春季総合特集Ⅳ(8)/Topインタビュー/クラレトレーディング/社長 山田 武司 氏/サプライチェーンを強みに/クラレの素材を高付加価値化
2023年04月27日 (木曜日)
クラレトレーディングの山田武司社長は「糸から製品まで一貫でモノ作りができるシステムを持っていることは強み」と強調する。クラレの独自性のある素材をサプライチェーンを通じてさらに高付加価値化することで「値上げが可能な商品を作ることがインフレ時代には不可欠」と話す。そのための設備投資も積極的に実施する。
――インフレを好機とするには何が必要となりますか。
一般的にインフレは好景気によって発生するとされますが、現在の状況は一概にはそうとも言えません。本来であれば需要が増加することでインフレになるのに対して、現在の状況は供給不安を背景に原燃料価格が高騰したことによるコストプッシュインフレだからです。この状況は企業、特にメーカーにとって非常に厳しい環境です。インフレをビジネスチャンスと捉えるよりも、まずは生き残り策を考える必要があります。やはりコストアップを販売価格に転嫁できない企業は市場から脱落していきますから、値上げが可能な商品を作ることが不可欠になります。
当社は商社であると同時に製造機能もあり、糸から製品まで一貫生産できるシステムがあります。サプライチェーンを持つことでさまざまな工程で付加価値化ができるわけですから、それを強みにしなければなりません。当社は岡山県に自社工場として岡山工場(倉敷市)と岡山富吉工場(岡山市)がありますが、樹脂・化学品や不織布、産業資材などだけでなく衣料用繊維分野でも積極的に設備投資を進めています。品質保証のシステム・体制をしっかりと確立することも重要です。
――2022年度(12月期)を振り返ると。
22年度から「収益認識に関する会計基準」を適用したため、それまでと単純比較はできませんが、過去最高の業績となりました。年度後半に入ると中国・上海のロックダウン(都市封鎖)の影響があり勢いが鈍化しましたが、好調だった前半の貯金で逃げ切ったといったところでしょうか。ただ、繊維事業は海外生産・調達も多いため、急激な円安が逆風になっています。価格転嫁を進めたことで、なんとか格好がつく業績で着地できたというところでしょう。
――23年度の課題と重点施策は。
引き続きコストアップをいかに価格転嫁するかが課題です。原料価格が高止まりし、エネルギー価格の高騰が続いています。国内外ともに人件費も上昇しています。日本でも人手不足が顕在化し、人材の確保・育成が一段と重要になりました。このため新卒採用だけでなくキャリア採用なども積極的に実施します。
その上で、品質・コンプライアンスを重視しながら、特に国内でのサプライチェーン強化に取り組みます。これは樹脂・化学品と繊維いずれでもです。当社はクラレグループのメーカー系商社として、クラレの独自性のある素材を活用し、サプライチェーンの各工程でさらに付加価値を高めていくところに役割があります。メーカーとして持つシーズを、どのようにマーケットのニーズにつなげていくのか。メーカーはどうしてもプロダクトアウトの発想になりがちですから、当社がマーケットインによる用途開拓を担うことが重要になります。
クラレグループは現中期経営計画で「ネットワーキングから始めるイノベーション」を重要課題に掲げ、各事業、パートナー企業、取引先を有機的に連携させるためにイノベーションネットワーキングセンター(INC)を設置しています。これに当社も積極的に参画しており、実際に当社の有力取引先であるスポーツアパレルなどをINCに紹介し、グループとして新しい用途やアイテムの開発や提案につなげる取り組みを進めています。
――繊維事業の今期の見通しについてはいかがですか。
引き続きスポーツや資材分野が全体をリードしてくれると思います。人工皮革「クラリーノ」も期待しています。近年はEV(電気自動車)の内装材など新たな需要が高まっているからです。リサイクルの仕組み作りにも取り組みたい。特に最終製品から循環させるような仕組みを作ることが当社の役割になってくるでしょう。
〈インフレを実感するとき/パンが小さくなった〉
「じつは菓子パンが好きで、よく買いに行くのですが、値段は同じでも以前より小さくなってきました」という山田さん。小麦価格高騰の影響だろう。「食料品店、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、百貨店など店頭を眺めていると、世の中の動きが良く見える」。インフレの波は庶民の買い物にも大きな影響を及ぼし始めたことを実感する。ちなみに“どんな菓子パンが好きなのですか”という問いには、「クリームパン」と即答。
【略歴】
やまだ・たけし 1984年クラレ入社、クラレトレーディング衣料カンパニーテキスタイル部長、同カンパニースポーツ部長、衣料・クラベラ事業部副事業部長、可樂麗貿易(上海)総経理などを経て、2015年クラレトレーディング取締役、18年常務、18年常務繊維事業統括兼衣料・クラベラ事業部長、20年から代表取締役社長