特集 CSR(1)/さまざまな角度で活動進む/QTEC/YKK/豊島

2023年12月13日 (水曜日)

 「企業の社会的責任」と訳されるCSR(コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティー)。企業が社会的存在として果たすべき責任を指し、2000年代から日本でも多くの企業で取り入れられるようになったとされる。CSRに明確な答えはないといわれ、各企業がそれぞれの課題の下で取り組んでいる。

 CSRに関しては、国際標準化機構によって「ISO26000」が定められている。

 あらゆる組織に向けて開発された社会的責任に関する世界初のガイダンス文書で、持続可能な発展への貢献を最大化することを目的としている。人権と多様性の尊重という重要な概念も含有している。

 企業が適切にCSRを果たすことは、信頼向上や人材の採用・定着への好影響、法令違反のリスク低減といった観点からも重要といわれている。そしてCSRには七つの原則と七つの中核主題があり、原則はCSRの基本的な概念、中核主題はCSR活動の具体的な枠組みと言い換えることもできる。

 七つの原則は、説明責任、透明性、倫理的な行動、ステークホルダーの利害の尊重、法の支配の尊重、国際行動規範の尊重、人権の尊重。七つの中核主題は組織統治、人権、労働慣行、環境、公正な事業慣行、消費者課題、コミュニティーへの参画で、全てに取り組むことは難しく、課題の選択が重要になる。

 また、CSR活動において大切なのは発表・発信することで、「対外的に知られていなければ、活動を行っていないのと同じ」という声もある。CSR報告書などを作らない場合でも自社サイト上にコンテンツページを作り、代表メッセージやISO26000対照表の掲載といったやり方がある。

〈伴走型の監査が魅力/QTEC〉

 日本繊維製品品質技術センター(QTEC)は、2020年からCSR監査への対応を本格化している。社会的責任に対する企業の意識の高まりもあって、中国やベトナムでの監査依頼・実施が増えている。約30年前から取り組んでいるQTEC認証工場制度と組み合わせ、国内でもCSR監査を増やしていく。

 CSR監査は、自社だけでなく取引先や委託業者にも環境破壊や法令違反をはじめとする問題がないかを把握・証明する手段。QTECは、ISO26000の七つの中核主題(組織統治、人権、労働慣行、環境など)に基づいてチェックリストを作成して監査を行う。

 QTECの監査が顧客に選ばれる理由の一つは伴走型であることで、監査後には助言などを行う。中国では監査ができる現地スタッフを充実しているのも強みで、青島、上海、無錫、南通、深センに対応可能なスタッフが在籍している。

 QTEC内でもさまざまな取り組みを進めている。その一つが二酸化炭素排出量の削減で、2021年度と22年度の算定を終えている。また、男性の育児休暇取得や働きやすい職場環境づくりをはじめとするウェルビーイングも浸透してきた。北陸試験室には搾乳室を作った。

〈50年までに「気候中立」/YKK〉

 YKKは、2050年までに「気候中立」を実現させるための持続可能性目標「YKKサステナビリティビジョン2050」を掲げる。そこでは「気候」「資源」「水」「化学物質」「人権」の5テーマで目標を設定し、関連するSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けた取り組みを進める。達成状況については、統合報告書「This is YKK 2023」で確認できる。

 22年度の主な活動実績として、温室効果ガスの排出量削減を挙げた。YKKグループは、自社での燃料燃焼などによる直接排出と購入した電力・熱の使用による間接排出の温室効果ガスの量が、基準年となる18年比で46・9%削減を達成した。

 購入電力を100%再生エネルギーに切り替えた拠点は、21年度から20カ所増え世界で31拠点にまで拡大した。

 商品についても「持続可能素材化」が進んだ。再生ポリエステルを使用したリサイクルファスナー「ナチュロン」シリーズの22年度の販売数量は前年比76%増で、再生材比率を高めた「ナチュロンプラス」も大幅に伸びた。結果、全商品の販売に対する持続可能素材を使った商品の割合は26%に達した。23年度は41%まで引き上げる目標を設定している。

〈「ホワイト物流」高度化へ/豊島〉

 豊島は国内のトラック輸送など物流の合理化を目指す「ホワイト物流」推進運動への取り組みが進む。田村駒(大阪市中央区)、スタイレム瀧定大阪(同浪速区)と協業する共同配送も、積載率向上や経路の見直しといった改善への動きが加速化する。

 この推進運動は2019年に発表した「持続可能な物流の実現に向けた自主行動宣言」に基づくもの。運転手不足に加え、労働時間の上限が課されるなどで浮上する“物流2024年問題”へ先駆けて対策を講じた。物流の課題解決だけでなく、トラックでの配送の効率化や減便などで脱炭素社会の実現も目指す。

 昨年5月から始めた3社での共同配送も安定的な運用を継続中。千葉県、埼玉県、茨城県など関東エリアの倉庫に向けて集約した各社の貨物を効率的に積み込み、積載率を高める。配送ルートも効率的な行程を取るための改善策を実施。中国からのQR対応の貨物を下関港に仕向けた後、国内のフェリーで関東地域に輸送するなど、陸送による長距離輸送を減らす取り組みも進めている。

 課題は、納品日の分散や、集約しにくい地域への配送で積載率が低いトラック台数の削減だ。上海や青島の貨物に加え、東南アジア諸国での貨物の集積率強化や運航情報の収集を積極的に行う。