特集/商社原料・素材ビジネス/機能性やサステ対応を付加価値に/循環システム構築目指す動きも

2023年09月14日 (木曜日)

 繊維事業を取り巻く環境が激変し、商社も立ち位置を模索している。こうした転換期にあって、商社が長年にわたり担い続けてきた原料・素材の供給という役割を再度突き詰めようとする〝原点回帰〟も見られ始めた。原料・素材について、機能性やサステイナブル対応といった商材としての付加価値を打ち出し、多様な用途に向けた提案を進める。商材のブラッシュアップを図りながら、廃繊維をさまざまな原料に再生させる循環システムの構築に乗り出し、商社機能の拡充を目指す動きも増えている。

〈リサイクル事業拡大へ/商社の〝つなぐ力〟生かす/蝶理〉

 蝶理の繊維事業は、素材の販売が堅調に推移している。衣料品に加え、自動車内装品向けの用途も着実に回復している。 テキスタイルの販売も国内・海外ともに好調で、特に中東向けは伸びが目立つという。

 北陸産地との協業も順調に進む。素材の共同開発に積極的に取り組んでおり、試験的な市場投入を経て実用化を探る動きが活発化している。

 密接な関係を築いた産地からは、高付加価値な商材を要望する声が増えてきた。それに応える商材として、再生ポリエステル「エコブルー」、高伸縮機能糸「テックスブリッド」、ピン仮撚糸「SPX」など豊富にそろえており、今後もこれらの拡販に力を注ぐ。

 ナイロンのサステイナブル糸「ブルーニー」も品ぞろえに加えた。既に欧州のラグジュアリーブランドなどからの引き合いもあり、来春から販売が本格化する見通しだ。

 北陸産地で始まったリサイクルの取り組みが、成長へと向かい出した。これまでは、生産現場で発生した裁断くずを回収し、河川の補強材や電気自動車の吸音材などに再利用していた。

 今後は、繊維から繊維のケミカルリサイクルにも取り組む。それを含む循環スキームを「B―LOOP」(ビーループ)と名付け、国内外で循環システムを構築する。商社の〝つなぐ力〟を最大限に発揮し、実用化の達成を目指す。

〈素材特徴生かす商材開発を/原料・糸・生地で包括的に/豊島〉

 豊島は環境配慮型素材や機能性素材のそれぞれの特徴を生かし、原料や糸だけでなく生地の開発・販売にも優位性を持たせる取り組みを進める。生地の企画・販売を担う十部と、原料や糸を扱う一部・二部・三部を中心に、連携を深めながら包括的な訴求を強める。

 天然繊維が中心のサステイナブルな商材に加え、合繊を軸に高い機能性を付与したさまざまな素材をそろえる。今後も国内外に販売を強化する差別化素材の一例として「フードテキスタイル」や「ダイニーマ」を軸に挙げる。

 廃棄予定の食材を染料に活用するフードテキスタイルは取り扱い開始から8年以上経過した。天然繊維以外にポリエステルやナイロンといった合繊まで取り扱いの幅を広げ、糸や生地のバリエーションも豊富。アパレル以外にも、ユニフォームや靴、服飾雑貨、インテリア向け用品や資材など用途が大きく広がった。

 高強力ポリエチレン繊維「ダイニーマ」の特性を生かしたアパレルや生活関連資材向けの糸・生地の拡販も精力的に行う。米・アビエント社と協業してバイオマス由来の原糸を使い、軽さと群を抜く強度といった機能性と、環境配慮の側面を訴求する。

 十部の岡部良輔部長は「原綿や原料から糸・テキスタイルまで一貫して手掛ける強みを生かす。部の垣根を越え、総力を結集して発信を強化したい」と話す。

〈社内連携で独自商材強化/サステ・デジタル施策推進/ヤギ〉

 ヤギは4月1日、本部統括直轄の組織として「サステナビリティ/デジタル事業推進室」を設置した。サステイナビリティー対応やデジタル化について、組織横断的な取り組みを推進するのが狙いで、社内連携を促進しヤギ独自の商品やサービスの進化を図る。

 自社のテキスタイル電子商取引(EC)サイト「ファブリー」についても、機能拡充が着実に進んでいる。世界最大級の3次元(3D)デザイン、デジタルマテリアルライブラリー「スウォッチブック」と連携させ、生地の3D・CGデータを充実化させている。

 「サイクルダウン」は、家庭から出た使用済み羽毛ふとんを、地方自治体を通じて回収し、解体・洗浄して羽毛原料に再利用したもの。国産の循環型素材として、今後は提案を強めていく。

