特集 アジアの繊維産業(5)/ベトナム/「総合力の高さ」で選ばれる

2024年03月21日 (木曜日)

 2023年はベトナムの繊維・衣料品業界にとって、世界的な需要減少などの影響で極めて困難な1年だった。受注不足で経営が逼迫(ひっぱく)し、従業員の解雇や資産売却を余儀なくされる企業も出ている。

 欧米ブランド向けを主力とする縫製工場でこの傾向が出ているが、対日はやや様相が異なる。多くの日系の商社や副資材企業の業績も新型コロナウイルス禍から回復し、おおむね堅調だ。欧米向けもいずれは回復することが確実視されており、中国からの生産地移管先の筆頭がベトナムであることに揺らぎはない。中国企業によるベトナム進出も加速しており、商品の高度化も進むとみられる。

 アパレル物流の日新運輸では、昨年秋口から上海近郊のアパレル輸送が一気に減少し、ASEANへのシフトが急速に進んだ。その受け皿の筆頭が「総合力の高さ」が評価されるベトナム、次いでミャンマーになっているという。

〈内販、対欧米拡大を各社が志向〉

 伊藤忠グループのプロミネント・ベトナムの24年3月期は、利益ベースで前期比横ばいの見込みだ。欧米と内販の市況悪化で伸ばし切れなかったが、対日はユニフォームが低調ながらスポーツが伸びた。

 ヤギ・ベトナムは、縫製品の受注はスポーツ関連が減少したものの、ユニフォームやレディースカジュアルが増えた。注力中の生地販売は減少。今後、現地アパレルへの生地備蓄販売で攻勢をかける。

 トーレ・インターナショナル・ベトナムの繊維事業は計画比で増収増益だが、輸出環境悪化を受けて前期比は減収減益。顧客ニーズに応じた生地から縫製までのバーティカルオペレーションの確立と、メーカー系商社としての機能商品からの提案力強化で反転を図る。22年夏に量産を開始した自社縫製工場の稼働は順調。「品質、納期で信頼される縫製ベンダーを目指す」。

 帝人フロンティア〈ベトナム〉の24年3月期は減益ながらも増収。対日が増加し、欧米向けは横ばいだった。欧米市場向けが主力の人工皮革も減少した。今後は需要増が見込まれる人工皮革を再び成長軌道に乗せるとともに、今期からスタートした衣料品の内販のさらなる拡販、欧米向けの拡大に取り組む。

 ダナンに自社工場、ホーチミンに事務所を構えるモリトアパレルも、「ベトナムを軸にASEANでの生産、調達、販売を拡大させる」方針を掲げる。そのため現地での備蓄販売を強化する。

 生地の一村産業や縫製のクラボウインターナショナルも、ベトナムでの生産を「さらに拡大させていく」とする。

〈豊島ベトナム/付加価値提案にシフト〉

 豊島のベトナム法人、豊島ベトナムの23年度業績は全体として前期比増収で推移する。製品部門では対日ユニフォームのOEM/ODM受注が増え、素材部門では副資材関連の新型コロナウイルス禍からの回復傾向が鮮明になっている。

 原材料から生地、副資材、縫製までベトナム国内中心に組み立てる同社では24年度を、「素材、製品いずれでも引き合いは増えているが、課題もある」とみる。ベトナム独自の素材開発や製品の短納期対応などだ。この点ではまだ中国ほどの奥行きや広さはないが、地道に改善していく。また雑貨商品の工場の開拓を進めるとともに、ベトナムで稼働を開始する素材メーカーとの取り組みにも力を入れていく。

 原材料費や人件費の上昇を受けて、機能素材など付加価値の高い商品提案のシフトも進める。

〈シキボウベトナム/法人設立、糸・生地拡販へ〉

 シキボウベトナムは、2020年に設立した駐在員事務所を、今年1月に法人化して誕生した。これまでの縫製品生産・品質管理に加え、同国内外への糸・生地販売を本格化させる。

 既に糸・生地の調達先は確保している。生地は丸編み地とトリコットが主体で、綿糸を中心に多様な差別化糸を生産できる体制も整えている。昨年からは現地プリント工場とも提携した。主力として取引する協力工場には設備投資も進めてきており、現地での「シキボウ品質」の糸、生地供給を実現している。

 供給先は対日がほぼ全量だったが、今後は「シキボウ品質の糸、生地をベトナム国内で手配してもらいたい」との要望に応え、内販を拡大させる。

 欧米向け拡大ミッションと捉え、現地縫製工場への営業を強めるとともに、日本本社と連携して欧米ブランド攻略を急ぐ。

〈島田商事ベトナム/越周辺国も拡大対象〉

 副資材大手、島田商事(大阪市中央区)のベトナム法人、島田商事ベトナムの23年12月期は、商品ラインアップの拡充などで脱中国の流れを捉え、前期比増収増益となった。欧米市場向けが伸びた。

 今期も欧米開拓を進める。米国については香港法人のニューヨーク支店に、このほど開設したサンフランシスコ支店との連携を強めて拡大を狙う。欧州については、昨年秋に出展したドイツの「A+A2023国際労働安全機材・技術展」での提案を生かし、ユニフォーム向けなどを伸ばす。

 また脱中国縫製の流れの中でカンボジア、ミャンマー、インドネシアなどへのシフトも進んでいることから、ベトナム法人からASEAN周辺国への副資材供給も「しっかりと需要を取り込んでいく」とする。