LIVING-BIZ vol.101(15)/畳編/萩原/松井織物/アゼアス/宮里経糸/上原経糸

2023年12月19日 (火曜日)

〈萩原/「自走組織」確立目指す〉

 イ草製品、インテリア、家具製造卸の萩原(岡山県倉敷市)は、組織改革に取り組む。横断的な組織に変更し、手掛ける多様な商品を横軸で提案できる体制を整える。加えて、自社の分析や強みの棚卸で得た情報を従業員に提供。それらの情報を判断材料として、同社が定める「ミッション」「ビジョン」「バリュー」に基づいて主体的に動ける「自走組織」の確立を目指す。

 家具や敷物のアイテムごとに分かれていた事業部制を2022年11月に見直し、営業本部や商品本部、消費者に直販するD2C本部などを設けた。指示系統を一本化し、家具営業部や敷物営業部、畳材営業部が一緒になって提案しやすい形に変えた。

 さらに昨年、社長の直轄組織としてブランド戦略室を開設した。自社の分析や強みの棚卸を進め、その内容は、全て社員に公開する。その項目は、売り上げ推移、ROE(自己資本利益率)、部署ごとの残業時間の推移、在庫金額の推移など多岐にわたる。時間当たりの労働生産性は、3年前から28・9%上昇したという分析もある

 加えて、既存の価値の棚卸も進める。例として、自社に設置する太陽光発電の発電量が250世帯分の年間使用量に等しく、同社の従業員数とほぼ同数であることなどが挙げられる。世界で13カ国に及ぶ取引国の多様性や、年間1772本のコンテナ輸入量、361万個の貨物量という物流量の多さなども価値の一つとして捉える。

 萩原秀泰社長は、「市場が成長している時は、トップダウンの方が意思決定が早く良い面もあるが、変化の大きい中で、一人の力でできることは限られる。経営者として全体の大きな指針は示しながら、従業員が主体性を持って考えられる環境を整えることが重要」と話す。

10月期売上高は122億円

 萩原の23年10月期売上高は、前期の売上高114億円から7%増え122億円だった。電子商取引(EC)直販、EC卸が共に伸長し増収に寄与したほか、製品仕入れが安定したことによる売り逃しの減少が奏功した。今期(24年10月期)は、売上高128億円を計画する。

 今期の方針として、これまで家具や敷物など、商品ごとに分かれていた自社電子商取引(EC)サイトをイ草の発信を核とし「プロが買いたいものを売る」をコンセプトとした「萩原製作所」と、「インテリアで暮らしを豊かに」をコンセプトにした「クオリアル」の2チャネルに統一する。

〈畳を次世代に伝えたい/松井織物社長 松井 敬祐 氏〉

 今年創業155年を迎えた畳縁製造卸の松井織物(岡山県倉敷市)は、21台の織機を持ち、畳縁の生産量は最大で月間100万メートルに及ぶ老舗メーカーだ。パステル色の畳縁の開発や畳縁を使ったトートバッグの販売など、畳縁の需要促進を進める。このほど8代目として、松井敬祐氏が代表取締役に就任。畳縁を後世につないでいくため、事業継承を進める。

  ――10月19日に代表取締役に就きました。

 30歳の誕生日を機に就任しました。私が畳縁の事業を引き継ぎつつ、先代で父の松井克爾も代表取締役としてとどまり、畳縁以外の事業確立を目指します。

  ――御社の畳縁の特徴は。

 「美吉野」という定番の柄があります。畳縁の柄開発が盛んだった時代にオレンジの差し色を入れた柄で打ち出した畳縁です。子孫繁栄や無病息災の意味を持つ「菱」と長寿の象徴たる「亀」を組み合わせた幾何学模様です。縁起が良いとして根強い需要があります。

――畳業界の現状認識は。

 畳の生産量は住宅の洋風化などで、年々減少を続けています。最盛期の1989年には約4600万畳あった生産数が近年では約920万畳にとどまる状況です。加えて、畳縁を使わない琉球畳の流行で、畳を縁取る畳縁の年間生産量は減少し750万メートル程度と推測されます。全国シェア80%以上を生産する倉敷市児島唐琴でも、畳縁の製織を担う事業者の廃業や閉鎖が続いています。

 変化が必要な時代に入っています。畳業界だけの話ではないですが、畳に携わる人の高齢化が進んでいます。変化が受け入れられにくい環境にあり、多様な柄のある畳縁の魅力が最終消費者に伝わりにくい状況です。

 一時は膨大な需要があり、日本人のほとんどが畳をよく知っている時代がありました。しかし現在は、家にあって当たり前だった畳が減っています。畳や畳縁の魅力を知ってもらう立場にある者として、発信に努めたいと思っています。

