シリーズ事業戦略/日清紡テキスタイル/社長 村田 馨 氏/シャツ事業でさらなる攻勢/海外に活路開き収益力高める

2023年09月15日 (金曜日)

 日清紡ホールディングス(HD)の繊維事業は上半期(2023年1~6月)、売上高185億円(前年同期比2.3%増)、営業損失3億1300万円(同3億700万円の損失)で増収ながらもやや赤字幅が膨らんだ。ユニフォーム地の価格転嫁など課題が残るものの、シャツ事業は30%の増収になるなど好調。日清紡テキスタイルの村田馨社長は「いろいろと改善方向に向かっている。上半期より良くなる」と話し、シャツ事業を軸にさらなる攻勢を掛けていく。

  ――上半期を振り返ると。

 赤字が多少増えましたが、想定の範囲であり、シャツ事業が引き続き好調です。特に形態安定加工シャツ「アポロコット」がけん引し前年同期比30%の増収でした。新型コロナウイルス禍でも伸ばせてきたのは、制菌・防汚性能やストレッチなど少しずつ進化させ実用衣料として必要なニーズを捉えてきたことがあります。

 インドネシアをベースにシャツ地の輸出も拡大しています。日本向けだけではなくアジア、中東、欧米など第三国に広げています。拡大している背景には欧米企業が人権問題や米中貿易摩擦のある中国からシフトしている側面があります。染色加工の日清紡インドネシアと縫製のナイガイシャツ・インドネシアでは、環境・安全対応だけでなく労働環境まで含めた国際認証「エコテックス・ステップ」や、労働・人権分野の国際認証「SA8000」を取得しており、トレーサビリティーへの関心の高まりも追い風となっているようです。

  ――中東輸出も強化している?

 以前、中東向けにトーブなど民族衣装用生地を日本から輸出していましたが、1度撤退していました。今、インドネシアからの輸出を再構築しつつあります。紡織のニカワテキスタイルも含め、紡績から織布、加工まで自社で一貫生産ができる強みを生かしていきます。

 日清紡インドネシアへ吉野川事業所(徳島県吉野川市)から8月に移設した液流加工機が稼働し始めています。加工量は10万㍍から倍増となる20万㍍となります。ポリエステル高混率の生地を加工でき、ユニフォーム地の提案にも活用していきます。今月からニカワテキスタイルに増設した渦流紡績機「ボルテックス」2台も稼働しています。

 現状では日本向けが8割で、インドネシア国内を含めた海外向けが2割程度です。海外向けを今後は5割にまで高めたい。収益力を高めていくには独自機能に特化し、購買力のある海外市場の開拓を進めていかなければいけません。

  ――東京シャツは。

 元々200店舗ほどあったのが、直近で118店舗になっています。100店舗にまで減らす予定でしたが、スリム化による体質強化は終わり、現状を維持していきます。収益ベースでは回復しており、黒字化がほぼ見えてきました。

 ただ、電子商取引(EC)は30%を目標に掲げていましたが、現状は20%強で思っていたより伸びていない。コロナ禍からの回復でリアル回帰の流れもあるようです。そこでOMO(オンラインとオフラインの融合)の店舗戦略を推進していく上で、年内にも新幹線を利用するビジネスパーソンをターゲットに八重洲(東京都中央区)と新横浜(横浜市)で新店舗のオープンを計画しています。OMOに沿った店舗レイアウトを意識し新たな客層を捉えていきます。

  ――ユニフォーム事業は。

 2%ほどの増収ですが、大幅な減益です。第1四半期(1~3月)にコストアップのピークを迎え、値上げの浸透がいまひとつでした。ただ、下半期から回復を見込んでいます。高通気とストレッチ性を兼ね備えた「エアリーウェーブ」や、ミズノさんと共同企画し開発した、綿100%ストレッチ織物など独自性の高い素材の販売にもっと力を入れていきます。

  ――開発素材事業は損失拡大となっています。

 熱可塑性ポリウレタンエラストマーの販売が、流通在庫の調整局面もあり落ち込んでいます。マスク向けが順調だったことで、テープやフィルムなどへの販路開拓が後回しになっていた点が響いています。

  ――日清紡HDの繊維事業の通期計画は売上高390億円、営業利益9億円となっています。

 いろいろと改善しつつあり、かなり良くなると見込んでいます。懸念するのは為替。ユニフォーム地の価格改定も十分とは言えず、綿花相場も再び上昇する中、来年以降も値上げをお願いする可能性があります。

  ――廃棄される綿から再生セルロース繊維を作り、製品へと循環させる「シャツ再生プロジェクト」も進んでいます。

 吉野川事業所のパイロットプラントが4月から稼働し、安定して紡糸できるようになってきました。年内には製品サンプルを作ります。

 ポリエステル・綿混などでもセルロースを分離・抽出できる設備の設計も進めており、来年には設備の導入を予定しています。サーキュラーエコノミー(循環経済)型事業の実現に向け、着実に進みつつあります。