産資・不織布通信Vol.4/生活資材 多岐にわたり展開
2023年07月21日 (金曜日)
繊維は衣料品だけでなく、幅広い分野に使用されており、一般的な生活の中でも広がっている。いわゆる家庭雑貨と呼ばれるもので、特に不織布にとって家庭雑貨などの生活資材は2022年で見れば最大用途になる。ただ、さまざまな商品に使われているため、生活資材といっても各用途で動向が異なり、一概に捉えにくい。不織布らしい用途と言える。
〈構成比率は最大/掃除用から化粧雑貨まで〉
経済産業省の生産動態統計によると、22年の不織布全生産量の中で、生活資材は27・5%(2022年)を占める。これは医療・衛生用(24・3%)、産業用(23・3%)、車両用(13・3%)を上回る。
家庭雑貨などの生活資材は商品数の多いことが、構成比率の高い一因でもある。
不織布であれば衣料品を収納するカバー、各種包装材、掃除用品、メガネ拭き、食品用、台所用品、テーブルクロス、事務用品、手芸用品、化粧雑貨などがある。
収納袋やスーツカバー、防虫カバーなどはかつてポリエステルやナイロン製の国産スパンボンド不織布(SB)が使われていたが、昨今は輸入品が多いとみられる。各種包装材では風呂敷もその一つ。高価なものは織物だが、不織布製も少なくない。
掃除用品は花王の「クイックルワイパー」の登場によって、新市場を作った。1994年に発売されたクイックルワイパーはそれまで掃除機、雑巾、モップなどを使用していたフローリングの掃除を一変させた。
爆発的に売れたことで、当時、そのシートに採用されたスパンレース不織布(SL)を製造する企業、原料を供給する合繊メーカーは大いに潤った。
その後、同様の製品が発売され、不織布の新市場として大きなウエートを占めるまでになった。現在は輸入品も含めて市場に溢れ、競争は激しい。
〈化粧雑貨は輸出伸長生まれやすい新用途〉
掃除用では家庭用タワシもその一つ。スポンジに貼り付いている不織布は、研磨砥粒をナイロン製不織布などに複合化したもので、一般的には「ナイロンタワシ」とも呼ばれる。この不織布は金井重要工業(大阪市北区)などが手掛けるケミカルボンド不織布であり、技術応用したのが各種産業用に使われる研磨材になる。新型コロナウイルス禍では家食が増えて需要が急増したが、今は落ち着いている。
近年、生活雑貨の大型市場として急成長したものに化粧雑貨がある。ただ、変動は大きかった。特にフェースマスクは中国を中心とする海外需要を背景に拡大してきた。
SLが主に使われ、特に伸ばしたのが旭化成のキュプラ長繊維不織布「ベンリーゼ」だった。そのベンリーゼも現在は中国需要の減退から苦戦中。このため「フェースマスク用について東南アジア市場の開拓」により、その落ち込みを補う戦略で臨んでいる。
生活資材は多岐にわたり、新用途も生まれる可能性は他分野に比べて高い。掃除用や化粧雑貨はその一つだが、こうした大型用途を開拓できるかどうか。不織布の成長を左右するかもしれない。
〈不織布の達人/日本グラスファイバー工業/5カ国に製造拠点〉
ガラス繊維の中でも短繊維、いわゆるグラスウールは断熱性、保温性、吸音性、不燃性などの特徴を生かし、自動車から一般産業用、住宅まで幅広い用途に使われる。
「ニチグラ」とも呼ばれる日本グラスファイバー工業(愛知県江南市)は、こうしたガラス繊維などの無機繊維のほか、炭素繊維やアラミド繊維などの高性能繊維、金属繊維による加工品を製造販売する。グローバルにも展開しており、国内7工場に加え、中国、タイ、インドネシア、ベトナム、インドと海外5カ国に製造拠点を持つ。
昨年創業60周年を迎えた同社は衣料用繊維企業からすると、かなり特殊だが、元々は1952年に人造毛皮製造として創業しており、その後事業転換した。織物と不織布の各種生産設備を持ち、ニードルパンチ不織布設備は国内に6系列、海外はタイ、中国、インドにも置く。