  ――具体的な活動としては。

 所属している児島青年会議所の活動の中で、市の要請を受け市内の中学校などで、マナー講座を開催しています。その中で自己紹介の一環として、畳縁の歴史や、倉敷市児島唐琴が国内シェアの80%以上を握っている点などを生徒たちに伝えています。若い世代に畳の良さを知ってもらえたらと思います。

〈アゼアス/「リフェイス」好評/建築関連展示会で手応え〉

 伝統と最先端を融合した畳の展開に力を入れるアゼアス(東京都台東区)で、“美しさ×高機能”をコンセプトにしたPVC織物シート「ReFace」(リフェイス)が好評だ。同商品を扱う光洋産業と共同で初出展した、建築関連の専門展示会「第45回ジャパンホームショー」(11月15~17日、東京ビッグサイト)でも高い評価を得た。

 用途によって織物シート、床タイル、置き畳、折り畳み式畳、エレベーター内などを気軽に装飾できるマグネットタイルとして使う。高級感のあるジャカード織で美しさを追求。ナチュラルな畳の表情から和モダン、明るいパステル調、シックな色合いなど全23柄で展開する。

 機能性も優れる。耐久性が高く擦り切れや傷が発生しにくい、防水性に富み水回りにも使える、滑りくいため転倒防止など安全性も高い、紫外線に強い抜群の対候性などの特徴がある。薬品耐性にも優れ、消毒や洗剤を使用した清掃も可能。それでいて、軽量かつカッター1本でも切れる省施工性を備える。

 ジャパンホームショーでは、「畳を変える、暮らしが変わるReFace」をテーマに掲げ、畳にフォーカスして提案した。既存の畳にはない斬新なデザイン、キャスターチェアや車椅子を使用しても擦り切れ、毛羽立ちが起きにくい強靭さ、フローリングに置くだけの手軽さなどが好評だったと言う。高耐久性、防滑性、防水性、掃除しやすいという点などから、ペットがいる住宅にも最適と評価された。

 2020年の発売当初は、新型コロナウイルス禍で営業も思うようにできなかったが、この3年で徐々に浸透。ペット共生住宅やリビングの一角の小上がり、洗面所など幅広く使われ始めた。今展を機にリフェイスの認知度を高め、畳の魅力を今の生活に合う形で訴求。新築・リフォーム時の仕様書に入ることで、畳店の新たな需要創出につなげていく。

〈宮里経糸/製販を国内集約へ/整経機の更新進める〉

 畳表用経糸製造卸の宮里経糸(広島県福山市)は、畳表用経糸の製造と販売を国内に集約させる。以前は、材料をインドから直接輸入し、中国で生産される畳表用に経糸を輸出するなど、海外を含め幅広い地域で製造や販売をしてきた。畳市場の縮小に合わせて国内仕入れに切り替え、販売も国内のみに集約を進めた。

 現在、麻糸以外は国内で生産している。今後、所有する整経機14台の老朽化に合わせて更新を進め、生産の安定性を高める。

 同社は、1950年創業。畳表用経糸の整経、製造大手で、高いシェアを誇る。綿やポリエステルの糸を畳の大きさを表す五八や本間の規格に合わせた本数に整経する工程を担っており、畳表を製織する全国の製造業者へ販売している。高級糸とされる麻糸は、国内では原料の供給がないため、バングラデシュで生産する。

 畳表用経糸以外の業容拡大にも取り組む。ホームセンターなどで販売される麻ひもをバングラデシュから製造輸入するほか、インディゴ糸の染色後の分繊に参入を計画している。

〈上原経糸/撚糸技術で存在感/織り目際立つ〉

 畳表用綿糸製造卸の上原経糸(かんばらけいし、広島県福山市)は、独自の太さに糸を撚る技術で存在感を高めている。

 20番手を8本や12本束ねて撚る糸は、「当社にしかできない撚り方」(難波宜吾社長)。安定した糸質になり、畳表に織った時の織り目がはっきりと際立つ。畳表用経糸の整経機に適合するチーズ(円筒形)に巻ける点も強みだ。

 同社は、畳表の経糸に使われる綿糸の撚糸が主力。撚糸した糸を備蓄し、整経を担う企業に卸売りする。ダブルツイスターやアップツイスターの撚糸機を持つほか、珍しい機種の10インチリング撚糸機も備える。

 畳表用経糸はJAS(日本農林規格)で太さや本数の指定があり、新たなことに挑戦しにくい環境にあると言う。本業の傍ら、人工芝や簾、デニムに使われる糸の撚糸にも取り組む。

 イ草の主要産地である熊本を含む九州地方へ畳表用綿糸を供給するのは同社のみで、「変わらず事業を続けていくことに価値がある」と難波社長。村田機械のダブルツイスターで製造中止になる機種があるなど、機器の調達も困難になる中で、廃業した工場から撚糸機を購入するなどの対応で、今後も糸を供給し続けることに注力する。