特集 紡毛・獣毛(1)/逆境下、サステに活路

2024年02月21日 (水曜日)

 紡毛の糸や生地の流通在庫が膨らんでいる。暖冬などの影響で23秋冬向けが売れ残ったためだ。一方、環境配慮の流れから、再生ウールへの注目度は高まっている。

 尾州産地では相当数の紡毛織物が在庫として積み上がっている。新型コロナウイルス禍が落ち着き、23秋冬向けは生地生産が回復したが想定以上に衣料品の売れ行きが悪かった。

 尾州にある紡績、織布、染色整理加工の各段階からは苦境がにじむ。ただ、再生ウール糸などサステイナブルな流れが加速しているのは間違いない。各社の動向を探る。

〈明確な他社との違い、売れ筋に/大津毛織〉

 大津毛織(大阪府泉大津市)では、他社との違いを明確にしたテキスタイルが売れ筋になりつつある。その一つが軽量織物「エアーファブ」。タスマニアラムウール使いで、空気を含ませた特殊な紡績によって通常の紡毛糸に比べ20%ほど軽く、婦人向けを中心に販売が増えてきた。

 リサイクルウールの紡毛糸を使った「オズミー」も「価格がこなれていながらも風合いが良い」ことから採用が増加。生地の製造過程や縫製時にできる裁断残布を色ごとに集め、特殊な機械によってわた状態に戻して再度紡績したもので、「エコマーク」も取得している。

 撥水(はっすい)加工のアクアドロップはコート用途への採用が拡大。撥水性は4級(湿潤がなく、小さな水滴が付着程度)で、10回ドライクリーニング後も3級(小さな水滴状の湿潤程度)を維持する。

 ジーロンやタスマニアのラムウールなど高級原毛使いの引き合いも活発化。経糸に梳毛糸、緯糸に紡毛糸を使ったサキソニーやグレンチェックといった生地として使われるケースが多く、風合いに加え、高品質感による「見た目の違い」から高級ゾーンへ採用が進む。

〈今期苦戦も再生ウール堅調/大和紡績〉

 紡毛紡績の大和紡績(愛知県一宮市)は今期(2024年9月期)、苦戦を余儀なくされている。紡毛の糸や生地の流通在庫が積み上がっていることで需要が盛り上がらない。一方で再生ウール糸の販売は堅調が続く。

 前期は海外からの生産回帰でフル稼働が続いたことによって増収増益で着地。24秋冬向けは、暖冬などの影響で前シーズンの糸や生地の在庫が積み上がっており、今上半期(23年10月~24年3月)の売上高は前年同期比で3割減を見込む。

 バージンの紡毛糸の動きは不調な半面、サステの流れを追い風に再生ウール糸は「昨年以上の量が動いている」(同社)。再生ウール糸は原料となる廃棄衣料や糸くずを厳格に管理した上で、色合わせなどの品質の安定性には定評がある。

 現状、売上高比率ではバージンが6割、再生ウールが4割となるが、生産量では半々となっている。課題はエネルギー費高騰といったコスト高だ。紡績の加工料金は以前の15%ほど上げているが、全てを転嫁できてはいない。

〈希少な国産生糸も活用/東洋紡糸工業〉

 カシミヤ・紡毛紡績の東洋紡糸工業(大阪府忠岡市)は、主力のカシミヤ糸に加えて絹紡糸のラインアップを拡充する。秋冬物だけでなく春夏物にも提案できる商材を増やすことで年間を通じた販売拡大を狙う。その一環としてこのほど、希少な国産生糸を活用した絹紡糸も開発した。

 暖冬の影響もあって同社のカシミヤ糸やウール紡毛糸の荷動きも勢いが鈍化しているが、「紡毛の人気は続いている」(高橋恭二社長)。例えばカシミヤ50%・シルク50%混紡糸などの販売が好調。最高級素材であるベビーカシミヤ糸も根強い人気があり、独自性のある高付加価値糸のニーズは強い。

 このためさらなる高級素材としてベビーカシミヤ・ビキューナ混紡糸もラインアップに加える。また、独自のプロテインコーティング加工によって家庭洗濯可能な絹紡糸「マユカ」を希少な国産生糸でカバーリングした糸も開発した。絹紡糸に長繊維の光沢が加わる。

 1月にはイタリアで開催された糸・ニット総合展示会「ピッティ・フィラーティ」に親会社である島精機製作所のブースで出展した。今月末からフランスで開かれるファッション見本市「トラノイ」に昨年に続いて出展し、海外市場への提案にも力を入れる。

〈原料の特徴生かす/東和毛織〉

 紡績糸製造卸の東和毛織(愛知県一宮市)は、産出国や産地で分かれるウール原料の特徴を生かし、使用する服種や販売先のニーズに合わせた提案が奏功している。原料の持つ特性を引き出した、独自性の高い高品質な梳毛糸や意匠糸を販売している。

 産出国や生息する羊の種別で特徴が分かれるウールの原料を熟知し、販売先と共有しながら適切なモノ作りを進める。フランス産のメリノウールを紡績した糸の引き合いは多く、受注が安定している。膨らみと弾力を兼ね備え、バルキー性に富む。セーターに仕上げると奇麗な編み柄を形成する。ほかにも、スペイン産や米国産ウール使い糸の要望も増えている。

 糸の表面に微小なパイルを形成し、通常糸の倍のかさ高を付与した独自の紡績糸「エアリースパン」も受注が安定している。暖かさだけでなく、軽さを併せ持つ糸として人気が高い。

 獣毛使いでは、アルパカやモヘア使いのヘアリーな糸の引き合いが多い。毛足が長めの起毛糸に仕上げて、しなやかな風合いを形成する。