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大手アパレル企業/実需型MDにシフト/決め手は「気候対策と重ね着」

2024年02月07日 (水曜日)

 婦人服の実需志向が強まっている。シーズンの先物買いが減り「今着たいモノ」が店頭で動く。物価高で消費者の生活防衛意識が高まり、服を見る眼もシビアになった。アフターコロナ下でファッションの消費は回復したが、大手アパレル企業では実需型のMDで試行錯誤を重ねている。(市川重人)

 大手アパレル企業の決算会見やインタビュー、展示会などで浮上しているキーワードが、「消費者はすぐ着られて、長く着用できる服を求めている」。トレンド発信を行う攻めた企画を売り場へ差し込んでいるが、店頭での動きは鈍い。しかしジャストシーズンの服を並べると、セールをしなくても売れる。

 大手アパレルの中で、トレンド先行型の代表企業とも言えるバロックジャパンリミテッドでは、今春から実需型のMDを「マウジー」「スライ」などで本格化。スライではレイヤードで秋まで着用できる短丈トップスや軽いニットウエア、ジップ使いで袖が取り外せるブルゾンを投入した。

 販売分析や生産のスピード感が求められ、MDの難易度は高くなる。昨今の気温上昇も考慮しなければいけない。同社の村井博之社長は「前年踏襲型のシーズンMDは通用しない。一つは気候の問題、もう一つはアフターコロナ下における消費の考え方が大きく変わっている」と話す。

 昨年9~11月期において、大きく成果が表れたのがオンワードホールディングスだ。例年に比べて気温が高く、消費者の購買行動にも変化が出ていたが「柔軟な商品MDを展開できた」(保元道宣社長)と自信を見せる。同期間における基幹ブランド「23区」の売上高は前年同期比12・3%増と伸びた。

 売り上げを下支えしたのは軽くて暖かい中間アウターだ。併せてニットウエアを重ねるレイヤードコーディネートの提案を行った。23区のほかにも手に取りやすい価格で機能美を追求する「アンフィーロ」が前年同期比2・1倍の売上高と好調。同ブランドもレイヤード提案と連動し、実需購買に結び付けた。

 中間アウターの拡充が実ったのはワールド、三陽商会も同様だった。両者とも軽い羽織物が稼働。加えて機動的にMDを修正したが、売り上げを取り切れなかった側面もある。

 三陽商会の大江伸治社長は「夏の期間が長くなった。そこで8~9月は独立したシーズンとして設定する。以前は春夏物の延長戦やセール期間として見ていたが、改める」と話す。この期間のMDを作り、プロパー販売を積み上げる。春夏秋冬から、春夏「盛夏」秋冬という構成になる。

 その一方、あるアパレル企業は別の階層を狙う戦略を明らかにした。経営陣は「生活防衛意識が高くなると平均購買力は落ちる。しかし富裕層の潜在購買力はむしろ拡大している」と話す。マスマーケットやローエンドマーケットの消費動向が厳しくなる中で、富裕層の旺盛な消費力をターゲットに組み込む。

 富裕層の金融資産総額はこの5年間で100兆円増え364兆円と推計されている(野村総研調べ)。日本の全人口における金融資産は2121兆円(日銀が発表した2023年7~9月期の資金循環統計)で、富裕層の占める割合が20%弱までに拡大している。

 富裕層は価格に左右されず、上質な外出着、日常着を購入する傾向がある。特に30~40代の新富裕層(都心部のパワーカップルを含む)は最新トレンドにも敏感だ。実需型MDと富裕層向けの商品構成という両にらみの戦略も進む。いずれもMDの難易度は高くなるが、企画の精度を磨く方針だ。