特集 2023年夏季総合Ⅱ(3)/商品、用途開拓、対応力で成長する/時代の要請に応える人工皮革/旭化成/クラレ/帝人コードレ/東レ
2023年07月26日 (水曜日)
数多くの新素材を生み出してきた日本の合繊メーカー。人工皮革もその一つだろう。天然皮革の繊維構造を合成繊維で再現することで実現した高い質感と機能は新たな需要を創出した。近年、時代の要請に応える形で販売拡大が続いている。
従来、人工皮革は天然皮革の代替品として実用化が進められてきた。ところが近年は人工皮革として独自の価値が認められて採用されるケースが増える。その代表格が自動車内装材、特に電気自動車(EV)向けだ。
EVで人工皮革が採用される理由の一つが軽量性。EVはバッテリー容量が走行性能に直結するため、他の部材の重量をどれだけ減らせるかが重要になる。もう一つが高い品位。EVは基本的にあらゆる操作系が電子制御となるため、機械式の計器・スイッチ類が減少し、液晶ディスプレー上に集約されるなど内装デザインのコンセプトが一変した。内装材の使用面積が拡大し、そこに高い品位が求められる。
新たな要求に応え素材として人工皮革が注目された。東レの「ウルトラスエード」や旭化成の「ディナミカ」などスエードタイプが人気を集める。銀付きタイプを主力とするクラレの「クラリーノ」と帝人コードレの「コードレ」も自動車内装材への提案を強化している。
動物性素材の使用を忌避する“ビーガン”志向がオルタナティブムーブメントとしてスポーツやファッション分野で無視できない潮流となっている。このためメガスポーツブランドなどは、これまで天然皮革を使っていたスポーツシューズの素材を人工皮革に切り替える動きが相次ぐ。
時代の要請に基づく新しい需要を取り込むことで、人工皮革の市場は成長する。
〈ブランド力を高める/旭化成〉
旭化成は今年、自社のスエード調人工皮革のブランドを「ディナミカ」に統一するリブランディングを実施した。自動車内装材のグループ会社、セージ・オートモーティブ・インテリアズのブランドだったディナミカに統一することで、自動車内装材用途を中心にブランド力を一段と高める。
ディナミカは自動車内装材のほか、家具やコンシューマーエレクトロニクスでも採用が増えている。評価が高いのが環境負荷を抑えた製法や仕様だ。基材にはリサイクル糸を使用し、溶剤を使用しない水系ウレタンを採用する。
「エコテックス」や「グローバル・リサイクルド・スタンダード」(GRS)など安全やサステイナビリティーに関する国際認証も取得している。また、日立製作所のシステムを活用し、不織布工場(宮崎県延岡市)で使用する電力が全て再生可能エネルギー由来である認定も得た。
〈有機溶剤不使用を実現/クラレ〉
クラレの「クラリーノ」は人工皮革のパイオニア的存在の一つ。特に銀付きタイプで豊富な実績を持つ。新製法によって低環境負荷も実現した。
特にスポーツシューズのアッパー材での採用が拡大している。近年、メガスポーツブランドがシューアッパーを天然皮革から人工皮革に切り替える動きが強まっており、再生ポリエステルなどサステイナブル素材を使用したタイプの販売が拡大した。ランドセル用途では高いブランド力を持つ。
自動車内装材でも銀付きタイプが採用されるケースがあり、ここでもクラリーノの販売が増えてきた。宝飾品ケースの外装材などラグジュアリー分野も底堅い需要がある。
製造工程で有機溶剤を使用しない新製法「クラリーノ・アドバンスド・テクノロジー・システムズ」(CATS)も実用化し、環境負荷低減も実現。こうした強みを生かし、引き続きスポーツシューズや自動車内装材などでの販売拡大を進める。
〈メガブランドで採用拡大/帝人コードレ〉
帝人フロンティアグループの帝人コードレが製造販売する「コードレ」は、銀付きタイプでスポーツ用途を主力とする。環境配慮の取り組みも強化し、シェア拡大を目指す。
コードレはスポーツ用途を得意とし、サッカーシューズではメガスポーツブランドのトップモデルに多く採用されている。サッカーシューズは従来、カンガルー革が使われていたが近年は動物愛護の観点や、軽量性とフィッティング感の良さなど人工皮革の機能が評価される。バレーボールやバスケットボールのボールにもコードレは実績豊富だ。最近では自動車内装材でも採用が進んだ。
環境配慮も重視。基材に再生ポリエステル不織布を採用するほか、燃料も重油から天然ガスへの転換を計画するなど製造工程での環境負荷低減に取り組む。再生可能エネルギーの導入も検討する。
島根工場(島根県大田市)とベトナム協力工場の2拠点で生産することも強みに、さらなるグローバル販売を目指す。
〈産学連携にも力入れる/東レ〉
東レの「ウルトラスエード」は自動車内装材が好調だが、インテリア、コンシューマーエレクトロニクス、アパレル、工業資材といった幅広い用途でも堅調に販売を拡大している。
近年は芸術・ファッション系の教育機関にウルトラスエードを提供し、制作研究を支援する産学連携にも力を入れる。こうした取り組みを通じてウルトラスエードの新たな価値を創出し、認知度を高めることが狙いだ。同様に地域社会のイベントなどにも素材提供を始めた。既に若い世代の間では人工皮革を天然皮革の単なる代替品と見なす認識は弱まるなど成果が上がる。
リサイクル原料やバイオマス原料の採用など環境配慮の取り組みも進む。ウルトラスエードは既に生産の80%が何らかのリサイクル原料を使用したものになった。2030年までに原料を全て環境配慮型に切り替えることが目標。さらに使用するウレタンの水系化などの開発も進める。