春季総合特集Ⅱ(19)/Top インタビュー/カケンテストセンター/理事長 寺坂 信昭 氏/独自性打ち出す/新中計は人と社会貢献重視
2023年04月25日 (火曜日)
カケンテストセンター(カケン)は、2023年度(24年3月期)を初年度とする3カ年の中期経営計画を始動した。寺坂信昭理事長は「今中計は人や社会貢献を重視する」とし、3年間の累計で1億5千万円の人材投資を行う。事業の拡大にも力を入れ、事業収入(売上高)を国内で年間1%、海外で同1.5%ずつ拡大する計画だ。
――インフレを好機とするには何が必要ですか。
デフレ下では、より良い品質の物を手頃な価格での提供が求められました。薄利ながら多売で収益を上げていたと言えます。薄利多売はなくならないでしょうが、コストアップが続けば限界があります。日本の企業は独自性の打ち出しなどで価格アップを図る必要があり、今のインフレがその機会と思っています。
ただし、コストダウンは不可欠です。原材料やエネルギー費が上昇したからその分を価格に転嫁するというだけでは顧客は納得しないでしょう。ニーズが増えているカーボンニュートラルやリサイクルへの対応も同じです。技術開発や自助努力でコストダウンを図らなければ競争には勝ち残れません。
――価格転嫁は難しいのでしょうか。
ブランド力やデザイン力といった商品の機能や品質とは違う“非価格面”、納期の短縮や適切な助言を行う力などの付加的サービスの二つで価格に差が出てくると思います。コストアップ分の加味はもちろんですが、非価格面と付加的サービスの提案によって価格の改定が可能になるのではないでしょうか。
――22年度は中計の最終年度でした。業績は。
予算は達成できる見込みですが、コストアップ要因もあって利益はマイナスで推移しています。価格の適正化は少しずつ進んでいますが、円安の影響を受けました。特に人民元に対する円安が痛手でした。試験件数も21年度は20年度と比べて回復しましたが、22年度は21年度並みにとどまりました。
中計では単体の黒字化を目標の一つに掲げましたが、21、22年度ともに黒字を達成し、事業収入も計画に到達しました。そのほか、東京事業所川口本所のバイオラボとインドベンガルール試験室の開設、機能性試験の充実、ウエアラブル試験の確立など、やるべきことはきちんとやれたと評価しています。
――23年度に入っています。経済や市場動向の予測は。
これまで地政学的リスクが叫ばれてきましたが、今は“地経学的”リスクの時代といわれます。米国経済は、程度は別として景気後退は避けられないと思います。中国はゼロコロナ政策の転換で経済は正常化の方向ですが、急回復はないでしょう。その中で両国関係の緊張度合いが増しているのは懸念材料です。
欧州は、ウクライナ情勢が長引き、インフレのダメージもこれから顕在化するかもしれず、経済環境は良くありません。相対的になりますが、日本は悪い要素が少なく、それほど落ち込むことはないと思います。23年度は上がったり、下がったりしながら進んでいくと予想しています。
――そのような環境下で新中計が始動しました。
人(職員)と社会貢献、顧客との関係強化の三つの角度から取り組みますが、中でも重視しているのが人です。年間に5千万円の人材投資を行い、国内職員と海外ナショナルスタッフの確保・育成などに力を入れます。女性の活躍にも目を向けており、22年度で11・8%だった女性管理職の比率を25年度までに15%に引き上げます。
社会貢献では、CO2(二酸化炭素)排出量を、21年度比で30年度に50%削減するという目標を掲げました。サステイナビリティーを推進するための部署を今月1日に立ち上げ、本部などに設置しました。SDGs(持続可能な開発目標)やカーボンニュートラルに対応する新試験技術の開発にも挑戦します。
事業収入は、国内で年間1%、海外で同1・5%拡大します。海外では、ベトナム試験室の独立(子会社化など)を検討中です。インドとバングラデシュの試験室も軌道に乗せたいと考えています。国内は黒字の維持・拡大が目標です。
〈インフレを実感するとき/家だけでなく、財団でも〉
寺坂さんは、奥さんから「衣料品の価格が上がった。食料品でステルス値上げがあった」と聞いて物の値上りを知ると話す。自身はあまり買い物をしないため実感に乏しいというが、電気代の請求書を見た時にインフレを実感した。これは家だけでなくカケンも同じで、「水道光熱費の上昇はすごい」と言う。家では小まめに電気を消すといった節電を心掛けているが、財団の仕事では限界があり、「合理化を進める」と強調した。
【略歴】
てらさか・のぶあき 1976年4月通商産業省(現経済産業省)に入省。2004年6月経産省大臣官房審議官、07年7月経産省商務流通審議官、09年7月原子力安全・保安院長、11年8月退官。15年6月冠婚葬祭総合研究所社長、17年8月互助会保証社長を経て、20年7月からカケンテストセンター理事長