特集 アジアの繊維産業(3)/タイ/高付加価値品へ特化不可欠
2024年03月21日 (木曜日)
タイの2023年の経済成長率はプラス1・9%となり、22年実績のプラス2・5%を下回った。ここに来て中国経済低迷の影響が顕在化しており、国内消費に勢いがない。人件費の上昇など製造業にとって逆風が吹く。繊維産業もタイでの汎用品生産はもはや不可能との認識が一段と強まり、日系各社とも生産品種の高度化を加速させている。
〈中国品流入で競争激化〉
タイは経済面で中国とのつながりが強く、中国経済低迷の影響を大きく受けた。繊維分野ではアジア市場全体に安価な中国製の糸・わた・生地・製品が流入しており、競争激化で日系を含めたタイ国内の繊維企業は苦戦を余儀なくされた。
製造業にとってタイの労働市場も逆風。タイ政府は今年1月、最低賃金を引き上げた。バンコクとその周辺県は日額363バーツとなり、全国平均では2・4%の引き上げとなる。政府は4月以降にさらなる引き上げを計画しており、人件費上昇は避けられない。タイは最も少子化が進んでおり、人手不足も深刻化している。
〈衣料用途は商品高度化へ〉
このため日系繊維企業の間では衣料用途を中心にタイでの汎用品生産は難しいとの認識が一段と強まり、各社とも高付加価値品の開発と生産に取り組むなど高度化の動きが加速する。
例えば東レグループは定番のポリエステル・綿混織物を縮小し、スポーツメガブランド向けポリエステル長繊維織物やニット生地、中東民族衣装向けポリエステル短繊維織物などに力を入れる。複合紡糸も増設し、原糸から生産品種高度化を進める。
帝人フロンティアグループのテイジン・ポリエステル〈タイランド〉(TPL)も衣料用途で高付加価値素材の増産と開発・拡販に取り組む。タイ・ナムシリ・インターテックスも欧米向け販売を再強化する。
クラボウグループのタイ・クラボウはASEAN地域でも富裕層が増加していることを重視し、富裕層をターゲットとした生地開発・提案に力を入れる。染色加工のタイ・テキスタイル・デベロップメント・アンド・フィニッシング(TTDF)も機能加工のバリエーションを拡充し、商品力の強化に取り組む。
米中の政治対立を背景に欧米アパレルが調達先をASEANにシフトする動きは継続しており、こうした需要を高付加価値品でどれだけ取り込むことができるかが今後のポイントとなる。
〈産資分野は比較的安定〉
衣料分野の市況低迷が続く一方で、自動車関連など産業資材分野は比較的堅調だった。タイ工業連盟によると23年の自動車生産台数は184万台(前年比2・2%減)となったが、衣料用途と比べて相対的に安定している。また、不織布向け原綿なども堅調だった。
このため日系繊維企業の収益も改善が進んだ。東レはエアバッグ原糸・基布ともに黒字浮上し、繊維事業の収益をリードしている。TPLも不織布用原綿の能力拡大に取り組む。ユニチカグループのポリエステルスパンボンド不織布製造販売のタスコは建材向けが23年前半こそ低迷も後半からはインドや東南アジア向けが回復し、自動車向けも北米市場への販売は好調。24年はタイ内需に向けた販売拡大を狙う。
産資分野でも環境配慮型素材への要望が高まっていることから、サステイナブル素材の拡充も大きなテーマとなっている。
〈旭化成アドバンス〈タイランド〉/インド市場で販売拡大〉
旭化成アドバンス〈タイランド〉は、エアバッグ包材でタイ国内だけでなく安全規制強化でエアバッグ需要の拡大が期待されるインド市場での販売拡大を進める。
同社の23年度商況は自動車関連が全体をリードし、堅調に推移した。カーシート向け撚糸は低調だったが、エアバッグ包材が好調。タイ国内だけでなくインドへの販売も拡大している。一方、衣料用途はカバーリング糸が健闘した。特にソックス向けが伸びている。ただ、日本向けのテキスタイルコンバーティングは縮小傾向が続く。
24年度も現在の流れが継続するとみる。このため引き続きエアバッグ包材をタイ国内だけでなくインド市場でも拡販を進める。4月には旭化成アドバンスのインド法人が新たに設立されることから、現地法人とも連携しながら市場開拓に取り組む。
〈タイ旭化成スパンデックス/機能性とサステ対応強化〉
スパンデックス製造販売のタイ旭化成スパンデックスは、機能性を持った高付加価値品の拡大を進める。
24年に入ってもテキスタイル向けの需要回復が遅れており、本格的な回復は24年10月以降とみている。ただ、需要減退によって原料価格は低下しており、業績は前季比対比で大幅な改善傾向となっている。
24年度も供給が需要を上回る状況が続いていることから事業環境はいぜん厳しい状況。このため、機能性を持った高付加価値品の販売拡大を進める。また、サステイナブル対応を継続して進めることで、商品内容の転換に取り組む。
原料の複数社購買や中国以外の国からの調達などにも取り組み、サプライチェーンの最適化も図っている。
〈タイ蝶理/市況回復後に向け準備〉
タイ蝶理は衣料用途を中心に天然繊維の活用を進めるなど商品バリエーションを拡充し、市況回復後に向けた準備を進めている。
23年度は1~9月まで堅調に推移したが10月以降に勢いが鈍化した。衣料に加えて自動車など産業資材分野でも市況に一服感が生じている。
このため原料販売事業はカーシート原糸・生地はともに10月以降に失速した。ローン審査厳格化で自動車の販売台数が低迷していることが影響した。衣料用途も安価な中国品の流入で競争が激化し、低迷が続く。
テキスタイル事業も中東民族衣装用織物が年前半好調だったが、後半からは中東地域の政情悪化などの影響で荷動きが鈍化している。一般衣料向けも総じて勢いがない。
市況が軟調傾向なため24年度は厳しい事業環境になるとみている。ただ、タイの自動車輸出が底堅いことからカーシート原糸・生地で業績の下支えを見込む。
その上で衣料用テキスタイル事業は主力の合繊織物に加えてグループ会社であるSTXとの連携で天然繊維使いを拡充し、市況回復後に向けた準備に取り組む。