秋季総合特集Ⅱ(8)/Topインタビュー/大和紡績/取締役製品・テキスタイル事業本部長兼産業資材事業本部長兼産業資材部長兼生産技術部長 青柳 良典 氏/環境負荷低減し“循環型”へ
2023年10月24日 (火曜日)
大和紡績では今期(2024年3月期)が3カ年の中期経営計画の最終年度となる。新型コロナウイルス禍やロシアのウクライナ侵攻に端を発したエネルギーをはじめとしたさまざまなコスト高を受け、厳しい環境だったものの、「伸ばしていくべきビジネスは見えつつある」と青柳良典取締役は話す。合繊、産業資材、製品・テキスタイルの3事業本部の研究開発機能を備える播磨研究所(兵庫県播磨町)を軸に環境配慮や高機能をキーワードにした新素材、新商品の開発によって事業の高収益化を加速させる。
――自社の“最旬”の事業は何でしょうか。
合繊、産業資材、製品・テキスタイルの3事業本部が連携しながら、環境配慮型の商品群を充実させつつあります。例えば製品・テキスタイル事業ではリサイクルポリエステルを米綿で包んだ二層構造糸「ツインレット」がカジュアル向けで売れ筋になりつつあります。
合繊事業では海水中での生分解性を確認し、第三者認証も取得した「エコロナ」、廃棄綿製品を原料に再利用し、リサイクル原料が適正に使用されていることを認証する「リサイクルド・クレーム・スタンダード」(RCS)も取得した「リコビス」といった、環境に配慮したレーヨン短繊維を数多くそろえています。
ただ、最近では単にリサイクルというだけではなく、“循環型”への要望も強まっています。産業資材用途でも環境負荷低減に寄与する製品の研究開発に取り組んでいます。
今後、循環型を考えていけば、単一素材が一番循環させやすい。研究開発機能を持つ播磨研究所では、トラックシート向け帆布のポリエステルと樹脂をどう分離させていくかなど、さまざまな技術の確立に向けて取り組んでいます。廃棄物をなくしていくというのは世界的な潮流でもあり、当社でも対応力を高めていきます。
――上半期(4~9月)の商況はいかがですか。
製品・テキスタイル事業は米国向けが景気の影響で低調ですが、国内向けOEM製品ではある程度価格改定が浸透し、収益を確保しています。
産業資材事業は、電子部品向けカートリッジフィルターが半導体メーカーの稼働率悪化の影響を受けています。建築シートは戸建て住宅の着工件数が伸び悩んでいますが、都市部の再開発などによって販売を伸ばしています。フィルター需要がいまひとつ盛り上がりに欠ける中、半導体関係の工場の立ち上げは増えていますし、建築シートにもまだまだ好機はあります。
合繊事業はコロナ禍の行動制限解除によって制汗シートやコスメティック分野などの不織布製品の動きが活発になっています。ただ、衛材向けは少子化の影響を受け、販売が振るっていません。
難燃や防炎など機能レーヨンの販売を強めています。現在、レーヨンを供給できるのは国内でダイワボウレーヨン1社しかなく、機能に照準を当てて、やるべき戦略を描いています。この方向は間違っていないと思っています。
――産業資材事業のフィルターは、半導体市場の低調の影響が色濃く残っています。
浮上しかけているとはいえ、まだ期待値ほど戻るスピードが速くありません。ただ、半導体メーカー関連企業による工場新設が活発化しており、垂直立ち上げで最初からフル生産を目指していることから、25年には再び需要のピークが来るとみています。
――下半期の見通しはいかがですか。
価格転嫁してきましたが、原燃料・原材料の高止まり、円安が続いており、まだまだコストの上昇が続きそうです。物流も2024年問題を受け、費用の増加だけでなく人手不足による納期対応も問題となってきます。なかなか厳しい情勢が続く可能性があります。
その中でも安定している部門、てこ入れしていく部門がありますが、てこ入れしていく部門でいかに速やかに施策を実行していけるかがポイントになります。
――フィルターでは総合化を目指しています。
原料から製品までの一貫生産体制を構築しており、播磨研究所での研究と出雲工場(島根県出雲市)を連携させながら、高機能化を進めています。食品や化学、塗料といった分野へも販路を広げるとともに、より高精度が求められるニーズへも対応していきます。播磨研究所の協力で、新型フィルターの試験販売に入り、来年の本生産を期待しています。
――製品・テキスタイルでは付加価値の高い商品供給も課題でした。
インナーを中心とした実用衣料が多いだけに価格を上げにくい。しかし、ここは一味工夫するような提案を強めています。例えばツインレットを使うことで吸水性や速乾性、寸法安定性といった機能性を持たせることができます。天然由来の撥水(はっすい)剤を使った汗染み防止素材「リペルーフNW」の引き合いも増えています。もう少しこれらの差別化素材の比率を高め、高価格帯でも売れる商品の供給に努めていきます。
――海外への販路開拓も強めています。
合繊事業では国際販売開発室を立ち上げ、機能性レーヨンの輸出を強めています。インドネシアには不織布、カンバス・メッシュベルト、衣料品それぞれで生産拠点があります。衣料では米国輸出の拡大、ベルトは現地ローカルや第三国向け輸出の拡大を進めています。
――今期は3カ年の中期経営計画の最終年度となります。
環境が激変し、スピードを持って対応していかなければいけない部分で手を打つのが遅れたり、値上げでワンクッション遅かったりするなどで利益面では非常に苦戦しました。ただ、伸ばしていくべきビジネスは見えつつあります。高付加価値での競争が収益を高めていることを実証できていますから、これを伸ばしていくためにも新商品をしっかり打ち出していきます。
《私の旬/孫の顔を見る〉
大和紡績に入社してから5分の3を東京で過ごしており、今も単身赴任している。最近は赴任先の近くに住む、小学生になったばかりのお孫さんの顔を見るのが何よりも楽しみ。「癒されて、明日の月曜日からがんばろうという気になる」。「子供を育てるという責任感から解放された部分も大きいかも」。大阪の自宅に帰ればお孫さんの代わりに猫が癒してくれる。必ず膝に乗ってくれるそうで、お孫さんと同様に青柳さんにとっての明日への活力になっている。
【略歴】
あおやぎ・よしのり 1983年4月ダイワボウホールディングス(旧大和紡績)入社。2010年10月ダイワボウノイライフスタイル部長、11年6月同社取締役、14年4月ダイワボウプログレス取締役、16年6月同社常務取締役、20年4月大和紡績取締役(現任)