特集 事業戦略(3)/日清紡テキスタイル/社長 村田 馨 氏/高付加価値シャツ販売拡大/資源循環で前進へ

2024年02月27日 (火曜日)

 日清紡ホールディングスはこのほど、2026年12月期を最終年度とする3カ年の中期経営計画を発表した。日清紡テキスタイルを中核とする繊維事業では売上高430億円、営業利益19億円を目標に掲げる。基幹となるシャツ事業で高付加価値商品の販売拡大によって「売り上げを伸ばし、利益を確保する」(日清紡テキスタイルの村田馨社長)ことが計画達成の上で最重要課題となる。

――前期(23年12月期)の繊維事業の売上高は前期比2・2%減の374億円、営業損益が4億2千万円と再び赤字になりました。

 営業損失となったのは、ブラジル紡績子会社で原料高の原糸安に加え、荷動きが悪くなったことが一番の要因で、販売調整によって大赤字となりました。一方でキャッシュフローを優先し生産を抑えたことで、純利益では黒字であり、今年に入ってから稼働が正常に戻りつつあります。

 開発素材事業では、新型コロナウイルス禍で熱可塑性ポリウレタンエラストマーの販売がマスク向けに大きく伸びましたが、その反動が出ました。

 この2点が足を引っ張りましたが、ユニフォームやシャツといった衣料向けテキスタイル全体では増収増益でした。

――特にシャツ事業は堅調ですね。

 前期比12%の増収となっています。市場全体のシャツの物量を見るとコロナ禍前の8割程度で安定しており、実需に結び付く商品の動きが活発です。中でも当社の形態安定加工シャツ「アポロコット」は10%増で伸びました。もっと柔らかい風合いを求める声から、高い形態安定性を維持しつつも、綿特有の優しい肌触りにこだわった後加工織物「ウェルフィール」も開発しており、販売に注力しています。

――インドネシアの拠点を軸に第三国輸出の拡大にも努めています。

 現地のローカル企業向けに販売が増えています。環境や安全、労働、人権に対応する国際認証を取得しており、トレーサビリティーを重視する傾向にある欧州向けにも少しずつ増えています。とはいえ、それだけでは採用は増えない。商品力や開発力を高め、付加価値のある差別化商品の供給に力を入れています。

 ローカルを含めた海外向け売上高は22年度の2割から前期は3割ほどまで高まっています。特に中東民族衣装向け生地輸出は倍増し、海外向けの3分の1を占めるまでになってきました。

 昨年8月に織布・染色加工拠点の日清紡インドネシアへ吉野川事業所(徳島県吉野川市)から液流加工機を移設しました。グローバルに拡大するため、さらに液流加工機の新台増設を検討しています。

 昨年9月には紡織拠点のニカワテキスタイルに増設した渦流紡績機「ボルテックス」2台も稼働しています。他の紡機も中期的に革新タイプに置き換えていきます。織りや加工での技術、混紡や合繊使いなど新しいモノ作りにつなげていきます。

――東京シャツはEC(電子商取引)比率の向上が課題でした。

 ECでの販売は伸びていますが、リアル店舗も伸びており、20%にとどまっています。OMO(オンラインとオフラインの融合)による店舗戦略を加速しており、新幹線を利用するビジネスパーソンをターゲットに、ECでのサービスを体感できる新たなコンセプトの店舗を、八重洲(東京都中央区)と新横浜(横浜市)に昨年末にオープンしました。

――ユニフォームでは依然として価格転嫁が課題です。

 ユニフォーム向けだけを見ると増収減益でした。引き続き価格の適正化に努めるとともに、高通気とストレッチ性を兼ね備えた「エアリーウェーブ」や、綿100%でありながらストレッチ性の高い「アスタリスク バイ ナチュレッシュ」といった差別化素材の拡販に力を入れます。

――開発素材事業はどうですか。

 底は脱したように感じます。綿100%不織布「オイコス」では農業資材向けに開拓を進めています。エラストマーはバイオマス原料を使った商品開発などに取り組んでいます。

――今期から新中計がスタートしました。

 基幹のシャツ事業で、より消費者から支持される機能性を持った付加価値の高い商品開発に取り組みます。そしてグローバル展開や東京シャツのECビジネスも加速させ、売り上げを伸ばすことでしっかり利益を確保できる体制にしていきます。

 開発素材事業は赤字部分の再構築をしていかなければならず、不採算の見直しもあり得ます。短期的には価格の是正が課題ですが、中長期的にはモノ作りと環境対応がベースとなっています。

――「シャツ再生プロジェクト」による綿製品の繊維to繊維リサイクル技術の確立も進めています。

 昨年中にシャツのサンプルを作る予定でしたが、再生セルロース繊維糸に強度があり過ぎることで織物にする段階で手間取っており、少し遅れています。吉野川事業所では16時間の連続紡糸に成功しています。複合素材からセルロースのみ分離する設備を今月中には導入する予定で、安定生産に向けた動きが着々と進みつつあります。今年は資源循環に向け前進する1年となりそうです。