2023年7月期は前期比約15%増収と過去最高の売上高となる見通しだ。期初は微増収(それでも過去最高)計画で、慎重に組んでいたが、受注が堅調で上振れした。利益はコスト上昇による影響を受けたが、値上げなどに取り組み、前年を上回る予定と言う。
ただ、懸念材料もある。自動車関連の大型ビジネスの一つが25年になくなることが決まっているからだ。朝居隆社長は「それを踏まえた対応が来期以降の課題」と語る。
具体的には「これまで手薄になっていた分野を開拓する。そのために組織体制も見直す」と言う。
特に売り上げ規模が大きくない一般産業資材分野(各種プラント用断熱材や火花よけシートなど)を強化する考えだ。放熱を伴う各種機器の断熱、保温、遮熱に使うカバージャケット「ニチグラ・ジャケット」もその一つ。配管やバルブからの放熱を防ぎ、省エネに寄与できる。
もちろん、これらでなくなる大型ビジネス全てを補うのは難しいが「一般産業資材の強化は開発力の向上にも結び付く」と朝居社長は強調する。
毛織・編み物産地として認知される尾州産地だが、繊維関連企業はファッション衣料ばかりを手掛けているわけではない。その面で「ニチグラ」は特殊ではあるが代表格の1社と言える。
〈トピックス〉
《中国Nボンドと戦略連携/レンチング》
オーストリア・レンチンググループはこのほど、不織布のブランド「ヴェオセル」で中国の大手不織布メーカー、杭州諾邦無紡(Nボンド)と戦略的パートナーシップを締結したと発表した。衛生材料分野で「ヴェオセルブランドのリヨセル繊維のイノベーションを促進することが狙い」。Nボンドの工場でヴェオセルのリヨセル繊維を使った新不織布の開発に取り組む。
Nボンドは、ヴェオセルブランドのリヨセル繊維のショートカットファイバーを、水に流せる、女性用衛生材料用不織布として世界で初めて採用した企業という。
レンチングの担当者は「Nボンドとは10年以上、緊密に協力してきた。新たな戦略的パートナーシップは業界のサステイナブルな発展を切り開く両者にとってマイルストーンになる」と語っている。
《不織布生かし細胞材料/帝人フロンティア》
帝人フロンティアはこのほど、不織布マイクロキャリア「イセルバ」を開発した。マイクロキャリアは表面に細胞を接着させ、3次元的に培養する材料。同社の繊維加工、不織布設計技術と福井大学工学系部門工学領域・繊維先端工学講座の藤田聡教授の繊維材料におけるバイオ・医療分野に関する知見を合わせた。
イセルバはスピーディーかつ、大量に高品質な細胞培養ができる。細胞が接着しやすく、成長するために必要な培地や酸素が循環しやすい構造となっており、効率的に培養可能な足場材料となる。生体内で細胞が増殖する空間に物理的に似た構造のため、繊維に沿って細胞が伸長し、立体的で高品質な3D培養が可能という。
7月からサンプル出荷を始め、2024年から本格的に販売する。26年度に1億円の売り上げを目指す。
《生産、回復傾向に/漁網・陸上網・合繊綱》
繊維資材の中で伝統的分野と呼ばれる市場がある。それが漁網・陸上網・合成繊維綱だ。昨今は繊維資材の中での存在感も薄れつつあるが、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレンの各長繊維や高性能繊維にとっては重要市場の一つでもある。
その生産量が回復傾向にある。経済産業省の生産動態統計によると、2023年1~3月の生産量は漁網が前年同期比10・1%増の1264トン、陸上網が5・0%増の548トン、合成繊維綱が2・7%増の2800トン。
漁網・陸上網・合成繊維綱は減産傾向が続いており、22年は19年に比べ漁網は20・9%減、陸上網は1・7%減、合成繊維綱は15・6%減と落ち込んでいた。漁網、陸上網は今年に入って3カ月連続の増産となっており、合成繊維綱も2カ月連続で前年実績を上回っている。