 オーガニックコットンの普及を通じてインドの農家の自立や子供たちの就学を支援する「ピース・バイ・ピース・コットン・プロジェクト(PBP)」への参画を続ける中、取り組み内容も新たな局面に入った。支援する栽培地の収穫量が増えたため、そこで収穫されたコットンのみを使った糸でアパレル製品を作ることを目指している。トレーサビリティーの面でのメリットも訴求する。

 現在、使用済み衣料品を多様な形で再生するサーキュラーエコノミーの仕組み作りにも着手しており、サステ事業の拡充を推し進める。

〈独自の印産有機栽培綿PJ推進/農家支援で環境改善/スタイレム瀧定大阪〉

 スタイレム瀧定大阪(大阪市浪速区)のR&D部マテリアル課は、種、畑の段階からトレーサビリティーを確保するインド産オーガニックコットンのプロジェクト(PJ)「オーガニックフィールド」を推進している。同ブランドの綿糸がタビオの靴下にダブルネームで採用されるなど実績を積む。「この取り組みに共感してもらえるブランドを増やしていきたい」とし、他素材との混紡バージョンなどバリエーションを広げていく。

 インド最大の綿花の種販売会社NSL社と協業するPJ。GOTS認証を取得するまでの間に栽培した綿花を販売することで農家を支援し、労働環境と自然環境の改善を図る。収穫した綿花はNSLグループの紡績会社で糸にし、全量をスタイレム瀧定大阪が買う。徹底した品質管理によりコンタミネーションもほぼないと言う。

 綿花栽培から3年が経った今年度は約3千軒の農家が同PJに参画した。約1千㌧、糸にして200~300㌧の収穫を見込む。

 社内生地部門への供給のほか、糸販売も行う。生地は「プルミエール・ヴィジョン」など海外展にも出品し、取り組みの内容と商品自体に高い評価を得た。

 今後はメランジタイプや超長綿タイプ、レーヨン、麻、ポリエステルなどとの混紡タイプもそろえていくほか、綿花段階での販売も視野に入れる。

〈開発糸で新規開拓/リサイクルやグループ連携に焦点/東洋紡せんい〉

 東洋紡せんいのマテリアル事業部原糸販売グループは、高品質・高付加価値な差別化糸の開発に改めて力を入れ、新規取引の開拓に取り組む。特にリサイクル、東洋紡の紡績技術、グループ連携に焦点を当てた開発糸を提案する。

 リサイクル関係では、従来の反毛使いとは異なるリサイクル綿糸を開発している。通常の反毛機とは異なる開繊方式の設備を活用しており、一定の繊維長を保った開繊を実現した。このため高品位なリサイクル綿糸を紡績することができる。

 原料には自社や取引先の製造工程で発生する残糸や端材、裁断くずを使用する。このためトレーサビリティーも確立しており、リサイクル製品の国際認証である「グローバル・リサイクルド・スタンダード」(GRS)の取得も可能だ。

 協力関係にある海外の大手紡績と連携し、光沢感や滑らかな風合いを実現した高級綿糸「プライムコット」も開発した。海外紡績が調達する高級原綿に東洋紡の技術・ノウハウを融合。東洋紡グループの日本エクスラン工業のハイバルキーなマイクロアクリル短繊維と綿の混紡糸などグループ連携による糸開発も加速する。

 10月に予定する同社の総合展示会、11月の「北陸ヤーン・フェア」、来年2月の「ジャパン・ヤーン・フェア」、同4月の「サステナブルファッションEXPO」で大々的に披露する。

〈国内生地は価格適正化を/高機能素材の提案軸に/帝人フロンティア〉

 帝人フロンティアの衣料素材本部は、利益の拡大に取り組む。コストアップの影響が大きい国内テキスタイル販売が課題になるとし、価格適正化の推進や高機能素材の展開に力を入れる。今年度(2024年3月期)は国内テキスタイル販売で黒字浮上を目指すとともに、本部全体で増収増益を計画する。

 同本部の23年4~6月は、計画を上回る水準で推移したが、けん引したのがテキスタイル輸出だ。過去最高水準だった前年には及ばないが、計画をクリアした。原料分野は中東向けのポリエステル長繊維が順調だった。国内テキスタイル販売は一部で生産調整の影響があったが、全体では計画通りの数字を確保した。

 国内テキスタイルは、原燃料価格高騰分の価格転嫁が追い付かず、前年は営業赤字を余儀なくされた。今上半期は赤字が残る見通しだが、下半期以降に価格改定効果が発現するとして、通年での黒字確保を予定している。官需やスクール、スポーツなどの分野を強化する。

 官需にメタ系アラミド繊維「コーネックス」を、スクールにコットン調ポリエステル生地「ポリリズム」を積極提案するなど、高機能品が中心となる。ポリリズムは、コンパクトな“度詰め感”などの特徴を持つ。順調な海外市場向けのテキスタイルは、ニットに加えて、織物の提案を強化する。