2002年春季総合特集/トップインタビュー東洋紡社長・津村準二氏/繊維黒字化へ手ごたえ
2002年04月22日 (月曜日)
繊維事業の黒字化を最大の課題に掲げる東洋紡。01年度はまだ赤字が残った模様だが、津村準二社長は「手ごたえが出てきた。04年度には『黒字の塊』にできるだろう」と自信を示す。想定する限界利益に応じて固定費を削減するというキャッシュフロー経営の成果が表れてきたらからだ。今年度からは化合繊、天然繊維両事業本部を「繊維事業本部」として統合、素材の枠を超えて一元的に顧客対応する体制も敷いた。分社については「今は意図していない」と言いながら、「やろと思えばやれる体制」と将来に含みを持たせた。
限界利益に見合う人員に
――99年6月の社長就任から間もなく丸3年です。内外とも激動の3年間でしたが、全社を「黒字の塊」にすることを掲げた津村さんにとっては、繊維事業対策が最大の課題でした。
数字を一つ紹介しますと、単体の工場や営業の直接人員は99年3月末で、繊維約3400人、非繊維1240人でしたが、01年3月末では2150人と1550人、02年3月末には1770人と1600人になりました。この段階で売上高繊維比率は48%です。来年3月末には繊維1530人、非繊維1650人になる予定で、1年遅れで売上高比率に追い付きます。
なぜこの数字を紹介したかと言いますと、繊維事業を取り巻く環境は輸入浸透率がどんどん上昇し、国内需要はどんどん減少しているわけです。ここで赤字を出さないためには、限界利益に見合う固定費しか持たないことです。一種のキャッシュフロー経営ですね。減価償却のことは問わない。
機能材・メディカル、フィルムなどの非繊維はこの3年間で、計画を上回る伸びとなっていますから、繊維をこの方向でやっていけば、展望が見えてくると思います。
――終わった01年度はいかがでしたか。
環境を考えると非繊維は大健闘と言えるでしょう。以前のような大幅な増益にはなりませんが、前年実績は上回ったと思います。
繊維の固定費削減は計画以上ですが、限界利益は予想を超える販売数量減、単価ダウンにより、結果として赤字は残ってしまいました。しかし02年度に向けての手ごたえはあります。
――繊維の個別事業ごとの対策は。
タイヤコードやエアバッグなど産業用は黒字で頑張っています。
苦戦の一番手はスパンデックス「エスパ」ですが、コストダウンと品質向上による汎用分野からのシフトが進みつつあります。今下期からの浮上が射程に入ってきました。年2万5000トンあった衣料用ポリエステル長繊維は、ぐっと縮めて1万2000トンにし、特化糸だけにしました。今期はトントンくらいまでいけるでしょう。
衣料用汎用素材を減らす
年6000トン程度まで減らした衣料用ナイロンも「エスパ」との組み合わせを中心にしています。3万トンのポリエステル短繊維も紡績用をやめ、詰めわたを減らし、不織布用にシフトしています。粗原料と為替相場にほんろうされるアクリル短繊維「エクスラン」は日本エクスランで製造・販売・開発の一貫体制をとるとともに、「エクス」などアクリレート系をはじめ、特化品を増やしています。
――天然繊維では、ウールが問題でした。
羊毛事業は綿紡織とのシナジーがほとんどないという面もあり、生産・販売・開発一体で自己完結経営をしようと4月から東洋紡ウールとして分社しました。国内生産はユニフォームや学生服、高級紳士服地などへ用途特化し、紡績も「マナード」など高級テキスタイル用原糸に集中するため、4000錘に減らしました。
海外では豪州のトップメーキングから撤退する一方、マレーシアの紡績子会社を糸売り用拠点として競争力を強化していきます。
――綿紡織事業は。
綿は冒頭に申し上げたキャッシュフロー経営の象徴です。輸入浸透率が我々の予想した以上のスピードでどんどん上昇している。言い換えるとサプライソースが海外に移っていることになります。シャツ地が典型ですが、いったん海外に移ったら、それが国内に戻ってくることはありえない。そこでキャッシュフロー経営も半期単位という悠長な話ではなく、1日単位で見て、すぐに固定費削減の手を打つことです。
