特集 事業戦略(8)/新内外綿/社長 田邉 謙太朗 氏/わたから新たな価値紡ぐ/エーゲ海有機綿糸の輸入開始

2024年02月27日 (火曜日)

 新内外綿は原料に着目した糸の付加価値化に力を入れる。さまざまな未利用繊維を使った綿混糸や、来期からはトルコで紡績する“生産者の顔が見える”オーガニックコットン糸の販売も始める。“環境”や“トレーサビリティー”といったファッション産業で注目されるテーマに沿った新たな商材を充実させる。

――2024年3月期もあとわずかとなりました。主力事業である紡績とアパレルODMの各事業のこれまでの動きを振り返ると。

 売り上げでは改善しているものの利益では苦戦しています。紡績事業はこれまでの値上げ効果が出ていますが、製造コストの上昇分が値上げ幅よりも大きいため利益を圧迫しています。製造原価、エネルギーコストや物流費の上昇、さらに円安も逆風となっています。

 ボタニカルダイなど独自性があり、当社しか扱っていない糸に関しては底堅い発注がありますが、多品種、少量になる傾向が続いており、最終的に生産量を合算すると昨年より落ちているのが実態です。

 シキボウの完全子会社となって2年半ほどが経ちますが、連携した商材開発も進み展示会では共同でブースを構えてアピールしています。

 アパレルODM事業に関しては、23年はインバウンド効果もあって百貨店など衣料品小売りの商況は上向きましたが、当社はその恩恵を十分に受けているとは言えない状況です。杢(もく)糸を使ったハイエンド品の売れ行きはそれほど活発でないためではないかと考えています。

 ここ数年、ODM事業の高付加価値化を図るためデザイナーをはじめ新たな人材を増やしており、この部署の人員は全体の半数を占めるまでになっています。デザイン性やトレンドを取り込む力が向上するといった成果は出ていますが、人件費もその分、上がっています。紡績事業と連携をしっかりとって当社でしかできない独自性やストーリーのある製品を提供し紡績と製品の双方でプラス効果が得られるようにしたいですね。

――来期に向けて課題と戦略を。

 業界全体の課題としては、最終消費者への価格転嫁がまだ十分ではないということです。私たちも提案する価格が通るような、価値のある糸を開発する必要があります。

 そのために私たちが考えているのが原料での高付加価値化です。糸に物語や唯一性の高い価値を付けることで、取引先にその価値を認めてもらうことが欠かせません。当社だけでしか作れない糸、当社だけが扱う糸がこれからの当社の成長の鍵となるでしょう。

 昨今、注目される“環境”というテーマは私たちの商機といえます。例えば、ヘンプ、葦(よし)、竹、パイナップルの葉といった未利用繊維があります。こうした繊維原料はこれまで地球上にふんだんにありながら、商業ベースではあまり使われる機会が少ないため“未利用”の繊維だったわけです。

 これを当社ならではの混綿のノウハウや独自の原料調達網で商材とし、さまざまな用途で供給すれば、未利用だったものに価値を与えられます。従来なら廃棄されたり、見過ごされていたりしていたものに優良な繊維原料としての価値を与えることができるのです。

 当社の主力の紡績糸の原料は綿花ですが、一口に綿花といってもさまざまな商材があります。最近では誰が、どこで、どのように育て、どんな風に摘み取ったのかといった、より踏み込んだトレーサビリティーが求められるようになっています。ここにも綿紡績である当社ならではの知見が生かせます。

 来期からはこのトレーサビリティーを価値とする、トルコからの輸入綿糸「エーゲ海オーガニック」の販売を始めます。この糸はトルコのエーゲ海に面した畑から取れる中長綿のオーガニックコットンから作られます。欧州へも大量に供給されるため、栽培方法も欧州が推奨したものを採用しており、人による摘み取りではなく、全て機械で刈り取っているため異物の混入も少ないのが特徴です。

 紡績はトルコで行い、トレーサビリティーの高い、“生産者の顔が見える”糸として打ち出します。まずは糸の輸入販売ですが、市場の反応が良ければ、綿花の状態でトルコから持ってきて、当社の国内工場で糸にすることも検討します。

――独自のアパレルブランド「mocT」(モクティ)事業の現状とこれからについて。

 モクティは当社の70周年の節目となる18年2月に立ち上げ丸6年となります。これまで百貨店での催事や専門店ブランドとのコラボレーションなどもしながら少しずつですが、国内外で販路を広げてきました。

 新型コロナウイルス禍で一時期、販路開拓が低迷したこともありましたが、再び動きだしています。今はこれまでの成果を踏まえて、ちょうど変化を遂げる時だと思います。従来、グレー杢が中心でしたが、23秋冬から多彩な色展開も始めました。これからより飛躍するためにチャレンジが必要ですね。モクティという製品を切り口にODMや紡績事業にもプラス効果が波及するようなブランドにしたいと思います。