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大手アパレル企業/攻勢へ透けるジレンマ/常態化する人手不足

2024年01月17日 (水曜日)

 本紙では大手アパレル企業のトップインタビューを連載中だが、ほぼ全ての企業で「今年は攻めに転じる」と発言している。昨年5月に新型コロナウイルス感染症の位置付けが5類へ移行、人流やインバウンド需要の回復が顕著になっている。一方で、人手不足や円安、原材料の高騰が続くといった外的要因も懸念される。反転攻勢へアクセルを踏み込めるか、難しいバランス経営が求められる。(市川重人)

 強気の姿勢を見せているのが、オンワードホールディングスの保元道宣社長だ。同氏は「円安の影響は限定的だ。現時点で(素材調達コストなどで)大きな圧力、ダメージを受けていない。価格上昇を相対的に小さく感じられるブランドが多いこともある」と話す。

 基幹ブランドや百貨店向けの婦人、紳士服が好調。行動制限がなくなったポジティブな面を経営に反映させる。ワールドの鈴木信輝社長も「守勢に回っていた経営を転換する時期にきた。今年はあらゆる面で攻めていきたい」と説明する。

 両者とも、円安や原材料の高騰を前提とし、価格、商品構成の見直しを図ってきた。不採算事業の撤退や品番数の絞り込みなど事業構造改革を進めながら、円安などマイナス要因をコントロールしている。一部では価格転嫁も行ってきた。

 同じく強気の姿勢を崩さない三陽商会の大江伸治社長は「上半期(2023年3~8月期)の業績が好調で、売上高と全ての利益段階で計画を上回った。営業利益については当初計画の約2倍となっている」と話す。

 同社はアッパーミドル層を主力に商品を展開してきたが、今年は「新富裕層(ニューリッチ層)と呼ばれる人たちが増加しており、一般客との収入格差が広がっている。ここにリーチする」と意気込む。価格転嫁が進んだ背景もあり「今秋冬は12~13万円のコートが一番の売れ筋だ。これは同業他社の数値を大きく上回る」とした。

 その一方、攻めの経営に踏み込めない企業も存在する。最大の要因は人手不足だ。ジュンの佐々木進社長は「攻勢へアクセルを踏みたいが、販売員など人手不足が表面化した。人員確保の問題で実店舗の選択と集中をしなくてはいけない」とした。

 イトキンの前田和久社長も「出店をしたいが、販売員が集まりにくい。現在は対面販売に集中できるよう、業務効率を上げる(スポット雇用など)施策も打っている」と話す。特に都心部の人手不足は深刻で、多くのアパレル企業で「パート、アルバイトの労働条件、時給の改善を急ぐ」との発言もあった。

 帝国データバンクが昨年10月に行った調査では、繊維・繊維製品・服飾品小売り(非正社員)の44%で「人手不足」と回答している。人手不足の長期化を予想し、同社では「解消へ早期着手、先行投資は急務」と警鐘を鳴らす。

 時給を上げても「販売職に人が集まらない」(大手アパレル経営陣)との観測もあり、一部ではブランド複合型店舗で販売員の効率、生産性を向上させる施策もスタートしている。経営トップによる、攻勢へのアクセルとブレーキをどう案配するのか、より難しい判断を迫られる。同時にキャリアパスを提示し、離職者を防ぐことも求められそうだ。