ジーンズ別冊(1)/「本物志向」は定番ジーンズを後押し
2024年03月29日 (金曜日)
王道のストレートシルエットなど一過性の流行に左右されない定番ジーンズの売り上げが好調に推移している。ジーンズのダウントレンドが続いた2000年代には、若者のジーンズ離れや顧客の高齢化も指摘されたが、その様相も変わりつつある。ファッショントレンドをけん引する欧州ラグジュアリーブランドやデザイナーズブランドもデニム商材を次々と打ち出し、売り上げを伸ばしている。昨年、ジーンズの起源とされる「501」の誕生150周年を迎えた「リーバイス」では、ファッション感度の高い顧客を獲得。有力セレクトショップが別注した501を求め、20~50代男女が購入したと言う。輸入販売するリーバイ・ストラウスジャパン(東京都渋谷区)では「改めてリーバイスの強みを周知できた。消費者の原点回帰という側面もある」と話す。定番ジーンズの売上高や販売本数は非公開としたが、今年に入っても売り上げは好調のようだ。
国産ジーンズの主力品番「503」でシルエットや素材の再構築を行ったエドウイン(品川区)も、定番ジーンズが売れている。昨年、さまざまなスタイルに合わせやすいストレートシルエットに変更し、素材は再生デニム生地を採用するなどフルリニューアルを実施した。環境に配慮した持続可能な素材を採用。修理・修繕サービスの10年保証も付けた。
当初は買い替え需要で40~50代男性の購買が多かったものの、徐々に年齢層が幅広くなった。同社では「ジーンズがファッショントレンドに浮上した中で、消費者の本物志向が強まった」と分析。廉価なファストファッションでジーンズを購入していた若年層も「品質の高い国産ジーンズに興味を持っていることが分かった」としている。
興味深い傾向として、ストレッチ素材のジーンズよりもコットン100%や再生デニム生地、ヘンプなどを混紡させたジーンズを求める傾向が強まっている。スキニーシルエットのトレンドが一巡したこともあり、ワイドシルエットやバギーで落ち感が楽しめる天然素材のヘビーオンス需要が高まっている。これはリーバイス、エドウインともに共通で「平均価格は上昇するが、それでも天然素材のアイテムを求めている」(リーバイ・ストラウスジャパン)。
両者とも売れ筋の価格帯は1万3千~1万7千円前後で、数年前までは最も苦戦したゾーンだった。国内外のファストファッションが3千~6千円前後で多品種のジーンズを販売しており、ローエンドやマスマーケットで対抗するのが難しかった。エドウインでは「地道に販促をしてきた成果が表れた。潮目が変わっている」と読む。原材料や輸送費の高騰で平均価格は2~3千円程度アップしているが、それでも定番ジーンズの売り上げは伸びている。
持続可能なジーンズを打ち出すことも必須になった。1995~2010年ごろに生まれたZ世代やそれ以降に生まれたα世代は、環境問題とファッションの関連性を調べ、重視する傾向が強い。多くのジーンズブランドはオーガニックコットンの採用を進めており、さらに再生デニム生地の使用も増えてきた。高島屋が実施するデニム再生プロジェクトを通じ、新たに新作ジーンズを製作した「レッドカード・トーキョー」では、販売状況に手応えを得ている。同ブランドを監修するドクターデニムホンザワの本澤裕治氏は「日本の産地、工場と協業しているが、質の高い再生デニム生地が製作できている」と説明する。高島屋が不用となったジーンズを回収、クラボウのアップサイクルシステム「ループラス」を介して製作する形態もジーンズ業界で浸透してきた。ループラスの拡大、浸透に期待感を示すジーンズ関係者も多い。
海外では、スウェーデンの繊維リサイクル企業、リニューセル社(ストックホルム)との取り組みで、再生デニムとビスコースを交ぜた繊維「サーキュロース」とオーガニックコットンをミックスした生地を使う企業も出始めた。同社は12年から廃棄された繊維製品のリサイクルに取り組み、ストックホルム郊外に大型のリサイクル工場を所有。その一方、継続的な資金調達に苦しみ、先月にはストックホルム地方裁判所に破産申請を行った。スポンサー探しも難航、再生繊維への理解が進まなかったことも「破産の要因」(スウェーデンの主要メディア)としている。