ITMA2023レビュー(1)/新技術が生産現場を変える/サステが大きなテーマ

2023年07月12日 (水曜日)

 6月8~14日にミラノで開かれた繊維機械の国際展示会「ITMA2023」は、盛況のうちに閉幕した。4年ごとに欧州で開かれており、多くの機械メーカーはここをターゲットに新しい技術の開発を進める。繊維機械の新しい技術を見に世界中から人が集まり、会期中は143カ国・地域から11万1千人が来場した。

 出展社数は1709社(47カ国・地域)で、紡績・合繊、織機、編み機、プリント、染色仕上げなど各分野で最新技術が打ち出された。前回バルセロナ展(19年)に引き続きサステイナビリティー対応やデジタル技術が大きなテーマとなり、人工知能(AI)やセンサーの活用も進んだ。

〈エヴォシリーズ発表/「iセーバー」を進化/イテマ〉

 イテマ(イタリア)は今回展で、レピア織機の新機種「R9500エヴォ」とエアジェット織機(AJL)の新機種「A9500エヴォ」を発表した。現行のセカンドジェネレーションシリーズに続く新シリーズ。デジタル対応が特徴の一つで、Wi―Fiに対応したデータ管理や新型フロントパネルなどで利便性が向上した。R9500エヴォでは、回転数をさらに上げるとともに耐久性向上や、振動を抑えた安定稼働などを実現した。

 会場では、ISKOやマンテロ・セタ、ドラゴ・ラニフィチオ・イン・ビエラなど有力テキスタイルメーカーと協業して実演を行い、好評を得た。

 レピア織機に装着することで左側の捨てミミをなくすことができる「iセーバー」も注目を集めた。

 これまでは緯入れ4色のガイドフック付レピア方式に対応していたが、新たに緯入れ6色に対応し、ガイドレス式にも装備できる形になった。無駄な糸をなくすことができ、サステイナビリティーの面からも好評を得た。

 クラウドによるデータ管理システムなど、デジタルツールも充実させた。

〈「アルティマックス」披露/生産性や安定性高める/ピカノールとエディー〉

 ピカノールはレピア織機の新機種「アルティマックス」を今回展で発表した。現行の旗艦機種「オプティマックスiコネクト」の汎用性やデジタル技術の活用といった特徴を生かしながら、生産性や耐久性などを向上させた。来年1月から受注を開始する予定で、日本では総代理店のエディーが展開していく。

 デジタル技術に重点を置いてきたこれまでの開発の方向を継続しながら、生産性向上などを実現した。生産性は従来機よりも大きく高まり、800回転超の安定生産を視野に入れる。従来より織機の高さを低くするなど外観も一新され、作業がしやすい設計となった。サイドフレームの剛性を高めて稼働時の振動を軽減し、安定稼働につなげる。消費電力も低減されたほか、レピアヘッドには新素材としてチタニウムを採用し、耐久性を向上させた。95%の部品をオプティマックスと共有できる。

 レピア織機で好評のガイドレス式「フリーフライト」の技術も進化し、超広幅(540センチ幅)への対応を可能とした。

〈マットレス用選針機構一新/電子柄でファインゲージ化/福原産業貿易〉

 福原産業貿易は丸編み機の高付加価値機の提案に力を入れた。ベッドマットレス用「M―LEC7KSH」では選針機構を一新し、電子ジャカードのファインゲージ機ではダブルニットで36ゲージ(G)機を提案した。

 トルコや中国などで好評を得るベッドマットレス用の選針機構を新しくした。新機構でコンパクトになったことにより、省エネや生産性向上とともに高さを低くして作業性を向上させた。

 電子ジャカードのファインゲージ機はシングルニットで40G、ダブルニットで36Gを紹介した。40G機は従来の選針2ポジションから3ポジションとし、編める柄のバリエーションが広がった。

 会期中は欧州、インド、パキスタン、中南米など各地域から来場があり、ブースは多くの訪問者でにぎわった。ITMA前は好調だったトルコなどの市場が落ち着いたが、新しい動きも出てきたという。

