産資・不織布通信Vol.7/炭素繊維/軽くて強い高性能繊維/日本が世界をけん引

2023年11月27日 (月曜日)

 炭素繊維は高性能繊維の代表格として注目されてきた。しかも、アクリル長繊維を原料とするPAN系炭素繊維は日本の東レ、帝人、三菱ケミカルグループの3社が世界を質、量ともけん引してきたが、現状も含めて決して順風満帆の道を歩んできたわけではない。

〈ほとんど炭素で構成/大半が他材料と複合化〉

 炭素繊維はISOで「有機繊維を焼成して得られる炭素含有量率が90%以上の繊維」と定義されている。アクリル樹脂や石油・石炭から採れるピッチ(副生成物)を繊維化し、熱処理して生産する。その特徴は軽くて強い、軽くて硬いという点にある。

 最も多いのがアクリル長繊維(プリカーサー)を原料とするPAN系炭素繊維だ。

 PAN系炭素繊維にはプリカーサーの繊度の違いによってレギュラートウ、ラージトウの2タイプがある。専用設備が必要なレギュラートウは糸条が2万4千本以下。一方、ラージトウは5万本以上と言われ、衣料用アクリル繊維の設備の転用で生産できることからコスト面での優位性があるとされる。

 炭素繊維は大半が他の材料と複合されており、最も多いのが炭素繊維を樹脂の強化繊維として使用した炭素繊維強化プラスチック(CFRP)。CFRPが航空機や風力発電など産業資材、ゴルフシャフトなどのスポーツの各分野に使われる。

 大手3社だけでなく、さまざまな繊維企業も炭素繊維の加工品を手掛ける。例えば染色加工のサカイオーベックス(福井市)は炭素繊維の開繊糸織物やプリプレグ(樹脂を染み込ませた中間材料)を製造販売し、小松マテーレは熱可塑性炭素繊維複合材料(CFRTP)によるロッドやシートを手掛けるなど、北陸産地企業には炭素繊維事業に関わる企業は多い。

〈厳しい局面経て成長/各社ごと現状に違い〉

 少し歴史を振り返ると、PAN系炭素繊維は1971年に東レ、76年に東邦レーヨン、81年に三菱レイヨンが事業化しているが、実は長期間赤字を強いられるなど厳しい局面があり、一角を占めていた旭化成(新旭化成カーボンファイバー)は90年代に撤退している。その後、東邦レーヨンは帝人に、三菱レイヨンは三菱ケミカルグループとなるが、各社とも2000年代から急速に成長する。ただ、現状は業績面で各社の様相は異なる(三菱ケミカルグループは開示がないため不明)。

 東レの炭素繊維複合材料事業は23年上半期(4~9月、IFRS)、売上収益が前年同期比0・8%増の1411億円、事業利益は35・9%増の76億円。風力発電翼用が調整局面も航空宇宙用途の需要が回復傾向で、一般産業用では圧力容器向けが拡大した。21年3月期の赤字から、いち早く成長軌道に戻ったと言える。

 一方、帝人は炭素繊維や複合材料のみで開示していないが、アラミド繊維、樹脂を含めたマテリアル事業は、売上高が3・2%減の2155億円、営業損益は4億円改善も53億円の赤字。複合成形材料は課題事業の一つに位置付けられ現在、北米事業の収益改善策を実行中にある。成果が認められない場合は、北米事業の売却なども含め継続の是非を判断することを明らかにしている。欧州・中国・日本の拠点も売却や撤収も視野に入れ、選択と集中を進めている。

〈産資の期待株/タツタ電線/極細電線で繊維分野へ〉

 産業資材用繊維の一つであるスマートテキスタイル。IT機器を「持つ」から「身に着ける」ウエアラブルに対応した繊維を使うことによって、手で操作せずに、センサーを使って体のさまざまな情報を取得する。東レ「ヒトエ」、東洋紡「ココミ」など導電性物質を組み合わせたさまざまな繊維・フィルムが開発され、スポーツウエアやワークウエア向けのスマートテキスタイルは計測システムも含めて事業化されている。

