特集 くつしたの日 奈良靴下産地(4)/次の世代に産地残せ!/タビオ奈良/ユニオン工業/河辺

2023年11月10日 (金曜日)

 多彩なレッグウエアを生み出す奈良靴下産地。靴下工場だけが全てではない。この産地が次世代にも残るためには確かな品質を維持し、編み機や糸の供給で工場のモノ作りをバックアップする企業が欠かせない。

〈タビオ奈良/五感が高品質支える〉

 日本だけでなく世界に品質の高い国産靴下を供給するタビオ。その品質の確かさを独自に検証する役割を担うのが100%子会社のタビオ奈良(奈良県広陵町)だ。

 タビオ製品の多くは奈良産だが、兵庫、和歌山などで作られているものもある。だが、どこで編まれたかに関わらず、ほぼ全ての製品が一度、タビオ奈良に運ばれていることを知る人は少ない。同社での厳しい品質チェックと検品を受けずには出荷されない仕組みをとることで、タビオの品質が保たれている。

 一体どのような検査が行われているのか。同社を訪れると、検査エリアには洗濯機やさまざまな試験機が並び、繊維製品の試験を専門とする検査機関と同じぐらい充実した設備があった。糸の混用率や性質を調べる機械もあり、時として原料までさかのぼって試験を行う。新製品作りにもこうした設備が生かされている。

 「JIS基準を満たすのは当然で、最も重要なのは当社ならではのはき心地」と話すのはタビオ奈良の真砂輝男社長。「目指すのは“第2の皮ふ”と思えるほどの自然なはき心地。一点ずつ商品の個性を見極め、数値による試験に加え人の五感も使って確かめています」と続ける。

 はき心地は人によって感じ方が異なり、数値化が難しいのでは…。実はタビオ奈良では創業者で2022年に急逝した越智直正氏が「この靴下は(締め付け具合などで)このぐらいが一番!覚えといて!」と事細かに品質管理チームに伝えた感覚を今も伝承しているそう。市場で高い評価を受けるタビオ品質を確かめる最後の砦は精密機械ではなく人の感覚だった。

〈ユニオン工業/3Dサンプルで生産性向上〉

 繊維機械商社のユニオン工業(兵庫県尼崎市)はイタリアの靴下編み機メーカー、ロナティの編み機を日本市場で販売する。今、注目を集めているのがロナティの靴下編み機専用のデジタルプラットフォーム「アンリミテックス」だ。

 アンリミテックスは立体バーチャルサンプルを作成するためのソフト「オリオン」と、編み機の稼働情報をリアルタイムで細かく収集・分析するソフト「アルカディア」で構成される。

 オリオンは2024年1月にリリースするソフトウェアで、デザイナーの感覚的、直感的な表現がそのまま編み機のプログラムになる。画面上で作った3Dサンプルは一つ一つの編み目にまで迫ることができる精細さだ。

 画面上のサンプルは編み機のプログラムでもあるためデータを編み機に送ればすぐに生産が可能。これまで工場と企画部署との間で費やされてきた試作品製造の時間を大幅に縮めることができる。ゆくゆくは糸の素材感、太さの違いも画面上で表現できるようになる。

 アルカディアは25年にリリース予定の生産管理の精度向上を狙ったソフトウェア。24時間稼働の工場を例にすると、1日のうちいつ、どの機械が何度、停止したか、その原因分析まで可能だ。モーターの電力の消費効率や可動部の消耗の度合いもデータで分かる。機械1台1台の動き、エネルギー使用量まで詳細に把握することでコストの改善や機械の部品交換、保守点検でも効率を高められる。

〈河辺/24年に新たなアクリル糸〉

 糸無くして、靴下は作れない。糸の製造コスト上昇や国産糸の生産基盤の弱体化が進む昨今、国内での調達環境は時を追うごとに不安定になっている。こうした中、良質な糸、市場が必要とする糸を安定供給するという繊維商社の役割はこれまで以上に重要になる。

 紡績糸専門商社の河辺(奈良県大和高田市)は1971年の創業以来、奈良靴下産地に密着して事業を拡大してきた。販路は全国にあるが、同産地に本社を置くだけあって、地元の工場との取引額は大きい。規模の大小を問わず日常的に靴下工場を訪れ、要望をきめ細かく聞いて新たな糸の開発に生かしている。

 2024年1月から新たな保温機能と抗菌防臭機能を持つ紡績糸のシリーズ「セラウォーム」を発売する。東洋紡の遠赤外線アクリル原綿「セラムA」を使用する。毛混で36番単糸、48色で展開する。編み地にするとふっくらとした生地になり、空気を多く含むことに加え遠赤外線効果も加わり高い保温性を発揮する。後加工による抗菌防臭機能はSEKマークを取得済み。

 ここ数年の電気料金の値上がりで、消費者の間では節電対策として保温性の高い衣料品が売れる傾向がある。こうした需要を狙って開発した。三菱ケミカルグループが今年12月で衣料用アクリル短繊維事業から撤退することを受け、このアクリルを使う紡績糸をセラウォームに置き換える。

〈奈良県/Vチューバーの愛称募集〉

 奈良県はこのほど、県公式バーチャルユーチューバー(Vチューバー)として採用するキャラクターデザインを公表した。今月17日までウェブ上で愛称を募集中。

 今夏の募集で集まった363作品のうち、最終選考に残った3候補はいずれも女の子がモチーフとなっており、どれも奈良の歴史や文化を象徴する個性的なビジュアルだったが、最も靴下が目立つデザインがグランプリに輝いた。近い将来、靴下産業をサポートしたり、新たなビジネスを生み出すきっかけになるかも知れない。

 国内在住であれば誰でも応募できる。選ばれた愛称を名付けた人に賞金5万円が贈られる。決定した愛称の公表は2024年3月を予定する。