産資・不織布通信Vol.8/不織布/23年は業界再編加速/合弁、撤退、譲渡の1年

2023年12月25日 (月曜日)

 日本の不織布業界は2023年、業界再編の1年だった。生産量も2年連続で年間30万トンを割り込む可能性が高く、日系企業を含めた不織布輸入も減少するなど国内需要が落ち込む一方、原燃料高騰、円安などアゲンストの風が強まる中で、大手企業は生き残りを懸け合弁会社の設立、国内販売の撤退、事業会社の譲渡など構造改革に向けて活発な動きを見せた。

〈合弁設立で競争力強化/不織布子会社統合も〉

 東洋紡は三菱商事と機能材事業の合弁会社、東洋紡エムシー(大阪市北区)を設立し、今年4月から事業を開始した。

 東洋紡エムシーの構成事業の一つが、ポリエステルスパンボンド不織布(SB)や子会社の呉羽テック(滋賀県栗東市)、ユウホウ(大阪市北区)が手掛ける短繊維不織布だ。ただ、不織布は「収益改善・事業モデル改革」に位置付けられており、競争力の再強化やアライアンス検討を行う方針を示している。

 10月には三井化学と旭化成のSB製造販売合弁会社、エム・エーライフマテリアルズ(東京都中央区)が設立された。紙おむつ用ポリプロピレンSBでしのぎを削った両者が手を握った。

 エム・エーライフマテリアルズに移った不織布事業の規模は三井化学が308億円(22年3月期)、旭化成が175億円(同)。SBを中心に、単純合計で483億円の売り上げ規模を持つ不織布メーカーが誕生した。

 24年に統合予定の旭化成・守山スパンボンド工場(ポリエステル、ナイロンSB1万トン)を除き、両者合計のSB生産能力は13万2千トン。旭化成の細繊度糸使いによる低目付の均一性、三井化学によるポリプロピレン樹脂の改質やこれまで培った生産技術を組み合わせた新SBの開発にも取り組む。

 12月にはニッケ子会社のアンビック(兵庫県姫路市)とフジコー(同伊丹市)が経営統合した。フジコーから不織布・フェルト事業を分割し、アンビックが継承。アンビックは社名をエフアンドエイノンウーブンズ(大阪市中央区)に変更した。両社の経営資源を集中し効率的に活用することで収益力を高めるとともに、国内外での競争力をさらに高めることが統合の狙いという。

〈衣料副資材の内販撤退/繊維事業会社の譲渡も〉

 国内販売の終了や事業譲渡も行われた。5月には日本バイリーンが24年6月までに衣料副資材の国内販売から撤退する(手芸用製品は23年12月で事業終了)ことを明らかにした。衣料副資材は1960年創業の同社にとって祖業。その国内販売の終了は不織布業界にとって一つの時代の終焉(しゅうえん)を物語る。

 販売終了後はグループの衣料副資材販売会社である香港のフロイデンベルグ&バイリーン・インターナショナルが、日系の海外縫製向けに衣料副資材を供給し、日本バイリーンは日系企業への販促活動に徹する体制になる。

 一方、11月にはダイワボウホールディングス(HD)が繊維事業会社である大和紡績の株式85%を投資会社のアスパラントグループ(東京都港区)に24年1月18日付で譲渡することを発表した。

 大和紡績の繊維事業はポリプロピレン短繊維やスパンレース不織布、エアスルータイプのサーマルボンド不織布が主力。レーヨン短繊維製造のダイワボウレーヨンも含めて不織布は主力事業だ。23年4~9月期、ダイワボウHDの繊維セグメントは売上高296億円、営業利益6億円。営業利益率2%と営業赤字が多い綿紡績の中では好業績だった。

〈急成長企業も構造改革/ポリプロSB競争激化で〉

 業界再編が活発化する中で、アジア№1のポリプロピレンSB生産能力を持つ東レも「固定費削減と新市場開拓」というリエンジニアリングに着手した。ポリプロピレンSBは韓国、中国、インドネシア、インドに生産拠点(日本は中量産の開発設備)を置くが、主力の中国は日系を含めた海外と現地の衛生材料メーカーの競合が激しく、現地企業のシェアが高まる一方、現地のポリプロピレンSBメーカーが台頭し、コスト競争の様相を呈している。

