技術の眼/YKK/ストラタシス/帝人フロンティア/クラレトレーディング/三笠/ニッシントーア・岩尾

2023年07月13日 (木曜日)

 「技術の眼~NEW WAVE GENERATING TECHNOLOGY~」では将来的にニューウェーブを巻き起こし得る重要な技術にスポットを当て、紹介する。

〈YKK/植物由来のポリエステル使用〉

 YKKは、2050年までに「気候中立」の実現を目指す「YKKサステナビリティビジョン2050」で、30年までにファスニング製品の繊維材料をリサイクル材や自然由来材料など持続可能素材に100%切り替える目標を掲げる。この方針に基づき、販売促進に注力するのが植物由来ファスナー「グリーンライズ」だ。

 グリーンライズは、国内の黒部工場(富山県黒部市)で開発した。従来は全て化石燃料由来だった主材料のポリエステルについて、一部を植物由来に置き換えた。これにより、化石燃料の使用量と製品サイクル上の二酸化炭素(CO2)排出量を削減した。

 使用する植物由来ポリエステルは、砂糖の生産過程で発生する副産物の廃糖蜜であり、資源の有効利用にもつなげている。

〈ストラタシス/衣服に直接3Dプリント〉

 3Dプリンターメーカーのストラタシス(米国)は、テキスタイルやガーメントに直接3Dプリントする技術を開発した。イタリア・ミラノで先月開かれた繊維機械の国際展示会「ITMA2023」で初披露した。材料になる特殊なレジンと3Dプリンター「J850テックスタイル」を組み合わせた技術で、「3Dファッション」として訴求していく。

 3Dプリンターで作った部材を衣服に付けるのではなく、生地に直接3Dプリントする。衣服を機械にセットすれば、さまざまな立体デザインを3Dプリントする。材料はフレックスレジン「ヴェロエコ」を使う。柄の高さや形、デザインなどは自由に設定でき、フルカラー、半透明、剛性、柔軟性などさまざまなタイプのプリントが可能。

 シャツやドレス、ジーンズなどの衣類に加え、スニーカーやバッグなどにもプリントできる。ナイロンなど現時点では難しい素材もあるが、綿やポリエステル、綿混などに対応する。

〈帝人フロンティア/新質感のスパン調素材〉

 帝人フロンティアはポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維「ソロテックス」を活用した新質感スパン調編み地「ソロテックスリベルテ」を開発した。異なるタイプのソロテックスを複合加工糸にし、編み立て、染色仕上げ加工の工夫と組み合わせることでドレープ性のあるスパン調質感とソフトなストレッチ性、吸汗速乾性、高耐久性などの機能を両立する。

 原糸は、芯糸にサイドバイサイド型複合タイプ、鞘糸に低配向・低捲縮(けんしゅく)の単成分タイプのソロテックスを配したランダム芯鞘構造異収縮混繊加工糸を使用。これを高密度に編み上げ、最適な異収縮特性を発現させる染色仕上げ技術と組み合わせている。こうすることで、独特のスパン調質感と適度なドレープ感・高シルエット性、ソフトなストレッチ性、吸汗速乾性、耐久性など優れた質感と機能を両立した。ソロテックスは原料の約40%が植物由来のため、環境配慮素材として訴求できる。

〈クラレトレーディング/SPS繊維「エプシロン」開発〉

 クラレトレーディングは、出光興産が開発したシンジオタクチックポリスチレン(SPS)樹脂「ザレック」を用いて、優れた速乾性とドライ感を持つ繊維「エプシロン」を新たに開発した。エプシロンは、高い疎水性や耐熱性などのユニークな特徴を併せ持ち、ポリプロピレン繊維では難しかったアイロンを用いたケア(シワ取り)やプリントによるデザイン性の向上を実現した。

 従来、速乾性のある繊維としてはポリエステルが主流で、より高い機能が求められる用途では撥水(はっすい)加工を施すことが一般的だった。しかし、撥水加工には洗濯による機能低下や、加工剤による環境への悪影響といった課題があった。クラレトレーディングは、SPSと、クラレグループが持つ溶融紡糸製造技術を組み合わせてユニークな特徴を持つSPS繊維を開発。撥水加工を施すことなく、衣料やスポーツ用品などに求められる優れた速乾性やドライ感による着用時の快適性向上に貢献できる。

〈三笠/手指強化手袋を展開〉

 靴下製造卸の三笠(横浜市)は、手指強化手袋の展開を始める。指に力が入りづらくなった高齢者らに向けた商品で、指が反り返った形状が特徴だ。奈良県立医科大学と共同開発し、特許も共同で取得している。「にぎりくん」の名称で、先月末から自社電子商取引(EC)サイトで販売している。

 元々は「パーキンソン病の患者が通院しなくても自分でリハビリできる手袋」というコンセプトで開発を進めてきた。「ホールガーメント」横編み機で製造する。指が反り返るように設計しているため着用することで指のトレーニングになる。同大学が実施したモニタリングでは、1週間着用した後にピンチ力(指でつまむ力)を測定すると、着用前と比べて25.1%アップしたと言う。

 日常的に使えるよう、機能面だけでなく、着け心地にもこだわり、素材に高吸放湿ナイロンなどを用いた。紳士(ML)と婦人(SM)の2サイズで、ブラックとベージュを用意する。

〈ニッシントーア・岩尾/魔法瓶応用した「多層構造防寒ウェアー」〉

 日清紡グループのニッシントーア・岩尾(東京都中央区)は、珍しい生地構造で高い保温性を実現する防寒着「多層構造防寒ウェアー」を開発した。冬場のジャケットなどに加え、アウトドア・キャンプ用品でも提案する。

 魔法瓶の保温の仕組みを生地開発に応用した。外気に触れる生地のすぐ内側に熱伝導率の低いポリプロピレンの中わたを配置し、次に内側から熱の発散を防ぐアルミコーティングシートを入れ、肌側に来る生地の中に熱を保つポリエステル中わたを詰めた。アルミシートをポリプロピレンとポリエステル、2種類の中わたで挟む構造だ。

 この生地と一般的な中わた生地とで保温性能を比較すると、前者の方が最大2℃温かくなることを確認した。生地の構造で実用新案を取得済み。従来の中わた入りの生地より薄く、ファッション性や持ち運びやすさにも優れている。