東レ/印でエアフィルター工場稼働/中国と2拠点体制へ

2023年11月08日 (水曜日)

 東レは10月31日、インド法人の東レ・インダストリーズ(インディア)(TID)が南部アンドラプラデシュ州スリシティーで高性能エアフィルターの工場を稼働したと発表した。空気清浄機や車のエアコンの内部などに使われる。インドで、ろ材用不織布の原反からフィルター組み立てまでの一貫生産体制を築き、これまでエアフィルター事業を担っていた中国と2拠点体制を敷く。東レは2018年にスリシティーに広大な用地を購入しており、今後も需要が見込まれる製品については輸入対応から現地生産に切り替え、事業拡大を図る計画だ。

 TIDで取締役兼エアフィルター部門長を務める清水寛之氏は同日、NNAに対し、「大気汚染が深刻化するインドで、空気清浄機の需要が高まるとみている。消臭・ウイルス除去機能を求める消費者の清潔意識も念頭に高性能・高品質のエアフィルターの現地生産に乗り出す」と説明した。

 スリシティーでエアフィルター用ろ材(原反)を生産することで、TIDとしてフィルター組み立て加工までの一貫生産対応が可能となった。ろ材(生産量ベース)は6割が空気清浄機用、3割が車のエアコン用、残る1割がビル空調用で、各メーカーの仕様に合わせて製品化し提供する。空気清浄機用は日系の大手家電メーカーや空調メーカーが主要顧客となる。

〈中国依存を回避〉

 東レグループとして、エアフィルター用不織布はこれまで中国拠点が生産を担ってきた。中国の工場は12年に稼働し、翌13年にはフル稼働に入った。その後も増設を繰り返したが、「一極集中のリスクがあった」(清水氏)。

 米中摩擦の長期化や新型コロナウイルス禍後のサプライチェーンの見直しで、顧客の中国からの生産移管が進んだほか、東レグループとしても事業拡大を見据えた生産の分散を重視した。実際、ここ4~5年で顧客の脱中国が進むに伴い、東レはタイにエアフィルターの販売拠点を立ち上げた。

〈最短3年の黒字化目標〉

 東レはスリシティーをグループの一大拠点に育てる考えで、18年に東京ドーム7・5個分に相当する約35万平方メートルの用地を取得した。敷地内には既に自動車の電装部品などに使われる「樹脂コンパウンド(エンジニアリングプラスチック)」工場(19年9月稼働)と、紙おむつ素材の「ポリプロピレン(PP)スパンボンド」工場(20年3月稼働)の二つの工場がある。

 TIDの西澤昌洋社長は、「耐熱性が高いエンジニアリングプラスチックは電気自動車(EV)を含めた自動車の電装部品に用いられる。PPスパンボンドは1人当たり国内総生産(GDP)が3千ドルを超えてくると普及するといわれる紙おむつの素材となる」と話し、インドで需要増が見込まれる商品に絡む原材料に照準を定める。エアフィルターも中間所得層がより上位に移行することで、東レが手掛ける高品質フィルターを装着した空気清浄機を消費者が求めるようになると想定し、先行の利を狙う。

 エアフィルター事業は走り出したばかりだが、エンジニアリングプラスチック工場は本年度(23年4月~24年3月)内にフル稼働(年産5千トン)となり、来年1月には新たな生産ラインが始動する予定だ。PPスパンボンド工場(同1万8千トン)は平均年齢28歳前後という厚い若年層に支えられ、売上高では現在、エンジニアリングプラスチックに対し、2倍を稼ぐ。エアフィルターについては早くて向こう3年で黒字化する目標を掲げる。

〈炭素繊維素材とRO膜を有望視〉

 「東レグループとして、インドを中国に比肩する一大拠点に育てたい」。インドの東レ代表を務める末永繁一氏(東レ・インディア会長)は力を込める。スリシティーには新規事業を立ち上げるための十分な用地を確保しており、さらに隣に位置する土地を追加で10万平方メートル取得する予定だ。

 今後の新規事業として、末永氏は東レグループが強みを持つ、大型風力発電のブレード用炭素繊維素材と海水淡水化や廃水再利用など幅広い用途の逆浸透(RO)膜を有望視する。需要の伸び次第では、輸入ではなく、現地対応の「地産地消」に転換する可能性もあると言う。

 まずは中期的にエアフィルター事業を軌道に乗せ、エンジニアリングプラスチックと合わせて売上高ベースでPPスパボンドと同規模まで高める。5~10年の長期的スパンで新規事業に着手する戦略を描く。[NNA]