 このため、同社では徹底したコスト削減に取り組まないと現地SBメーカーに勝てないと判断。導入する独製レイコフィルシステムでは紡糸ノズルの改良による生産性向上などに取り組む。

 一方、新市場開拓では中米、南米への輸出も模索。一定量を安定供給できる強みを生かす。これまでは地産地消を基本にアジアでの増強、新設を続けていたが、各拠点での生産品種をすみ分け最適地生産も検討する。

 苦戦する中国市場は昨年、市場調査を実施し、現地の衛生材料メーカーでも高付加価値化を求める企業があることから、そこに向けた商品開発に力を入れる。滋賀事業場(大津市)に置く中量産のSB開発設備を活用する。その技術を各拠点に導入していく。

 大矢光雄社長は「ポリプロピレンSBは大変革期にある。それはグローバルに展開する大手衛生材料メーカーも同様だ。地域別にセグメントしながら、いかに付加価値品を共創できるかが最善の道。そのためには滋賀事業場の開発設備の活用が命綱。そうしないと競争に立ち向かえない」と語る。

 需要増を見込み急拡大を続けてきた東レのポリプロピレンSB事業でさえ、リエンジニアリングが必要な時代。その他の大手企業が構造改革に動くのも自然な流れでもある。

 こうした動きが不織布で最も企業数が多い中小企業に波及するのかどうか。置かれた状況は同じだけに、24年は構造改革の動きが広がる1年になるかもしれない。

《トピックス》

〈SB・MB減産続く/不織布生産〉

 不織布の減産傾向が続いている。経済産業省の生産動態統計によると、2023年1~9月の不織布生産量は19万9425トン強と20万トン台を割り込んでおり、この水準で推移すると、年間26万トン台まで落ち込む可能性がある。

 特に最も大きいスパンボンド不織布・メルトブロー不織布(SB・MB)が前年比18・8%減と最大の減産率で、4万7811トンと低迷する。紙おむつ用ポリプロピレンSBの需要低迷、新型コロナウイルス禍で急増したMBも需要が一巡したことが響く。同じく紙おむつなど衛生材料用の影響を受けたサーマルボンド不織布も13・2%減だった。

 一方、自動車内装材などが多いニードルパンチ不織布は唯一、1・1%増の4万3466トンと自動車生産に呼応するようにわずかながら増産となった。

〈繊維製も回復傾向/自動車部品生産〉

 繊維を原材料に使用する自動車部品の生産が回復傾向にある。

 経済産業省の生産動態統計によると、2023年1~9月の生産量はシートが前年同期比14・1%増の1271万4千個、シートベルトは5・8%増の2753万2千個、エアバッグモジュールは20・3%増の2500万9千個となった。

 シート、エアバッグモジュールは23年1月から、シートベルトは3月から増産に入った。特にエアバッグモジュールは3月以降、2桁%台の増産を続ける。

 一方、タイヤに不可欠なタイヤコードは8・7%減の1万3823トンと低迷。その他3品種とは異なる動きを示している。ナイロンタイヤコードは4・9%減の9511トン、ポリエステルタイヤコードは15・7%減の4035トンと大幅な落ち込みとなった。

〈上半期業績明暗分ける/不織布関連上場4社〉

 不織布関連の上場4社の2023年4~9月期業績はイチカワ、ハビックスが増収、営業増益となる一方、ダイニック、日本フェルトは減収、営業減益と明暗を分けた。

 ダイニックは不織布を含む住生活関連事業が売上高66億円(5・7%増)、営業利益1億9400万円(620・1%増)だったが、その他事業は減収減益。不織布は展示会用カーペットが好調。床吸音材も堅調で、車輌用は回復に転じ増収だった。

 ハビックスは不織布関連事業が売上高36億円(15・1%増)、セグメント利益4億2600万円(34・1%増)だった。パルプ不織布は外食産業の回復により業務用クッキングペーパーが回復。化合繊不織布は価格是正などで増収となり、原価低減によりセグメント利益も増えた。