診 先高?先安?

2024年02月26日 (月曜日)

〈ポリエステル長繊維/一部で震災の影響/当面は在庫調整局面〉

 ポリエステル長繊維の市況は昨年12月まで大きな材料もなく様子見の展開が続いていたが、元日に能登半島地震が発生し、一時的に荷動きが止まるなど影響があった。ただ2月以降は正常化しており、今のところ震災の影響は限定的だ。それ以上に衣料用途、産資用途ともに需要が調整局面となりつつある。

 能登半島地震では最大需要地である北陸の広い地域で何らかの被害が生じた。産地企業に直接の被害がなくとも道路などインフラの損傷などで物流が停滞した。このため1月はポリエステル長繊維の荷動きも一時的に鈍化した。ただ、2月に入り、ほぼ正常化している。

 震災による一時的な影響は落ち着いたものの、市況全体は一服感が強まってきた。カーシートなど車両資材用途は年末までは堅調な荷動きが続いていたが、ここに来て明らかにペースが鈍化している。在庫調整に加えてダイハツの自動車生産が不正発覚で全面停止した影響も少なからずあるようだ。

 一方、一般資材用途は安定している。円安で輸入品の価格が上昇していることが追い風となっている。ただ、ホームインテリア用途は依然として需要に勢いがない。

 衣料用途も先行きを楽観できない。国内は暖冬の影響でアパレル製品の販売量が鈍化しており、今後の原糸需要への悪影響が懸念される。スポーツ・アウトドアを中心とした輸出テキスタイル向けは北米市場で流通在庫の整理が進みつつあるものの、欧州は回復が遅れている。

 このため原糸メーカーでは4~6月も厳しい市況が続くとみており、その後の在庫調整進展による需要回復を期待する我慢の状態がしばらくは続きそうだ。

〈ポリエステル短繊維/車両向けが失速/生活資材は改善傾向〉

 ポリエステル短繊維は2024年に入ってから車両向け不織布用途の荷動きが急激に失速した。自動車メーカーの不正発覚による生産停止の影響がポリエステル短繊維にも及んでいる。

 車両向け不織布用途は23年に自動車生産台数の回復に合わせて底堅い荷動きが続いていたが、24年に入って状況が一変した。

 ダイハツとトヨタ自動車向けエンジンを生産していた豊田自動織機の不正発覚による自動車生産一部停止の影響が顕在化し、車両用不織布向けポリエステル短繊維の荷動きも急激に鈍化した。

 不織布用途ではスパンレース不織布向けなど生活資材分野は昨年から状況に変化はない。需要家である衛材・生活資材メーカーの商況に濃淡があり、これに合わせて原綿販売も供給先ごとにまだら模様。ただ、ここに来て市況に改善の兆しも見えてきた。寝装用途は低調が続いている。円安にもかかわらず輸入わたの価格が上がっておらず、競争が激化している。

 紡績用途も資材向けが市況に勢いを欠く。需要期にかかわらず荷動きが低調だった。一方、衣料用途は比較的堅調に推移している。日本で生産される紡績用ポリエステル短繊維は特殊品への特化が進んでいるため、一定の需要が底堅く存在する。

 今後の見通しに関しては、生活資材向け不織布用途は市況が改善に向かうとの見方が強い。紡績用途も資材向けは能登半島地震の復旧需要などが見込まれ、需要が高まる可能性がある。衣料向け紡績用途も比較的安定しているとの見方だ。ただ、車両向け不織布用途は自動車生産が正常化するまでは荷動きの回復も見込めない。このため車両向けの落ち込みを他用途でどれだけカバーできるかが焦点となる。

〈綿織物/輸入品流入加速で不振/世界的にも需要減退〉

 綿織物の需要は不振が続いている。輸入品の流入や商売構造の変化などが影響しているとみられる。世界的にも綿織物の需要は減速しており、今後も盛り上がる要素が見当たらない。相場は綿花価格の上昇で若干強くなっている。

 綿織物を扱う商社によると、切り売り向けは相変わらず不調の状態で、寝装品向けも苦戦が続く。衣料向けは23年春夏物の店頭販売が好調だったものの、暖冬の影響で23年秋冬物が振るわなかったため、24春夏物の動きは良くない。

 国内に安価な輸入品の流入が加速している点も関係する。日本ではエネルギー費や原材料費などのコスト高を背景に産地の工場は加工料金の引き上げを推進。以前よりも国内でのモノ作りが割高のため、海外で製品まで生産し輸入するという流れが顕著だ。

 モノを作り過ぎない傾向が進んだことで、これまでのビジネスの構造が変化していることも要因だ。以前までは初回の注文だけでなく、リピート注文があったことで生地が動いていた。商社は「一回で注文が終了するので生地が売れないし、見込み発注もしなくなった」と指摘する。

 世界的にも綿織物の需要は厳しい状況だ。商社の話では、パキスタンやインドネシアなどにある紡績や織布工場は生産スペースを埋めるため、安い価格でも仕事を受けていたが、今ではスペースは空いたままとなっている。「作っても需要が見込めないから」と続ける。

 相場は原料となる綿花価格が上昇しており下がる気配が見えないため、「現在の相場は少し強い」(商社)。当面はこうした状態が維持されそう。

〈アクリル短繊維/中国市場の低迷続く/国内は各用途動きだす〉

 アクリル短繊維の荷動きは2024年に入ってからも海外向けが勢いを欠く。特に中国向けは低迷が続いており、今後の動きも不透明感が漂う。一方、国内向けは各用途とも年明けから動きだした。

 アクリル短繊維は昨年後半から海外向けの荷動きが急速に悪化していた。特に中国向けは元々、アンチダンピング課税によって大きく伸びる余地が少ない中、現地の景気悪化からアウター向けなど残された需要もオファーが急減した。

 年が明けても低調な状態が続いている。ただ、インナー向けは需要期入りで少しずつ荷が動き始めており、需要家の在庫調整も一巡したとの見方がある。

 一方、国内向けはインナー、レッグ、リビング、手芸など各用途で需要期入りによる動きが出始めた。昨年に三菱ケミカルグループが撤退したことによる代替需要も問題なく残ったメーカーが取り込んでいるようだ。

 今後に関しては、中国の景気回復が遅れていることから海外を中心に不透明感が残る。かつて大きなウエートを占めたハイパイル用途はほぼポリエステル繊維に代替されており、この用途でアクリルの需要が回復する見込みは薄いというのはメーカーの見方だ。インナーやアウター用途でどこまで需要回復が進むかが焦点となる。

 国内は各用途とも比較的堅調に動くとの見方が強いが、暖冬で冬物衣料の店頭での荷動きが鈍いことが不安材料となる。

 日本化学繊維協会のまとめによると12月末段階でのアクリル短繊維の在庫は2万2572㌧(前年同月比11・5%増)と依然として高水準なことも需給バランスの面で弱材料となる。引き続き先行き不透明な市況が続きそうだ。