繊維ニュース

特集 スクールスポーツウエア(1)/商品価値高め市場深耕

2023年12月12日 (火曜日)

 スクールスポーツ市場では、学生服で急速に進むブレザー化や素材の納入遅延などの影響を受け、今春は生産面が逼迫(ひっぱく)した。各社は来春に向け、安定納品を最重要課題に位置付け、生産に当たる。市場が変化する中、学校や生徒のニーズに合った製品開発も引き続き求められる。

〈安定生産・納品に注力〉

 各社の今年のスクールスポーツ部門売上高(表)を見ると、トップシェアの菅公学生服は2022年7月期に売上高120億円を突破し、23年7月期は0・1%増とほぼ横ばいとなった。

 トンボは23年6月期、スポーツ部門の売上高が前期比5・2%増の69億2千万円と増収を確保。明石スクールユニフォームカンパニーは22年12月期に前期比6・9%増の52億9700万円で、来春の入学商戦に向けても「例年並みの受注量を獲得できている」(榊原隆取締役営業企画部門管掌兼スクール営業部統括部長)。

 学生服業界では、性的少数者(LGBTQ)へ配慮をする流れが強まり、中学校を中心に性差の少ないブレザーへと制服をモデルチェンジ(MC)する動きが広がっている。MC校数の増加に加え、国内の縫製工場のキャパシティーの逼迫や素材の入荷遅れによって今年の春の入学商戦では納品が困難を極めたが、その影響はスクールスポーツ分野にも及んだ。

 今春の経験を生かし、各社は納品がしっかりできるように、安定生産に注力している。菅公学生服は「例年、新規注文は11月末まで受け付けていたが、今年は9月末で締め切った」(勝山裕太営業本部企画推進部スポーツ企画推進課長)。トンボは「早期受注を促進したことで、例年以上に早く準備ができている」(高橋聡一スポーツ商品本部スポーツ商品部副部長)とするほか、明石スクールユニフォームカンパニーも「前倒しで対応したことに加え、いくらかは海外生産へシフトしたことで順調に生産できている」(榊原取締役)と話す。

 各社は新規注文の締め切りを早めるなどの前倒し対応に加え、定番品など一部を海外生産へ振り分けながら来入学商戦に向けて対応を進めている。

〈自社ブランド伸ばす〉

 スクールスポーツ事業を展開する企業の中では、自社ブランドの販売を伸ばす動きも見られるようになってきた。

 明石スクールユニフォームカンパニーはこのほど、体育着の新ブランド「FEEL/D.」(フィール/ディー)を発表した。パターンに加え、立体的な裁断を取り入れ、動きやすさにこだわる。素材メーカーと共同開発した生地を採用。首まわりに消臭機能を付与した生地、通気性が求められるところにはメッシュ生地など、体の部位に合わせて生地を使い分け、ウエアの機能性を高めた。

 同ブランドは10月に開いた大阪展で披露。既に数校からの採用も得ており、「まずは採用校50校」(榊原取締役)を目標に、提案に力を入れる。

 菅公学生服はハウスブランドである「カンコー」ブランドを軸に提案を進めている。ブランドの中でも「カンコープレミアム」が好調。同ブランドに採用する独自生地の「グランガード」は、軽量感や防風性など機能性の高さで評価を得ている。同ブランドでは来春に約50校の新規校を獲得する見込みで、累計採用校数は約550校となりそうだ。勝山スポーツ企画推進課長は「今後もいかに“カンコー”を売るかに注力していく」と話す。

 トンボは、ピステスタイルとトレーニングウエアを組み合わせた独自開発のウオームアップウエア「ピストレ」を展開する。同商品は軽量性に加え、コンパクトに畳むことができる収納性への評価が高いことが採用に寄与する。昇華転写プリントによるウエアも強みだ。ハウスブランドの「ビクトリー」では昇華転写プリントを採用したものが好評で、採用が増加傾向にある。

 オゴー産業(岡山県倉敷市)も自社ブランド「スポーレッシュ」を軸に提案を推進。同社では体育着のロゴや色など、デザインを生徒も参加して決める“生徒参画型”の取り組みなど、他社と差別化しながら採用につなげている。

〈ライセンスブランドも貢献〉

 自社ブランドを育てる動きが強まる一方で、ライセンスブランドが受注獲得に貢献する重要なアイテムであることに変わりはない。トンボは今春から、「アンダーアーマー」ブランドの体育着の展開に乗り出した。同ブランドでは「大型物件の獲得にも貢献」(高橋スポーツ商品部副部長)するなど、販売が堅調に推移する。

 明石スクールユニフォームカンパニーは「デサント」の販売を伸ばす。高ストレッチ性や軽量感、耐久性を備える「デサントハイブリッド」の高い機能性で評価を得る。

 25年入学商戦から「ヒュンメル」の販売を始めるのは瀧本(大阪府東大阪市)。商品の全てに消臭繊維「MOFF」(モフ)を採用するなど機能性にこだわるほか、同ブランドの象徴でもある“シェブロンライン”を袖に施すなど差別化を図る。中高合わせて30校の採用を目指す。

 ユニチカメイト(大阪市中央区)は来春向けで、「プーマ」で生徒数の多い学校からの受注を獲得。25年の入学商戦に向けて、展示会、もしくは内見会を開き、新商品の発表を予定する。

〈体育着は機能とマルチ対応〉

 近年幅広いシーンで着られる体育着では機能性を重視する動きが強まる。特に、軽量感、防風性、吸汗速乾などが求められる。明石スクールユニフォームカンパニーの榊原取締役は「登下校や部活、イベントなどマルチで使う機会が増えてきた」と指摘する。

 SDGs(持続可能な開発目標)に関する教育を取り入れる学校も増えており、「SDGsからくる環境性能へのニーズが高まると考えられる」(トンボの高橋スポーツ商品部副部長)との声もある。

 スクールスポーツでは「ブランドネームだけで決まる時代ではなくなってきた」との声も聞かれる中、着用者のニーズに合致した商品開発が今後も重要になってくる。