――東洋紡はローリング方式で毎年3カ年計画を策定しています。02~04年度計画のポイントはどこに置きますか。
最大の課題は繊維事業の安定化であり、そのためには衣料用汎用素材をもっと減らさねばなりません。ただゼロにはなりません。汎用素材でも機能素材と組み合わせて展開しているものもありますから。
現状では全社(単体)売上高に占める汎用繊維比率は26%くらいだと見ています。繊維売上高の中ではまだ半分以上あります。これを04年度には全社の20%、繊維の40%強まで減らす計画。この段階で繊維も「黒字の塊」になっているはずです。
素材の枠超え顧客に対応
――繊維の事業規模は減りますか。
01年度は1150億円程度になるでしょう。汎用品を150億円減らし、特化品を50億円増やして、差し引き100億円のマイナス、1050億円くらいを想定しています。
――非繊維はこれまで計画以上の伸びでした。今後も順風満帆が続くと楽観できますか。
計画では1250億円を1600億円にすることになっていますが、心配はあります。今までが良すぎましたからね。
例えばフィルムですが、当社が健闘してきたのは、ビデオテープに代表される汎用用途に入れなかったために、包装用など細かい対応が要求される分野で顧客といっしょになって商品開発を積み重ねてきたからです。それでもBSE(狂牛病)の問題が起きると食肉用は大きなダメージを受けます。市場の動きをよくにらんで、自社の開発力、ノウハウを活用して新しい商品をどんどん打ち出していく必要があるでしょう。
――焦点となる繊維事業は4月から化合繊、天然繊維両事業本部が一本化されました。
(1)化合繊、天然繊維の素材を問わず、顧客に対して一元的に対応する体制にする(2)ファイバーとテキスタイル事業とを分離し、それぞれの事業の特徴に応じた運営をすること――などが狙いです。
――理屈では分かりますが、例えば長年、綿素材を売ってきた営業マンが次の日から合繊機能素材もいっしょにプレゼンテーションすることは可能ですか。
一日も早くできるように努力してもらわねばなりません。世の中は変わったのだから、これまでの経験は捨てないと。実際に、ある部署では、土日に他部署の技術者を招いて勉強会をしています。あてがわれた素材だけでは売るものがないと、必要にかられて自主的にやっているんです。
12、13年前のことですが、経営企画室時代にある営業部へ支援に入り、お客さん主催の勉強会に出たことがあります。20数人が来ており、後で分かったことですが、うち7人が東洋紡の人間だった。素材別の各部署からバラバラに来てるんです。こんな無駄なことはない。これが今回の組織改正の原体験にあります。
――新組織を見ると繊維分社への一里塚に見えます。
分社を意図した組織改正ではありません。しかし、する気ならすぐできる体制になったことは事実です。例えばつるが工場も「敦賀繊維」「敦賀機能材」「敦賀ポリマー」の3工場に分け、各事業部の管轄にしました。今、繊維を分社してもやっていけません。やるべきことが済んだ段階でよく考えます。
略歴
(つむら・じゅんじ)1958(昭和33)年東大法卒、同社入社。企画部長、ステープル総括部長などを経て90年取締役、95年常務機能材・メディカル本部長、97年専務化合繊事業本部長。99年から社長。66歳。
中国・China/巨大消費市場は遠い
「『世界の工場』であることは間違いないが、すぐ巨大消費市場になるとは思えない」と津村さんは中国をリアルにシビアに見る。全国平均の一人当たりGDPは850ドルだが、上海市の4500ドルに対し、内陸の貴州省は340ドルと10倍以上の開きがある。国全体が7、8%の成長を続けても、この格差は縮まらず、社会的・政治的不安に発展する危険性も否定できない。“作れば売れる”といわんばかりの大増設も懸念材料。「過剰設備、過剰供給のとがめはいつか必ず来る」と警鐘を鳴らす。したがって「世界の工場」としての機能をコマーシャルベースで利用することはあっても「今のところ中国に資本投下する考えはない」と言い切る。