胎 動するポストコロナ市場 アパレルトップ インタビュー 2024(8)イトキン 社長 前田 和久 氏
2024年01月22日 (月曜日)
脱セールに手応え
――残暑の影響もあったが、昨年は好調な商況だった。
上半期(2023年2~7月)の天候(気温の上昇など)は想定外だったが、昨年5月に新型コロナウイルス感染症の位置付けが5類に移行し、人流も増えて実店舗のビジネスが回復した。5類に移行前の2~4月も業績は非常に良かった。
その一方、仕入れのコントロールや在庫の適正化を進めており、全体的に商品が手薄になった。4、5月に投入する商品を前倒し、5、6月に並べる商品に欠品感があった。うれしい悲鳴というか、この部分を対応できたら売上高はさらに伸ばせただろう。
――下半期(23年8~24年1月)の商況については。
下半期に入り、酷暑と残暑の影響が出ている。9、10月の残暑が秋冬商戦のマインドに影響を与えている。9月の商況は厳しかったが、11月に売り上げを取り返した。顧客をはじめ、フリー客の獲得にも成功している。
消費者はセールにかかる商品に興味を示さず、新作やプロパー商品を欲しがる傾向が強い。3年間のコロナ禍を経て、この価値観が強くなった。12月のプロパー販売(百貨店)は約20%増となっているので、利益面でも好循環をもたらした。改めて仕入れの標準化と端境期、セール期のプロパー販売が重要になっている。上半期に加え、通期(24年1月期)でも営業黒字になる見通しだ。
――端境期のMDを刷新するのか。
今年も残暑の傾向は続くだろう。シーズンMDは毎年改良しているが、7、8月へ残暑特有の商品を投入する。ドラスティックに改造しないといけない。ただ、Tシャツを作ったり、半袖を製作するという簡単な問題ではない。顧客はプロパーで購入するが、先まで着用できる服を求めている。8月に買った商品でも10月まで着れる服を求める。デザインの付加価値を含め、機能性(接触冷感やイージーケアなど)は必須だ。
――富裕層向けの商品開発については。
マーケットが二極化し、国内で富裕層(ニューリッチ層)が増えている。都心型百貨店が富裕層を狙っているので、高感度な服が求められている。先んじて婦人服「オーヴィル」を開発した。当社は等身大の婦人服ブランドが多かったが、素材やパターンメーク、デザインで高感度なモノに仕上げた。今春には、東西の都心型百貨店に期間限定店を開設する。百貨店以外の商業施設へ出店することもあり得る。森ビルが開発した麻布台ヒルズ(東京都港区)も視野に入れている。
高価格帯というゾーンでは、婦人服「ヒロココシノ」から派生した新ブランド「リ・エディション・プロジェクト165」も本格展開する。コロナ禍で一時販売を休止していたが、今春から再スタートする。こちらはモード感を切り口にしている。オーヴィルとは違うクリエーションとモチーフで、魅力的なコレクションを構成した。
――守勢から攻めに転じる。
在庫の適正化が進み、プロパー販売を強化する体制を構築した。端境期のセール販売を見直し、この時期に新作でプロパー販売を行う。極力セール品は残さない。円安や原材料、人件費の高騰もあるが、その中で品質を上げる。品質を上げて価格に上乗せする。来期(25年1月期)は基幹ブランドを主体に売上高を10%伸ばしたい。
商品の「鮮度」を重視する。販売員の人手不足という課題もあるが、品出しなどはスポット雇用を採用するなど、対策も講じている。対面販売に集中できるよう、業務効率を上げる施策も打っている。