繊維ニュース

技術の眼/YKK/ZOZO/河田フェザー/UTCとエスビープラニング/三菱ケミカルグループ/ユケンケミカル

2024年03月12日 (火曜日)

 「技術の眼~NEW WAVE GENERATING TECHNOLOGY~」では将来的にニューウェーブを巻き起こし得る重要な技術にスポットを当て、紹介する。

〈YKK/止水機能と柔軟性が向上〉

 YKKの「アクアガード」は、ファスナーテープの表面をポリウレタンフィルムでラミネート加工したファスナー。止水性を高めたため雨水が染み込みにくく、スポーツやアウトドアのシーンにも活用されている。

 シリーズ製品である「フラットニット アクアガード」は柔らかさ、薄さ、軽さに加え、生地へのなじみやすさも備えている。

 「フラットニット」とは、ニットテープの製造時にエレメント(務歯)を編み込んだコイルファスナーの一種で、端正なシルエット表現で製品の意匠性を高める。

 フラットニット アクアガードNo.45は、通常のアクアガードNo.5と比べて柔軟性が増した一方、チェーン厚はコンパクトに仕上がった。

 挿入補助スライダーを使用したため、スライダー開口部の下面が大きく蝶棒が差し込みやすくなり、操作性も向上した。

〈ZOZO/ゾゾスーツ医療分野に応用〉

 ZOZOは、がん研究会有明病院(東京都江東区)形成外科の辛川領、矢野智之両氏との共同開発で、ZOZOが開発した3D計測用ボディースーツ「ゾゾスーツ」を用いた研究結果を発表した。

 今回の検証用に開発したリンパ浮腫専用のスマートフォンアプリを使い、がん術後の2次性リンパ浮腫患者の四股周径測定を行ったところ、評価システムとして有用である可能性が示唆された。リンパ浮腫は、重症化を防ぐために早期発見と適切な介入が重要とされている。一方で、リンパ浮腫を診察可能な施設は少なく、本来介入されるべき早期例や軽症例の介入が行き届いていない問題があった。

 精度を高めたゾゾスーツを用いたことで、簡易で短時間に測定。検査者なしに測定できる利点もある。自宅で繰り返し治療効果の判定、早期発見を可能にする新規診断ツールの開発につながることが期待される。

〈河田フェザー/ふとん生地を再生紙に〉

 羽毛精製加工の河田フェザー(三重県明和町)は、製紙製造の山陽製紙(大阪府泉南市)と共同で、不用になった羽毛ふとんの“側”(中わたを入れる前の半製品)を再生紙へアップサイクルする取り組みを始めた。

 河田フェザーは、羽毛のリサイクル事業に取り組み、羽毛ふとんの回収を行っている。ただ羽毛ふとんの重量は、羽毛と側生地がほぼ半々となっており、羽毛をリサイクルしても、側生地が焼却される場合、全体のリサイクル率は約50%にとどまる。リサイクル率100%を実現する仕組みを模索する中で山陽製紙との協業に至った。

 側生地を粉砕した原料(10%)と古紙パルプ(90%)を混ぜ合わせた混抄紙を製造。使用した側生地はポリエステルも含まれており、綿100%でなくてもすき込むことができるとする。繊維はダマになりやすいため、地合い(繊維の分布状態)の均一化に手間取ったが、粉砕した側生地の名残が感じられる温かみのある紙ができたとしている。

〈UTCとエスビープラニング/カポック繊維の2層構造糸〉

 ユニチカトレーディング(UTC)と、MNインターファッション傘下のアパレルOEM・ODM会社であるエスビープラニングはこのほど、カポック(アオイ科の落葉樹)繊維を使った2層構造糸「パルパー×カポック」を共同開発した。両社で製品展開する。

 カポックの実から採れる繊維は天然の中空構造により軽量(綿の5分の1)であり、吸放湿性・調温性に優れる。栽培時に水や肥料を人為的に与える必要がなく、農薬も使わないため、サステイナブルな繊維原料とし注目が高まっている。ただ、可紡性が悪いため糸にすることが難しく、従来は救命具の充填(じゅうてん)材などに使われるのが一般的だった。

 エスビープラニングがインドネシアで調達したカポックを使い、UTCの複重層紡績糸「パルパー」の紡績技術を活用することでパルパー×カポックの開発に成功した。芯にカポック・綿混、鞘に綿を配置することで繊維長が短いカポックが綿でカバーリングされ、カポックの脱落を防ぎながら軽量性や吸放湿性を発揮する。

〈三菱ケミカルグループ/高耐熱のCMC材料開発〉

 三菱ケミカルグループは、ピッチ系炭素繊維を用いた高耐熱のセラミックマトリックスコンポジット(CMC)を開発した。耐熱温度1500℃という特徴を生かし、宇宙産業用途での採用を目指す。

 CMCは、セラミック基材をセラミック繊維で強化した複合材が一般的。今回の開発品は、セラミック繊維ではなく、ピッチ系炭素繊維を用い、かつ表面に酸素透過バリア層を設けて高耐熱性を実現した。空気中1500℃で1時間保持しても強度が低下しないと言う。

 これは宇宙航空研究開発機構(JAXA)の革新的将来宇宙輸送システム研究開発プログラムの参考値である1600℃で800秒間という条件にも耐え得る。2030年代前半に実現を目指している宇宙輸送システムの往還機熱シールドや宇宙利用・回収プラットフォーム部材への採用を視野に性能向上に取り組む。

〈ユケンケミカル/軽石使わずアタリ感〉

 加工薬剤製造卸のユケンケミカル(愛媛県今治市)は、新たな設備投資をしなくても既存の機器で可能な加工の種類を増やす薬剤開発を進めている。その一つが軽石を使わず、ストーンウオッシュと同等のアタリ感を出せる加工薬剤「リアルストーンEW8」だ。

 ストーンウオッシュは、軽石とジーンズを一緒に入れて釜で洗い、表面にアタリを付ける採用頻度の高い加工方法。軽石がポケット内に残留し、取り除く手間がかかる。残留した軽石が検針機に反応するという課題もあり、産業廃棄物として処理する必要がある。

 リアルストーンEW8は液状から粉状に改良した薬剤で、従来の薬剤で加工する際に必要だったエネルギーや水の削減にもつながる。主に綿や、綿とポリエステルの混紡素材向けで、ブルーとブラックのデニムに対応する。硫化染料の代替として中白染めができる反応染料「リアクティブKR染料」と組み合わせた加工も可能。軽石と一緒に洗うと破れるシャツ地や編み地にもストーンウオッシュの風合いが出る。