特集 北陸産地(2)/産地との取り組み強化/蝶理/東レ/帝人フロンティア/旭化成アドバンス/一村産業

2024年03月29日 (金曜日)

〈一貫で商品価値高める/環境商材は220億円規模に/蝶理〉

 蝶理の繊維事業は今期(2024年3月期)、順調に利益を伸ばしている。リサイクルチップから糸、生地、製品までの一貫で価値を高めていく取り組みが奏功している形で、「本物を志向する需要が増える中、トータルで価値を高めていく取り組みがうまく進みだしている」(吉田裕志常務執行役員)という。

 北陸への糸販売は独自のブランド糸がけん引する形で堅調に推移する。1月は能登半島地震の影響もあったが、2月には地震前に近い水準に戻っている。短繊維での提案が広がるなどSTXとの協業も着実に進みだした。

 北陸生地の輸出は今期、欧州市場の減速などの影響を受けているが、新しい商品開発も進みだしており、来期はスポーツとファッションを中心に拡大を狙う。北陸の生地を使った製品展開もさらに伸ばしていく。

 来期はサプライチェーン全体でサステイナビリティーを実現する「ブルーチェーン」をさらに進化させていく。環境商材では中計最終年度に売上高300億円を狙うが、初年度の今期は220億~230億円になる見通し。北陸から出る繊維廃棄物を再利用する取り組みも進んでおり、月数百トン規模にめどを付けた。回収した廃棄物を再利用するアイテムも広がり、吸音材や河川補強用のほか、建材での展開も始まっている。

〈高付加価値化を加速/北陸との取り組み強め/東レ〉

 東レは今月に金沢で開いた「繊維産業シンポジウム」に合わせて会見し、高付加価値化を視点に産地との取り組みを強化していく考えを示した。

 来期(2025年3月期)の北陸産地との取り組みは、トータル量を今期並みに維持しながら高付加価値化を進め、産地企業の売り上げを伸ばしていく考え。

 細さや形をナノオーダーで精密制御する複合紡糸技術「ナノデザイン」やサステイナブル糸など東レの高付加価値原糸と産地企業の技術を組み合わせた開発を推進して高付加価値化を図る。合わせてデジタル技術で企業を変革するDXで垂直連携を強化し、競争力を高めていくことも重視する。

 同社は今後も全ての素材で国内マザー工場での原糸・原綿の生産基盤を維持・強化する考え。国内で先端材料や革新プロセスなどの研究・技術開発を推進し、グローバルな生産拠点を活用して地産地消で事業拡大を図る。グローバル経営で得た利益は国内で次の研究開発に再投資し、持続的な成長を図る。この中で、産地企業との連携強化による高性能・高感性素材の創出を、競争力の源泉と位置付けている。

〈輸出は織物も強化/垣根越えた開発を/帝人フロンティア〉

 帝人フロンティアの衣料素材本部は今期(2024年3月期)、計画比で増収減益となる見通しだ。来期は強みを持つ分野に焦点を当てながら拡大を狙う。

 今期の販売は国内向けがスポーツ、ユニフォームとも回復し、昨年に好調だった輸出も落ち込みなく推移した。輸出はスポーツの欧州向けやカイト用途が落ち込んだが、北米向けの拡大でカバーしている。

 来期は強みを持つ分野をさらに伸ばす形で増収増益を狙う。スポーツは欧州向けの回復を見込むほか、中国向けなども伸ばす。ユニフォームは官需向けやカジュアルでの強みを取り入れたワーキング用などの拡大を狙う。

 スポーツ用に展開するニットの強みを、織物が中心のユニフォームに生かすなど垣根を越えた開発を強化する。ニットが中心の輸出は織物も強化する考えで、北陸との連携で薄地高密度などを伸ばしていく。

 北陸産地への糸売りは、資材用途が堅調なものの、衣料用途は産地の染色加工スペースがタイトな影響もあって伸び悩む。その中で再生ポリエステル「エコペット」の機能糸や「ソロテックス エコハイブリッド」などエコ商品が堅調に推移している。

〈安定稼働できる販売量を/スポーツは後半回復へ/旭化成アドバンス〉

 旭化成アドバンスにとって北陸はメーカー系商社としての生産機能の基盤となる重要産地の一つ。主力のスポーツ・アウトドア向け織物は2024年度後半からの本格回復を見込む。

 今期(24年3月期)はスポーツ・アウトドア向けを中心に衣料分野は好調。一般衣料向けも堅調に推移した。ここに来て欧米スポーツ・アウトドア市場の流通在庫調整の影響が顕在化してきたが、来期の下半期には正常化するとみている。キュプラ繊維「ベンベルグ」使いのアウター地や裏地も旭化成グループの強みの商材として重視する。

 このため来期の北陸産地への発注は、ウオータージェット織機で生産する合繊高密度織物が上半期こそ若干減少する可能性があるものの、下半期からは回復する見通しだ。また、エアジェット織機で生産する一般衣料向け織物は例年通り。丸編み地も安定的に発注できるとする。

 一方、課題となるのが人手不足などによる納期問題。繊維本部長の坂元盛也取締役常務執行役員は「生産スペースを確保しながら、それが安定的に稼働するだけの販売量を確保することが重要になる。それこそが商社の役割」と強調する。

〈日本生産を引き続き拡大/製織準備工程で/一村産業〉

 一村産業の繊維事業の今期(2024年3月期)は、2月までの11カ月累計で売上収益が前年比9%増、事業利益が同96%増だった。売上高総利益は約30%増だが、販管費の削減で事業利益を伸ばした。

 生産は海外を絞り込む一方で北陸を増やしている。海外は前期が前年比84%増だったが、今期は同34%減。日本は前期の16%増に続いて今期も3%増と増やした(ともに11カ月累計、金額ベース)。日本生産は数量を落としたが、値上げと高付加価値化で増やした形で、来期も引き続き拡大を計画する。

 来期(25年3月期)は北陸の規模縮小や高付加価値化を重視する動きを踏まえながら、産地との取り組みを強化する。特にサイジングや糸加工など製織前の工程の重要性を再認識し、中長期の視点で強い企業連合の構築に向けて同社からの設備投資も含めて取り組んでいく。

 中東向けでは市場の変化に対応し、日本製品のリニューアルを進める。ポリエステル紡績糸にこだわらず、長繊維を含めてさまざまな面から開発を進めていく。非衣料用途の拡大にも注力する。4月の機構改革で化成品事業部門のEPS樹脂と繊維事業部門の非衣料用途が一体で動ける形にし、連携して用途開拓を進める。EPS樹脂の顧客を繊維に詳しい担当者が訪問するなどで新しい需要を創出する。農業などさまざまな分野で可能性があるとみる。

 物流対策も重視し、産地企業や川下と連携し、省力化、合理化に向けて取り組む。