用時の悩みや不快感の解決をテーマに商品を開発した。

 汗染み問題を解消するポロシャツは、ポリエステル100%の横編み素材「スピーディードライ」を採用した。吸水速乾性に優れているのが特徴。汗を吸ってもすぐ乾くため汗染みができにくい。「撥水(はっすい)加工で汗染みを防ぐタイプの衣料品も多いが汗を吸わない分、不快感が出てしまうこともある」と担当者。今回の新商品は吸水速乾性でアプローチすることで、こうした不快感を軽減する。

 もう一つの新商品が、綿とポリエステルを混紡した高伸縮な織物素材「ムーブプラス」を使用したシャツだ。横に約30%伸びる伸長率の高さが売りで、肩や腕も動かしやすい。襟部分の芯地にも伸縮性を持たせ第1ボタンを留めやすくするなど、細かい工夫も盛り込んでいる。

 このほか、通気性の高いトリコット素材に抗菌や消臭といった機能を付加したシャツも提案。紫外線を気にする男性が増えていることから、衣類などの紫外線遮蔽(しゃへい)能力を示すUPF値を高めたシャツも投入する。

〈東京ネクタイ協組/SNSなどでの発信重要〉

 ネクタイ業界の今後は、情報発信がポイントの一つとなりそうだ。クールビズの定着に、働き方(仕事着)の多様化が加わり、市場の劇的な回復は難しいと言える。東京ネクタイ協同組合はホームページを使った情報発信に加え、動画投稿アプリTikTok(ティックトック)やインスタグラムなども必要との認識を示す。

 日本のネクタイ国内生産と輸入の合計を見ると、2022年は集計中の山梨などを除いて1106万8千本となり、前年の894万5千本から23・7%増加した。国内生産は158万7千本で36・1%減だったが、集計中の山梨の生産が昨年並みだったと想定して改めて計算すると273万9千本で10・3%増になる。輸入は948万1千本で46・8%増だった。

 新型コロナウイルス禍での落ち込みから脱して回復基調が見えるが、コロナ禍前の19年は国内生産(山梨含む)が313万1千本、輸入が1420万7千本だったことを考えると依然として大きな開きがある。金額ベースでも同様の流れが見える。23年についても秋冬物で在庫が残り、発注量が抑えられたようだ。

 東京ネクタイ協同組合の和田匡生理事長(成和社長)は、クールビズの定着に加え、ビジネススタイルの変化もあって市場の拡大は難しいとみる。ただ「日本ブランドに興味を持つ訪日外国人客は多く、需要減少が止まる可能性はある」と話す。今井千惠副理事長(今井社長)も「カジュアル化に振れすぎたことの反動が期待できる」とした。

 自らの発信も必要と強調する。成和や今井はSNSを活用してアピールを行っているが、個社ではなく業界を挙げた取り組みも不可欠。その中で「20、30代がネクタイをどのように思っているか」「女性がネクタイをどう見ているか」といった調査の実施も検討したいとしている。業界全体の意識向上のためのセミナーなども実施している。

〈紳士服量販大手/高機能シャツ続々〉

 紳士服量販大手は、夏でも快適で着心地が良い高機能シャツを次々と打ち出している。仕事着のカジュアル化に合わせ、ビジネスポロシャツの提案も目立つ。

 青山商事は「スーツスクエア」で、「冷めT(つめて~)ポロシャツ」を提案する。レーヨン、コットンと素材が異なる2型の商品を用意。いずれも生地の裏側に接触冷感素材を使用することで、ひんやり冷たい着心地を実現した。程よくかっちり感もあり、クールビズに最適だ。さまざまな機能を盛り込んだ「最高シリーズ」では編み地のシャツを投入。ノンアイロン、縦横ストレッチ、防シワ、吸水速乾を備える。

 AOKIは、「オリヒカ」に新しく立ち上げた「ビズスポ」ラインにポロシャツを投入。伸縮性が高くスポーツウエア感覚で着られる。ボタンダウンで見た目のきちんと感も備える。ビジネス用にもプライベート用にも着こなせる。

 はるやま商事は、「はるやま」などで展開する形態安定などを備えた高機能シャツ「アイシャツ」を訴求する。2009年に発売して以降、累計販売枚数900万枚を突破する人気商品。シワになりにくくアイロンがけが不要で、伸縮性に優れている。吸水速乾や抗菌防臭機能も備える。着心地の良さと見た目のきちんと感、手入れが楽といった点が消費者のニーズをつかんでいる。