特集 環境(4)/新価値の創造へ/旭化成/帝人フロンティア/YKK

2023年06月27日 (火曜日)

〈GHG排出量を大幅削減/環境配慮型「ロイカ」に/旭化成〉

 旭化成は、「健康で快適な生活」「環境との共生」を目指す「サステナビリティ・ビジョン」を掲げる。これに基づき、各事業単位でも具体的な取り組みが進む。その一つがライフイノベーション事業本部でスパンデックス「ロイカ」の製造販売を担うロイカ事業部。事業部としても温室効果ガス(GHG)削減や環境配慮型商品への転換を加速させている。

 ロイカ事業部は事業部独自にサステイナビリティーに向けた目標を設定している。例えばGHG排出量に関して旭化成は2030年に13年対比で30%以上削減する目標を掲げるが、ロイカ事業部はこれを上回る50%以上の削減を目指す。

 そのためにグリーンエネルギーの活用などエネルギー転換や生産工程の効率化などに取り組む。GHG排出量削減を中心に気候変動問題全体への対策にも力を入れており、ロイカ工場(滋賀県守山市)ではライフサイクルアセスメント(LCA)を導入した。国内工場で先行させたが、海外工場にも順次導入する計画だ。

 また、GHG排出量の算定・報告基準であるGHGプロトコルに基づき、自社による直接排出(スコープ1)や他社からの供給される電気などの使用による間接排出(スコープ2)だけでなく、原材料調達による排出(スコープ3)の削減を推進する。そのほか、工場での廃棄物実質ゼロ化(ゼロエミッション)など環境対策も一段と強化する。

 ロイカのサステイナブル化も加速する。工場内で発生する残糸や端材を原料にリサイクルする「ロイカEF」、コンポスト中での生分解を確認している「ロイカV550」、低温での熱セットが可能なため加工工程での省エネルギーとGHG排出削減に貢献する「ロイカBX」など独自性のある環境配慮型商品を積極的に打ち出す。

 事業部の取り組みをまとめた「ロイカ・サステイナビリティー・レポート」も発行した。

〈繊維to繊維の資源循環強み/国内eラーニングは全員参加/帝人フロンティア〉

 環境戦略「シンクエコ」を掲げ、グループ一丸で環境配慮型の素材や製品を展開している帝人フロンティアは、繊維to繊維リサイクルによる資源循環を自社の強みと捉えている。ポリエステル繊維の新たなリサイクル技術を確立しているが、「対応が不可欠」とする複合品への取り組みも積極的に進めている。

 シンクエコは、「素材からエコにこだわろう」(脱化石原料による省資源社会実現)などが重点目標。2030年をターゲットに「リサイクル原料使用比率を50%以上、植物由来を10%以上に高める」「きれいな環境を守る商品100%」「ものづくりが省エネな商品100%」を目指している。

 リサイクルでは、ポリエステルの繊維to繊維で存在感を示す。ケミカルリサイクルでは、主に無色透明のペットボトルからペットボトルに再生する際に用いられるBHET法で、着色された繊維でも石油由来と同等の品質の原料に再生できる技術を開発した。

 工程が少ないため、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールを使用したエステル交換反応によってポリエステルを重合するDMT法と比べて、CO2の排出量が40%程度減らせるという。パイロットプラントを松山事業所に設置して実証実験を進めている。

 複合品への対応では、ポリエステル衣料品からポリウレタン弾性繊維を取り除く異素材除去技術を開発した。脱色工程を兼ねることが可能。この異素材除去技術を用いて生成された原料は既存のケミカルリサイクル工程に投入できる。

 同社社員の環境への意識も高めており、2~3カ月に1回、eラーニングやセミナーを実施。人権問題なども取り入れているeラーニングは、日本では正社員だけでなく全員が参加している。

〈エコなファスナー染色/廃植物油由来の薬剤採用/YKK〉

 YKKは、2050年までに「気候中立」を達成するための持続可能性目標である「YKKサステナビリティビジョン2050」を掲げる。その中で「気候」「資源」「水」「化学物質」「人権」の五つのテーマで目標設定し、それぞれに関連する10項目のSDGs(持続可能な開発目標)の達成を目指す。

 ファスニング事業もこの方針に基づき、グループを挙げて持続可能な社会の実現に向けた施策を推進する。

 YKKグループのYKKベトナムは、米アウトドア用品のパタゴニアとイタリア薬品メーカーのERCAとの協働で、ERCAが開発した植物性食用油などの廃棄物を再利用した染色助剤「REVECOL」(レヴェコール)を、ファスナーの染色工程に活用していく方針を打ち出した。既にハノイ近郊のハナム工場ではレヴェコールへの切り替えが完了し、ドンナイ省のニョンチャック工場でも今秋をめどに切り替えを終わらせる見通しだ。

 ファスナーテープ・チェーンの染色工程には、効率性や効果を高めるための染色助剤が使用される。ERCAは19年、環境配慮型の染色助剤としてレヴェコールを開発した。YKKベトナムは、顧客であるパタゴニアを通じてERCAとの関係を築き、レヴェコールの採用を決めた。

 商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでの温室効果ガスの排出量を二酸化炭素(CO2)に換算する「カーボンフットプリント」では、レヴェコールへの切り替えにより72%の削減効果が得られるとする。染色助剤の年間使用量も20~30%削減できると見込む。

 6月にイタリア・ミラノで開かれた繊維機械の国際展示会「ITMA2023」に3社で参加し、共同イベントでこの取り組みをアピールした。