今さら 聞けない   中国アパレル市場の常識(6)スポーツ

2024年03月04日 (月曜日)

「農村包囲城市」を実現

 中国スポーツウエア市場は、2008年の北京五輪を機に急成長を遂げた。その後もランニングなど健康志向の高まりを受けたスポーツ人口の増加と、スポーツテイストの流行の追い風を受け、新型コロナウイルス禍前まで2桁%の成長を続けた(グラフ)。調査会社、前瞻産業研究院によると、21年市況規模は、コロナ禍からの“リベンジ消費”の影響もあり、前年比19・1%増の3718億元となった。22年は、上海都市封鎖など厳しい「ゼロコロナ」が重しとなったにもかかわらず、前年並みを維持したようだ。

 「ナイキ」と「アディダス」に代表される海外メガブランドが優勢だった市場は、この10年で大きく様変わりした。地方都市の市場を主力としていた「安踏」(アンタ)、「李寧」(リーニン)が、ナショナルブランド熱の「国潮」(グオチャオ)トレンドの下、都市部に進出し、成果を上げている。消費のアップグレードに合わせて、「デサント」や「アークテリクス」などの高級ブランドも、売り上げ規模を急速に拡大している。

 アンタやリーニンの躍進は、毛沢東が提唱した「農村包囲城市」(山岳や農村から都市を包囲して権力奪取する戦法)を彷彿とさせる。両者は以前、3、4級都市と呼ばれる地方都市の路面店が主力で、大都市圏の若者には「田舎のブランド」と見下される傾向があった。それがこの5、6年で1、2級都市の一等地の商業施設にも店を構えるようになった。

 アンタブランドを運営する地場最大手、安踏体育用品(アンタ)の21年売上高はアディダスの中華圏売上高を超え、22年売上高は米ナイキのそれを上回った。売り上げシェアもアンタがナイキを早晩上回り、トップになりそうだ(表)。

 高級スポーツブランド市場は、日本の「デサント」とカナダ発の「アークテリクス」がけん引している。デサントは、アンタと伊藤忠商事グループの合弁会社、デサントチャイナが、16年から展開。ファッション感度の高い高級なイメージが定着している。アークテリクスは、パーカやジャケットが8千~2万元する超高級ブランドの位置付け。同ブランドを運営するフィンランドのアメアスポーツを19年、アンタが買収している。

 この市場で見逃せないのが、中国独特の巨大な官需だ。アークテリクスは、地方の高級役人が好んで着ているらしい。「ぜいたく禁止令」の中で、ブランドロゴが内側に付いており、外から見えないジャケットなどが人気と言う。(上海支局)