2023年秋季総合特集(8)/Topインタビュー/三菱ケミカル/スペシャリティマテリアルズビジネスグループ・グローバル繊維事業部長兼ファイバーソリューション事業部長 髙島 信人 氏

2023年10月23日 (月曜日)

 三菱ケミカルグループは、トリアセテート繊維「ソアロン」の販売拡大に継続して取り組んでいる。用途やエリアに合わせて成長を図る方針で、視野の広い展開を進める。日本では自社アパレル製品の販売をソアロンブランドの認知向上やニーズの探索、新商品開発に生かす。海外では、欧州ラグジュアリーブランド向けなどに力を入れる。スペシャリティマテリアルズビジネスグループの髙島信人グローバル繊維事業部長兼ファイバーソリューション事業部長は「ソアロンは『日本製』と胸を張れる繊維の一つ。国内産地と連携を深めて良い商品を生み出す」と強調する。

――三菱ケミカルグループの繊維ビジネスで最旬は。

 ソアロンを主力素材とする独自のアパレルブランド「age3026」(エイジ・サン・マル・ニー・ロク)が最旬です。ソアロンは、繊維業界では広く知られていますが、一般消費者の認知度はまだ十分ではありません。ブランドの展開を通じて一人でも多くの人にソアロンの良さを知ってほしいと思っています。

 商品は「ボーダレス」「ジェンダーレス」「トレンドレス」の三つのレスをコンセプトに、国内産地の企業と連携して糸から生地、縫製まで一貫で生産しています。服飾系専門学校との取り組みに加え、百貨店でポップアップ(期間限定店)展開を行うなど、消費者とのコミュニケーションもできるようになってきました。

――具体的な成果は上がっていますか。

 「age3026」のほか、オンラインマーケットプレイス「クリーマ」でソアロン生地の販売を行っています。どちらも売り上げ面ではまだまだこれからですが、自分たちでチャネルを持つことで商品開発の重要性を再認識し、新用途開拓のヒントにもなっています。この1年間ですごく手応えを覚えるようになりました。

――繊維ビジネスを取り巻く環境は。

 足元を見ると、原燃料価格高騰が大きく影響しており、これに伴う価格転嫁が不可欠な状況にあると言えます。また、国内繊維産業では、コスト高と価格転嫁に加えて、生産現場(国内産地)でキャパシティー不足が発生しています。これはすぐには解消せず、しばらく続く可能性があります。

 新型コロナウイルス禍によるサプライチェーンの混乱や円安で国内生産回帰の流れが強くなりましたが、この間繊維関連企業の廃業もあって糸を生地に仕上げる能力が縮小しました。働き手不足も追い打ちになっています。需要は堅調なのですが、タイムリーに生地を供給できないケースも見られます。

――海外はどうでしょうか。

 米国と中国の対立、ロシア・ウクライナ問題などの影響はゼロではありませんが、三菱ケミカルグループの素材販売は堅調です。トリアセテートは、ポリエステルなどと比べてニッチなことが奏功しています。価格の二極化が進んでいることもラグジュアリーゾーンに強いトリアセテートには追い風かもしれません。

――そうした状況下で繊維事業の2023年4~9月は。

 三菱ケミカルグループの素材販売は堅調とお話ししましたが、どの国・地域をとっても販売は昨年を上回る水準で推移しています。日本、欧州、米国、中国、中東のいずれも売上高は伸びているのですが、日本では円安がマイナスに作用し、製造コストも上昇基調が続いています。下半期も大きく変わらないと想定しています。

 炭素繊維の足元は勢いを欠いています。最大の要因は風力発電翼用途の需要が一巡したことです。同用途はこれまで順調に拡大してきましたが、需給バランスが崩れて今年は在庫調整の一年になったのではないでしょうか。ただし、長期的には間違いなく拡大すると予想しています。

――景気減速が伝えられる中国で堅調を維持できている理由は。

 ソアロンブランドが中国市場に浸透していることに加え、日本で展開している生地とは一味違う生地が人気を得ています。その生地を日本で作って輸出するのではなく、現地協力会社と連携して生地製造のサプライチェーンを構築しています。そこに日本から糸を供給しており、それがけん引役を務めています。

 中国市場への糸販売は以前から積極的に取り組んできました。その施策がここに来て形になり始めています。これからも中国でのサプライチェーン構築には力を入れていく方針です。中国の顧客や市場が求めるモノを生産できる体制を作り上げ、持続的な成長につなげます。

――下半期以降の施策については。

 中高級領域でのニッチ戦略が基本になると考えています。繰り返しになりますが、海外では中国でのサプライチェーンの構築に注力します。こうした新しい施策は進めますが、高級婦人服分野がメインターゲットであることは変わりませんので、欧米のラグジュアリーブランド向けの販売にも重点を置きます。

 継続的な成長への武器となるのは、サステイナビリティーとトレーサビリティーです。持続可能な形で管理された森林の木材を使用し、森林管理協会によるFSC―CoC認証を取得しています。環境負荷度を可視化した独自の「ソアグリーン プログラム」の提案も顧客に役立てると思っています。

――国内産地との連携も不可欠です。

 ソアロンの生産量は少ないですが、国内産地との連携によって差異化・差別化できている商品です。別の言い方をすると、メード・イン・ジャパンとして胸を張れる繊維素材の一つであると信じています。そうした点を忘れることなく、大切にしていきます。

 産地はキャパシティー不足や後継者を含めた働き手の不足が顕在化しています。生地を持続的に生産するためには、織物工場はもちろん、撚糸や染め・加工などとの連携を深めて一緒になって課題を解決する必要があると捉えています。三菱ケミカルグループだけでなく、業界全体の課題ではないでしょうか。

〈私の旬/思わず大きな声が出て〉

 「スポーツ全般が旬」と話す髙島さん。本人だけでなく、家族全員がスポーツ好きで、中でも球技が話題になる。二人の子供は中学生になり、以前のように一緒に体を動かす機会は減ったが、「休日は家族とテレビでスポーツを観戦し、応援するのが楽しみ」なのだとか。特にサッカーや野球が好きだが、最近はラグビーやバスケットボール、バレーボールをはじめ、いろいろなスポーツを見る。応援の際、思わず大きな声が出て、「『うるさい』としかられる」こともしばしば。

【略歴】

 たかしま・のぶひと 2001年4月三菱レイヨン入社。21年4月フィルムズ&モールディングマテリアルズドメインフィルムズ&モールディングマテリアルズ企画本部戦略部長、22年7月アドバンストソリューションズビジネスグループ戦略企画本部戦略部長、23年7月スペシャリティマテリアルズビジネスグループアドバンストマテリアルズ本部グローバル繊維事業部長兼同グループ日本本部ファイバーソリューション事業部長