特集 小学生服(1)/さまざまな角度から提案を
2024年02月19日 (月曜日)
制服(標準服を含む)を採用している小学校は中学校、高校に比べて少なく、市場は長年広がっていない。これまで私服を採用してきた学校が制服を導入する事例は少なく、提案も難しいのが現状だ。ただ、学校の統廃合や経済的な理由から、制服を採用する流れは一部ではある。動きの少ない市場ではあるが、制服を導入することのメリットなどを発信していくことが求められそうだ。
〈少子化が加速/小学校在学者数も減少傾向〉
少子化が加速している。厚生労働省が先月23日に発表した人口動態統計速報(日本に住む外国人や外国に住む日本人も含む)によると、昨年1~11月までの出生数は69万6886人で、前年同期比5・3%減となった。
2022年の出生数は80万人を割って77万759人と、1899年の調査開始以来最少となった。昨年11月単月の出生数は6万2428人だったが、12月も同じペースが続いた場合、23年の出生数も過去最少となる可能性がある。
少子化に伴い、小学生の数も減少傾向にある。文部科学省が昨年12月に発表した23年度学校基本調査(確定値)によると、小学校の在学者数は604万9685人で前年比10万1620人減となり、過去最少を記録した。22年度は前年比7万2090人減少しており、減少幅も拡大した。
小学校は全国に1万8980校(23年度学校基本調査)ある。そのうち、標準服を採用している学校は15~20%ほどとみられ、ここ数年大きく変化はしていない。これまで私服を採用していた小学校が新しく標準服を導入するハードルが高いなど、採用が広がらないのが現状だ。
ただ、採用する学校は導入することのメリットや重要性を感じている。洛南高等学校附属小学校(京都府向日市)は14年の開校から制服を採用している。採用する意義について、「正しく服を着ることで学校に対する誇りを持ってもらう、学校に通っているという愛校心を持ってもらえれば」とする。
小学校では、中学校や高校など、同じグループの学校が制服を刷新するタイミングで導入するケースも(8面参照)。近年、性的少数者(LGBTQ)への配慮から、中学校を中心に性差の出にくいブレザーへと制服を変える流れが広がっている。「小学校段階でも何か対策が必要なのでは」との考えから、制服を刷新する動きも一部ではあるが見られる(9面参照)。引き続き制服を取り入れることのメリットを発信することも求められてくるだろう。
〈機能性前面に訴求/学校支援も切り口に〉
学生服メーカー各社は引き続き、小学生服で機能性の高い商品をそろえて訴求している。菅公学生服は「カンコータフウォッシュ」ブランドを主力に提案を進めている。繰り返しの洗濯にも耐える洗濯耐久性が評価されており、「顧客から評価をもらっている」(曽山紀浩取締役)。
トンボも、防汚、撥水(はっすい)、撥油、静電防止加工に加え、サイズ調整機能やストレッチ性による着心地の良さなど機能が充実する「トンボジョイ」の販売が堅調に推移。皆川明デザイナーが手掛ける「ミナ ペルホネン」とのコラボレーション制服は流行に左右されず、長年着用できるデザインから、SDGs(持続可能な開発目標)の観点などへ賛同する学校に提案を進めている。
ニット製品の販売を伸ばすのは明石スクールユニフォームカンパニー。ニットシャツ「ラクポロ」はイージーケア性や着心地の良さが好評だ。
学生服メーカーでは単に制服を販売するだけではなく、さまざまな角度からの提案も広がってきた。オゴー産業(岡山県倉敷市)は地域の安全な環境作りに役立てる「全国地域安全マップコンテスト」を開き、児童の危険察知能力向上に向けたサポートを長年続けている。片山一昌取締役は「当社にしかない武器を強みに、今後も提案していく」と話す。
“防災”を切り口にした提案に力を入れているのは明石スクールユニフォームカンパニー。さまざまな防災学習教材などをそろえながら、学校をサポートしている。
菅公学生服はグループ会社に、教育ソリューション事業を展開するカンコーマナボネクト(岡山市)を持つ。子供の非認知能力(数値化が難しい個人の特性による能力)の育成に向けた提案を進めている。玩具メーカーのメガハウス(東京都台東区)と協業したプログラムを今後小学校で展開していくなど、プログラムの充実を図りながら学校支援につなげる。
〈吉善商会/ブランディングで差別化〉
学生服製造卸の吉善商会(東京都中央区)は、小学生服においても中学・高校と同様にジェンダーレスの考え方が広まりつつあるとして対応を進めている。既に防寒用を兼ね女子が着用できるパンツの導入を始めたケースもある。
現在手掛けている私学を含め、伝統校は一度制定した制服のデザインを変更するケースはあまりない。より機能性を高めた素材の提案といった側面からブラッシュアップに重点を置く。新規の制服受注校に対しては、徹底したブランディングを元に、デザインを細部に至るまで追求し、大手との差別化を図る戦略だ。
一方、少子化で児童数の増加が見込めない中、一貫校ではない小学校への営業活動は積極的には行っていない。課題の一つが価格だ。子供服としての価格帯に見られることが多く、デザインや品質へのこだわりを、あらかじめ理解してもらうことからがスタートとなると言う。