春季総合特集Ⅳ(11)/Topインタビュー/豊島/社長 豊島 半七 氏/顧客が納得する価値を提供/企画、提案、モノ作りを軸に

2023年04月27日 (木曜日)

 豊島は引き続き、輸出の強化やデジタル技術で企業を変革するDXによるビジネス機会の創出、サステイナブルな取り組みなどを推し進める。日本では少子高齢化による人口減少が進んでおり、国内の限られた市場だけでは、企業としての成長が見込みにくいという背景があるためだ。目標として掲げるライフスタイル提案商社へ変貌を遂げることで、バランスの良い収益構造の構築を目指す。豊島半七社長は「いずれの取り組みも以前から力を入れて進めてきたこと。この1、2年の間でその成果や結果が問われることになるだろう」と強調する。

  ――インフレを好機とするには何が必要と考えますか。

 いかに顧客やその先の消費者に納得して頂ける価値を提供できるかが重要と考えています。当社はBtoBの企業ですから、そのためにも企画や提案、発信、モノ作りを丁寧に実施し、それぞれの力を高めていくことが必要でしょう。企業として成長するには利益を上げなければいけませんから、規模を追求するだけでなく、高付加価値の商売の比率を上げていくことも求められるでしょう。

  ――改めて今後の国内経済の動向をどのようにみていますか。

 新型コロナウイルス禍が落ち着き、昨年夏ごろから回復傾向にはありますが、コロナ禍を経て経済の格差は広がり、人口減少も続いています。かつて、ファッション衣料の消費をけん引した団塊の世代は後期高齢者となりお金を使わなくなりました。バブル崩壊後を生きてきたその下の世代も質素倹約で過ごしていますから、今後爆発的に消費が増えることは期待できません。ウイズコロナの中でも、経済の回復は緩やかでしょう。長期的に見ても国内市場は、成長しづらい環境にあることは間違いありません。

  ――今期(2023年6月期)の業績見通しを教えてください。

 増収増益となる見込みで、久しぶりに良い数字となりそうです。特に製品部門が堅調でした。コロナが落ち着き人の流れが戻ってきたことに加えて、物流費や原材料費の高騰、円安の影響などの課題に対して、生産地を変えたり、顧客との交渉を進めたりするなどさまざまな対策を打ってきたことが奏功しました。

  ――輸出の状況はいかがですか。

 素材、製品の両方で進めていますが、まだまだ途上の段階です。今後も昨年のように急速に円安が進むことが考えられるため、海外現地法人を活用するなど今まで以上に本気で取り組んでいくことが必要です。

 課題は受注が安定しにくいことです。顧客によって波があるため、減ったら別でカバーするなどの繰り返しで不安定です。これからは、しっかりと軸となる顧客と商材を作らなければなりません。展示会では機能商材なども訴求していますが、きちんとした経済単位の数量が出るようにすることも課題です。

  ――サステイナビリティーの取り組みで、最近では「テックリサイク」プロジェクトを立ち上げましたが特徴と狙いを教えてください。

 合成繊維の再生素材普及を目指すことが目的で、海外の工場と連携し、ポリエステル、ナイロン、アクリルの3素材のリサイクルを推進します。そこに顧客も入ってもらって、循環型社会の実現を目指していくという取り組みです。

 当社は原料、糸、生地、製品まで全ての工程に携わっている企業です。単にリサイクル品を仕入れてくるのではなく、全て当社の責任において、業者と一緒に取り組んでリサイクルしており、それが他社との差別化にもつながっています。

  ――テックリサイクでは繊維to繊維の水平リサイクルも進めますが課題はありますか。

 どうしてもコストが膨らんでしまうのが課題ですが、テックリサイク品100%が無理なら、混率を下げるなど販売の仕方はいろいろあると思います。あらゆるものが高い、あるいはあらゆるもが安いではいけません。バランス良く、当社にあったやり方で訴求することが重要です。テックリサイクの趣旨や目的に納得してもらうための価値を伝えることも重要でしょう。

  ――サステイナビリティーを意識した取り組みは以前から進めています。

 「テンセル」に始まり、オーガニック綿普及を目指す「オーガビッツ」やトルコ産トレーサブルオーガニック綿「トゥルーコットン」、廃棄予定の食材を染料に活用する「フードテキスタイル」などさまざまなプロジェクトや取り組みを進め、テックリサイクなど今の流れがあります。他社と比べても昔から真面目に取り組んできたことは自信を持って言えます。会社の意思として、当社ができる範囲でやらなければならないという認識の下、取り組んできました。全ての工程に携わるという観点からも、トレーサビリティーについても極めて大事だと考えていますので、サステイナビリティーとトレーサビリティーの両輪で進めています。

――今後、国内にサステイナビリティーは根付いていくでしょうか。

 展示会でサステイナブル商材を出展しても、価格面がネックになることがあり、それらが決まる比率は決して高くはありません。しかし顧客に高くても必要だと思ってもらえる、消費者にその価値をきちんと訴求できるようにするのも当社の役割でしょう。日本として50年までにCO2排出ゼロに向かっていく中で、当社はこれからもぶれずに取り組んでいきます。

  ――今後の方針を教えてください。

 顧客との商売は続いており、シーズン性もある中で、期が新しくなるからと言って方針を転換することはありません。これからもバランス良い収益構造を目指し、DXによるビジネスチャンスの創出や輸出の強化など変わらず進めます。これらはいずれも以前から取り組んできたことですので、この1~2年でその結果が問われることになるでしょう。

〈インフレを実感するとき/ランチ値上げも「仕方ない」〉

 「毎日食べに行くランチが値上がりしている」と話す豊島さん。コロナで自社の食堂が閉鎖となり近隣の地下街へ出向く。50~100円値段が上がったが、「値上げは仕方ない」と語る。食品加工や食品卸などの企業は、メーカーとは異なり輸出もしにくい環境にある。これまでのデフレが染みついており値上げがしにくいのではと推測。「高度成長期とは異なり、現代の日本で薄利多売で成長できるわけがない」とし、「そうした食品企業の価格転嫁がさらに進めば」と願う。

【略歴】

 とよしま・はんしち 1985年豊島入社、90年取締役。常務、専務を経て、2002年から現職