特集 差別化ヤーン/モノ作りのストーリー性に花開かせる糸/シキボウ/新内外綿/豊島/東洋紡せんい/泉工業

2023年09月05日 (火曜日)

 国内の生産縮小が急速に進む中、糸からの差別化が難しくなってきた。そのため、差別化糸の希少性も高まりつつある。円安によって海外糸との競合も激しくなっているが、品質面や安定供給、そして原料からの差別化をしていく上で日本の紡績や商社、ラメ糸製造卸などの存在は欠かせない。消費者に対しモノ作りでのストーリー性をアピールしようとする動きが活発になりつつある中で、差別化糸へのニーズは今後、ますます盛り上がりを見せていきそうだ。

〈「コットン∞」採用広がる/ビジネス、カジュアルで/シキボウ〉

 シキボウは、フェアトレード綿糸「コットン∞」(コットンエイト)の採用を広げている。既にビジネスシャツの店頭販売が始まっているほか、カジュアル製品にも採用が決定。環境配慮型のポリエステルとの複合によって、高まるサステイナビリティーのニーズへも対応できる。

 コットン∞は昨年から豊田通商、信友と連携しフェアトレードコットンの普及に向けたプロジェクトとして共同で推進。開発途上国の農作物を公正・適正な価格で調達することで、現地の雇用創出と生産者の生活向上を目指しており、人権尊重に焦点を当てた提案ができる。

 SDGs(持続可能な開発目標)に沿った取り組みを進める企業が増えている中で、コットン∞に対する関心も高まり、今年から少しずつ採用が広がってきた。ビジネスウエアでは紳士服郊外店が8月に同素材を使ったシャツを発売。カジュアルブランドへの採用も決まった。提携するファッションブランド「アンリアレイジ」でも秋冬向け新商品で採用を予定する。

 米綿使いによってトレーサビリティーの面からも訴求が可能。インドネシアの紡織加工会社メルテックスや、ベトナムの協力工場を中心に綿糸やポリエステル・綿混糸を生産しており、今後はユニフォーム向けへの提案を強める。ポリエステル部分に燃焼時の二酸化炭素発生量が少ない「オフコナノ」や、生分解性の「ビオグランデ」などを使うことで、環境配慮の面からも訴求できる。

 10月に東京ビッグサイトで開催される合同展示会「サステナブルファッションEXPO」では前回展に引き続き、豊田通商と信友の3社でブースを設け発信に力を入れる。

〈竹生地、肌触り滑らか/繊維特有の刺激和らぐ/新内外綿〉

 新内外綿は竹・綿混糸(竹糸)を使った生地の手触りを滑らかにする改質技術を確立した。これまで織物の外衣での採用が多かったが、インナーなど肌にじかに触れるニットでも商機が広がる。

 これまで竹糸は生地にした際、竹繊維特有のチクチクとした触感が出るため肌にじかに触れる商品には採用されにくかった。これまでアロハシャツや作務衣(さむえ)といった肌に直接当たることが少ない織物製品での採用が多い。

 竹糸は同社が10年以上扱うロングセラー商材の一つ。原料となる竹は中国の竹林から切り出されるものに由来する。竹糸は綿混で展開し綿45%混の12番単糸、綿70%混の20番単糸、綿85%混の28番単糸がある。生地はさらっとした爽やかな手触りだが、生地表面に突起として出た硬い繊維が肌を刺激する感じがある。

 改質処理を施した竹糸の天竺編みのサンプルは、綿100%のものよりわずかに硬さや微妙な凹凸感が残るが、肌を刺激する感じはほとんどない。Tシャツ、カットソー、インナー用途といった肌触りが求められるアイテムとして提案する。

 竹などが持つ肌を刺激する繊維を硬質に結束させる、木質素とも呼ばれるリグニンという物質を取り除くことが今回の改質技術の基となった。竹以外に同社が扱うヘンプやヨシでも同様の改質が可能で、やはり各繊維特有の肌を刺激する肌触りを抑えられる。ヘンプ、ヨシでも改質生地のサンプルを作る。

 このほどリニューアルした定番杢(もく)糸の見本帳には今回の改質素材は収録していないが、見本反ができ次第、別紙にサンプルを張り付けて見本帳に挟み込んで提案する。

〈天然、合繊でサステ推進/幅広い素材提案で差別化を/豊島〉

 豊島はサステイナビリティーを意識させる各種の糸で差別化を進めている。オーガニック綿の「トゥルーコットン」や再生ウールの「サークルウール」、合繊再生素材の「テックリサイク」など天然から合繊まで幅広くそろえているのも特徴だ。

