シリーズ事業戦略/日本衣料管理協会/会長 島﨑 恒藏 氏/資格取得後もフォロー/繊維ファッション産業支えるTES

2024年02月27日 (火曜日)

 日本衣料管理協会は、繊維ファッション業界の発展と国民の健全な衣生活への寄与のため、人材養成や調査・研究などに取り組んでいる。中でも事業の柱である「繊維製品品質管理士」(TES)の資格認定事業は、素材や加工の進化、繊維リサイクルの進展、流通・販売形態の多様化など、さまざまな変化に対応し、時代に即した人材の高度化・専門化を後押しする。その意義と展望について、島﨑恒藏会長に聞いた。

  ――TES資格制度誕生の経緯を教えてください。

 当協会は1971年12月、家政学部など衣料管理士(TA)の養成教育に当たる大学や短期大学、学識者で発足しました。TAは、繊維ファッション産業で活躍する女性の育成を目的に始まりました。

 名称は学校によって異なりますが、生活の基盤となる衣食住や育児などを科学的に探究する家政学部は女性が多いですね。食物学専攻では「栄養士」や「管理栄養士」といった資格があり、それを生かして企業に就職できますが、被服学専攻の場合は家庭科教員が主体で、企業への就職に難しい面がありました。そこで、米国の「ホーム・エコノミスト・イン・ビジネス」(HEIB)を参考に、学校教育の成果に基づいて認定するTAをスタートしました。

 当時は服作りが母親、家庭の仕事であり、「男女雇用機会均等法」施行の15年も前のことでした。現在TA(4年制大学の場合は1級、短大は2級)は5万人を超え、品質管理から販売・営業、商品企画、相談業務など幅広い職種で活躍しています。

 ただ当然ですが、実際に繊維ファッション業界で働く人たちは、被服学系の教育を受けた人ばかりではありません。特に流通・販売に携わる人は、消費者に素材やモノ作りのことを聞かれても答えられないことが多く、当時はホルマリンなど衣料公害の問題もありました。改めて繊維全般の知識を身に付けようとの機運が高まり、TA誕生から10年後の81年にTESがスタートしました。

  ――TESは既に業界で働く人材の高度化に役立つのですね。

 衣料品を中心に、寝装・インテリアや産業資材など繊維製品の品質・性能の向上を図り、企業活動の合理化、消費者利益の保護に資する資格です。社内の昇格・昇給や社員教育の一環として活用する企業もあります。結果的に業界関係者が多いですが、年齢・学歴・職業不問で誰でも受験できます。

  ――どのような試験内容ですか。

 基礎知識を問う短答式3科目と、識見・応用能力を問う記述式2科目の計5科目から成ります。

 短答式の3科目は、「繊維に関する一般知識」「家庭用繊維製品の製造と品質に関する知識」「家庭用繊維製品の流通、消費と消費者問題に関する知識」で、記述式では繊維製品の品質・性能に関する消費者苦情などの事例問題、社会や繊維業界の現状を理解しTESとして必要な識見を問う論文問題が出題されます。

 試験範囲は広く、自然科学、社会科学双方の知識が求められますが、科目ごとの“取りだめ方式”となっています。合格した科目は次の年から3年間有効で、4年間で全科目合格すればいい。またTAは繊維に関する一般知識の科目が免除されます。2023年度は1448人の出願があり、取りだめ方式を含め300人がTESに認定されました。

 繊維ファッション産業は多段階の業種にわたるため、当協会内に素材、染色・加工、縫製、流通・販売、クリーニングなどの各業界団体で構成する「TES制度推進協議会」を設けました。意思疎通を図り、それぞれの最新情報をダイレクトにTES制度に反映できることも強みです。

 昨年は短答式試験のテキスト「繊維製品の基礎知識」(3科目3分冊)を改訂。環境負荷をかけないモノ作り、リサイクル、JIS規格や品質表示の改定といった部分をアップデートしました。

  ――資格取得者へのアフターフォローはありますか。

 企業や業種の枠を超えたTES同士の連携と、最新知識の獲得を重視した「TES会」でフォローしています。全国5支部(東日本、中部、西日本、北陸、中国)に分け、行政との連携や情報交換をはじめ、工場見学会、クレーム事例勉強会、試験機の講習会・実習などの活動をしています。TES会事務局では、年6回「TES会通信」を発行し、こうした各支部の活動や行事予定などを紹介しています。

 TESは5年ごとの更新制で現在8千人超が活躍していますが、試験での更新に加え、TES会の出席回数も更新に反映しています。一人でも多くのTESが社会の変化に対応し活躍できるよう、TES会のさらなる活性化にも努めていきます。

  ――今後の展望をお願いします。

 制度発足から40年以上経ち、受験者数は15年の2700人をピークに減少傾向にあります。新型コロナウイルス禍による企業への影響もありました。しかし、プロダクトアウトからマーケットインへのさらなる推進、SDGs(持続可能な開発目標)の潮流などから、消費者との信頼関係に基づいた企業活動が重視され、製造はもちろん、流通・販売でもTESの存在意義は高まっています。経営者の方々に今一度TESへの認識を深めていただき、従業員の働き方改革や待遇改善などにも活用していただければ幸いです。

 TESの上位資格制度の検討も始めました。今後も繊維ファッション業界の発展と消費者利益に寄与する人材の育成に力を入れて参ります。