 特にファインゲージで織物のような外観を実現する「ウーブンルック」の丸編み機が衣料用途などで広がりを見せている。ファインゲージ化は今後の開発で重点を置くテーマの一つであり、同社の特徴を出せる手法で開発に取り組んでいく。

〈電子ジャカード 新型に移行/デジタルサービス拡充/ストーブリ〉

 ストーブリはドビー機の次世代機「3280型」のデモ機を展示した。織機の高速化に合わせて従来比10%の性能向上を図った。これで積極カムに続き、ドビーも千回転超の製織に対応する形とした。

 電子ジャカードは全口数で「プロ」シリーズが出そろった。電装関連が一新され、省スペースや省エネにつながる。これに先立って搭載を進めてきた新システム「NOEMI」と合わせ、トータルで約10%の省エネを実現する。

 ブースでは、デジタル技術を活用した顧客サービス「カスタマーポータルサイト」を紹介した。ネットでログインすると、保有する設備に関するサービスを受けることができる。設備の購入時期やサービスを受けた経歴などが表示され、シリアル番号から最適のパーツが検索でき、メンテナンスマニュアルを見ることもできる。有料会員には部品交換の方法を動画で紹介するなどの追加サービスもある。今後は電子ジャカードや製織準備機のソフトウエアのアップデート機能なども追加する方向。将来的には日本語対応も検討していく。

〈デジタル化進める/アンリミテックスPR/ロナティ〉

 ユニオン工業が日本での総代理店を務めるロナティ(イタリア)はデジタル技術の提案に力を入れ、靴下生産に関するデジタルプロジェクト「アンリミテックス」を発表した。「若い人たちを生産現場に呼び込むためにもデジタル化が欠かせない」としており、今後もデジタル技術を活用した開発に力を入れる。

 アンリミテックスは、3Dデザインソフトウエア「StoS」、編み機のプログラミングシステム「オリオン」などから成る。StoSでゲージや糸使いなどリアルな3Dバーチャルサンプリングが作成でき、サンプル作成の無駄を削減する。作成したサンプルはオリオンと連動させることで編み機の編成プログラムに変換でき、企画、販売と工場の距離を縮める。人工知能(AI)技術を活用して生産性の向上を図るマネジメントシステム「アルカディア」も用意する。

 これらのソフトに対応する機種として、シングルシリンダー靴下編み機「GE」シリーズやパンストやメディカル用の「LBE」シリーズが展開されている。24年にはダブルシリンダー、シューアッパー用の「DE」シリーズも加わる予定。

〈12年ぶりモデルチェンジ/止まらないワインダーも/村田機械〉

 村田機械は今回展で自動ワインダーの新機種「PROCESS CONER AIcone」(アイコン)を披露した。12年ぶりのフルモデルチェンジで、高い生産性やパッケージ品質を前提に、作業者の負担軽減や効率化などにもつなげる形で開発した。作業のしやすさと高生産性を実現する新型ボビントレー、アラーム処理の自働化、ヒューマンインターフェースの向上など生産性や品質以外を含めて各面の性能を高めている。機械に使う素材に樹脂を使うなど温室効果ガス削減につながる設計も取り入れた。

 今回展では全く新しい技術を取り入れた自動ワインダーとして「FLcone」(ファルコン)も発表された。不良糸を検知した場合も、パッケージ巻き取り部は回り続けながら不良部を自動処理し、巻き取りを再開する。端糸の飛び込みなど不良パッケージにつながる要因を防ぎ、さらなる高品質化につながる。自動ワインダーでトップシェアを持つ同社が、さらに一歩先を行くために開発した技術。改良を重ねながら次世代の技術として市場に広げていく。

 世界各国で販売を伸ばす渦流精紡機「ボルテックス870EX」も来場者から注目を集めた。ブースでは再生ポリエステル短繊維と精製セルロース繊維「テンセル」の紡績を実演した。