 トゥルーコットンはトルコ産のオーガニック綿を使用することで環境負荷を低減した素材だ。こうした環境配慮性能に加えて、綿花の生産農場から紡績までの流れを追跡できるトレーサブル素材でもある。

 具体的には同社が独占契約を結んだトルコの紡績グループ・ウチャクテクスティルが、生産農場から紡績までの工程を一元管理。それによって“生産者の顔が見える”トレーサビリティーを実現している。

 最近では発信力のあるインフルエンサーと連携した商品展開も推進。自然体のライフスタイル提案で知られるインスタグラマー・石岡真実さんが監修したふとんカバーやシーツ、ピローケースなどのカバーリングを受注販売し好評だった。

 サークルウールはウール混のセーターなどの古着のほか、工場から出る糸くずや裁断くずといった端材を反毛し、再度紡績した再生ウール糸だ。協力工場による厳格な審査基準によって色の再現性や毛率、紡績性などを安定させている。

 近年は天然繊維だけでなく、合繊の提案にも力を入れている。今年から始動したテックリサイクはポリエステル、ナイロン、アクリルといった3素材の端材などを海外の生産ネットワークを生かして再生する。CO2排出削減とともに循環型社会の実現を目指す。

〈高品位なリサイクル綿糸/特殊原綿と東洋紡の技術融合/東洋紡せんい〉

 東洋紡せんいは現在、革新的な紡績糸の開発に力を入れている。その一つとして、従来の反毛使いとは異なるリサイクル綿糸の開発に成功した。

 リサイクル綿糸は原料となる糸・生地を反毛機で開繊して反毛わたに戻して再利用する方法が一般的。ただ、この方法では開繊の際に繊維にかかる物理的力が大きく、繊維が断裂して繊維長が短くなってしまう。

 これに対して東洋紡せんいはまったく異なる開繊方法を導入することで、一定の繊維長を保つことに成功した。このためリサイクルわたを使用しながらも高品位な綿糸を紡績することができる。繊維長が保たれているため、80番手まで紡績が可能だ。

 原料には自社や取引先の製造工程で発生する残糸や端材、裁断くずを使用する。このためトレーサビリティーも確立しており、リサイクル製品の国際認証である「グローバル・リサイクルド・スタンダード」(GRS)の取得も可能だ。

 協力関係にある海外の大手紡績と連携した開発にも取り組む。このほど、東洋紡の技術・ノウハウと海外紡績が調達する高級原綿を融合することで光沢感や滑らかな風合いを実現した高級綿糸「プライムコット」を開発した。

 そのほか、日本エクスラン工業のハイバルキーなマイクロアクリルわたと綿の混紡糸などグループ連携による糸開発も加速する。

 これら開発糸は10月に予定する同社の総合展示会で披露するほか、11月の「北陸ヤーン・フェア」、来年2月の「ジャパン・ヤーン・フェア」、同4月の「サステナブルファッションEXPO」など合同展にも出展し、提案を進める。

〈「SEK」対応ラメ糸/抗菌、制菌、抗ウイルス機能で/泉工業〉

 ラメ糸製造卸の泉工業(京都府城陽市)は、繊維評価技術協議会の繊維製品機能性認証である「SEKマーク」に対応した機能性ラメ糸「ベラホン」を開発した。「抗菌」「制菌(一般用途)」「制菌(特定用途)」「抗ウイルス」のSEKマークを取得している原料を採用することで実現した。

 ベラホンは、特殊な銀化合物をスパッタリングしたポリエステルスリット糸をラメの原料に使用したもの。銀化合物が高い抗菌性や抗ウイルス性を発現させる。スリット糸がSEKマークを取得していることから、これを使った機能ラメ糸を規定に従った混率で使用すれば最終商品もSEKマークの添付が可能だ。

 材料ベースで機能性を確保しているため、繊度や撚糸方法の自由度も高く、需要家の要求に対応することができる。このため衣料用途だけでなく資材用途でも提案を進める。8月25日に大阪で開催された「衛生技術展2023」にも出展し、ベラホンを披露した。

 同社は、このほかにも仕上がり繊度35デシテックス(T)の極細ラメ糸も開発している。アルミ蒸着したポリエステルフィルムを300切(0・1ミリ幅)にスリットしたラメを使用。これをタスキ撚りにすることで実現した。

 こちらは、まずは織ネーム向けで提案する。織ネームは極繊度糸による高密度製織で複雑な柄や細かな文字、文章などを表現する傾向が強まっている。極細ラメを使用することでラメ糸使いでも模様、文字、文章などを精密に表現することができる。