技術の眼/YKK/東レ/日清紡HDとグローブライド/青山商事/豊島/清原

2024年02月14日 (水曜日)

 「技術の眼~NEW WAVE GENERATING TECHNOLOGY~」では将来的にニューウェーブを巻き起こし得る重要な技術にスポットを当て、紹介する。

〈YKK/挿入補助機能のあるスライダー〉

 YKKは、加齢による視力低下などで細かい作業が困難になった人でも使いやすいように配慮した「挿入補助パーツ」を提案する。ファスナーを閉じる際の挿入作業を簡易にすることで、楽な洋服の着脱を可能にした。

 この発想をベースに開発した「挿入補助スライダー」は、さらに利便性とコンパクトさを追求した製品。蝶棒をスライダーの下面に添えて入れることができる挿入補助機能を付加した。

 従来品よりスライダーの下面を広げ、さまざまな角度から容易に蝶棒を差し込めるようにした。挿入口の拡大により、上からの視線でも挿入の位置が確かめやすくなった。

 現在はコイルファスナーNo.3用として展開しており、利便性などを訴求して用途拡大を図っている。

〈東レ/高弾性と強度両立の炭素繊維〉

 東レは、高弾性率を維持しながら強度を約20%高めた炭素繊維「トレカM46X」を開発した。炭素繊維複合材料(CFRP)の軽量化を通して環境負荷低減への貢献が期待でき、釣りざおや自転車、ゴルフシャフトなどのスポーツ用途をはじめとする幅広い分野に提案する。2024年度に販売を始める。

 炭素繊維の弾性率と強度はトレードオフの関係にあり、この二つを両立することは難しいといわれている。特に弾性率が350ギガパスカル(GPa)以上の炭素繊維では、高い弾性率を保ったまま強度を上げることは技術難易度が高い。同社は弾性率と強度を両立したMXシリーズを開発・投入し、市場ニーズに応えてきた。

 同シリーズで培った繊維内部の黒鉛結晶構造と配向性を制御する技術の追求がトレカM46Xの開発につながった。黒鉛結晶構造を超微細かつ超高配向にナノレベルで制御することで、従来と同等の弾性率を維持したまま強度を20%以上高めることに成功した。

〈日清紡HDとグローブライド/落水検知機能付ベスト〉

 日清紡ホールディングス(HD)とグローブライドは、落水検知ユニット付きフローティングベストを開発した。落水時の自動SOS発信とフローティングベストの浮力の両面から、釣りをはじめとするウオーターレジャーの安心・安全に貢献する。釣り関連展示会に参考出展する。

 日清紡HDが展開する落水検知機能は、落水検知ユニットを装着したユーザーが海中に転落したことを自動検知し、スマートフォンアプリを通じて落水情報を通知する。海上の安全支援サービス「ジェイマリン・セーフティ」を2021年4月に開始して以来、アプリは累計で約4万5千インストールに達する。

 ジェイマリン・セーフティとフローティングベストを組み合わせたのが「ダイワフローティングアラートベスト」だ。ベストは雨や波をかぶってもスマートフォンが水没しにくい止水ファスナー付きポケットを採用。落水検知ユニット用ポケットも紛失防止などの工夫を施した。

〈青山商事/発熱裏起毛スラックス〉

 青山商事は、発熱機能を備えた特殊素材「サーモウォーカー」を使った裏起毛スラックスの販売をこのほど始めた。全国の「洋服の青山」店舗と公式オンラインストアで取り扱う。機能性を訴求する「♯すご」シリーズの商品で価格は7590円。

 冬の厳しい寒さの中で、光熱費の高騰や物価高が続き暖房費の負担を心配する家庭は多い。暖かさを保ちながら電気代の節約、省エネにつなげられる方法として、会社や家の中でも衣類を着こむウオームビズは効果的だ。ただボトムスは重ね着しにくいのが難点。「ヒートインナーを着用するとごわついてしまう」といった悩みの声が寄せられたことをきっかけに、同商品を企画したと言う。

 サーモウォーカーは体内から出る湿気を吸い取り、それを熱に変え暖かさを保つ。発熱機能と裏起毛がヒートインナーの役割を担い、1着で暖かい。すっきりとしたシルエットで、ビジネスシーンでも使いやすいデザインに仕上げた。商品部の佐藤宏樹氏は「裏起毛で生地にやや厚みがあるが、従来品のスラックスと変わらないはき心地になるよう工夫した」と話す。

〈豊島/AI活用し柄生成〉

 豊島は、人工知能(AI)を活用し、人の感性と基になる柄の情報を組み合わせることで、数千パターンの柄を生成AIが自動で制作するシステムの提案を開始した。

 ファッションブランド、クリエーター、プリントサービス事業者などに同システムの導入を促し、業務効率の改善や新しい発想のヒントにつなげてもらう。

 柄を生成AIで作るサービスで、柄の種類ごとに、「かわいい」「現代風な」「清潔感のある」といった好みを表現する46のキーワードを設けた。加えて「ノーマル」「やや」「かなり」の3段階で強弱の程度を選べるようにした。これらを選択すると、1~2秒で柄が完成する。同システムでは、独自に作成したプリントアートを豊富にそろえている。

 同社は、3次元(3D)技術を駆使してアパレル生産の効率化に取り組む事業「バーチャルクロージング」を推進する。

 3Dモデリングの多様な活用も進めている。昨年には渋谷パルコ(東京都渋谷区)での「NFFT2023ジェネラティブAI×ファッション展」に参加し、AIが生成したデザインを3Dモデリングで具現化する役割を担った。

〈清原/海洋生分解の副資材提案〉

 副資材商社の清原(大阪市中央区)は、海洋でも生分解する製品「アクアリターン」の提案を開始した。100%植物由来の原料を使用し、ボタンやひもストッパーなどを作った。

 洗濯する衣類から流れ出るマイクロプラスチックの問題の発生を防ぐメリットなどを訴求し、アパレルやスポーツ・アウトドア製品での採用を目指す。海洋生分解という独自性を発揮できる商材を通じて提案力をアピールし、ビジネスの拡大につなげていく。

 アクアリターンの副資材は、バイオプラスチックを主原料とする。優れた生分解性により、海洋に排出されても環境に負荷をかけないため、マイクロプラスチック問題にも対応する製品として打ち出す。既に、海洋生分解性を持つことを証明する国際認証「OK biodegradable MARINE」を取得している。

 副資材として使用したアパレル製品が不要となった後も、取り外さずに処理ができる。家庭での洗濯やドライクリーニングが可能な耐久性・耐熱性を備える。

 第1弾としてボタンやひもストッパーを製造したが、順次、製品の種類を拡大していく。