 導電性とは物体自体が電気を流す機能だが、その代表は電線だ。主に銅が用いられるが、面白い商品が登場した。電線・ケーブル製造のタツタ電線が開発した極細電線だ。

 同社は東証プライム市場の上場企業。現在、主要株主であるENEOSホールディングスの子会社、JX金属が株式公開買い付けにより完全子会社化を進めている。

 電線・ケーブルの技術から生まれた極細電線は、ロボットなど産業機器用ケーブル向けにJX金属と共同開発した、高力銅合金を原材料とする。純銅線に比べると2倍の引っ張り強度を持つという。

 この特殊合金を使用するとともに、同社が持つ極細化技術を組み合わせて開発した。

 素線(1本の単線)は0・03ミリ。通常、ロボットケーブルの素線は0・08ミリ、固定ケーブルの素線は0・127ミリのため、かなり細い。強度が不足するため単線7本を撚線するとともに、特殊な絶縁樹脂でカバーしている。

 単線が細いため、繊維糸のように柔軟性があり、電線が伸びた際でも断線することがなく、抵抗値が変わらないなどの特徴を持つ。カラーも5色そろえる。

 これまでも各種展示会に出展し、市場調査を行ってきた。一部販売もするが、各種展示会への出展を通じてウエアラブル用の試作に使いたいとの声が多かったことから、14、15日に福井市で開催された「北陸ヤーンフェア2023」にも初出展した。

 同展でも来場者から「導電繊維を使いたいが、この極細電線はその代わりに活用できないだろうか」などの質問があったようだ。あくまでも市場調査の一環だったが、果たして、昨今注目される、スマートウエアやアシストスーツなどに採用されるのかどうか。今後の動向が注目される。

《トピックス》

〈2子会社を合併/日本バイリーン〉

 日本バイリーンは2024年1月1日付で子会社のバイリーンクリエイト(東京都中央区)を存続会社として、同じ子会社であるパシフィック技研(滋賀県野洲市)を合併する。

 グループの医療機器関連の主要製品は現在、パシフィック技研が生産し、バイリーンクリエイトがマーケティング・販売機能を担っているが、「両社の機能を統合し、外部環境への早期対応や業務効率向上のための体制を構築する」としている。

 バイリーンクリエイトは1976年に、不織布のカレンダーなどの印刷加工品を主体に製造・販売を行う、ノービルとして設立。96年に日本バイリーンの子会社になった。

 一方、パシフィック技研は85年、日本バイリーンの滋賀工場加工部を分離して設立。不織布の加工を主体とし、2018年には医療機器専用工場を立ち上げていた。

〈難燃タイプに識別技術/レンチング〉

 オーストリア・レンチングは難燃性セルロース繊維「レンチングFR」に繊維識別テクノロジーを活用し、防護服に使用する繊維の透明性とトレーサビリティーに対応する。レンチングFRはモダール繊維に難燃性を付与したもの。オーストリアと中央ヨーロッパの管理された認証林から調達した再生可能な原料木材を原料に使用する。要望に応じてFSC認証やPEFC認証を取得でき、米国農務省から「バイオプリファード」認定を受ける。

 同社によると「サプライチェーンの透明性を求める声が高まっており、防護服に使用されるレンチングFRの信頼性を保証する上でも、当社の繊維識別テクノロジーのような技術が重要な役割を果たす」としている。

 先ごろドイツで開催された国際労働安全衛生展「A+A2023」ではレンチングFRを使用した環境に優しい消防士用防護服を紹介した。この防護服は全ての層にレンチングFRを50%以上使用する。

〈独メディカル展に出展/クラレクラフレックス〉

 クラレの不織布製造子会社、クラレクラフレックス(大阪市北区)は13~16日、ドイツ・デュッセルドルフで開催された世界最大の国際医療機器展「MEDICA 2023」に出展した。

 同社はケミカルボンド不織布、スパンレース不織布、メルトブロー不織布などを製造販売している。同展では創傷ケア向けのメルトブロー不織布やスチームジェット不織布「フェリベンディ」、その加工品などを紹介した。

 メルトブロー不織布は救急絆創膏の基布として、フェリベンディは伸縮包帯として医療用では採用されている。

 同展は医療分野のさまざまな技術・製品・サービスなどが中心で、不織布関連企業も数多く出展するが、日本の不織布メーカーは同社のみだった。