春季総合特集Ⅱ(13)/Top インタビュー/ヤギ/社長 八木 隆夫 氏/サプライチェーン見直す/海外事業拡大に本腰

2023年04月25日 (火曜日)

 ヤギは2023年3月期で3カ年の中期経営計画を終えた。八木隆夫社長は「新型コロナウイルス禍によって、考えていたことが進められなかった」と悔しがる。そのため近く発表予定の新中計は基本的に前回の内容を踏襲する考えだ。欧米のそれとは比較にならないものの、世はインフレ。インフレ時代を乗り切る方途を八木社長に聞いた。

  ――インフレを好機とするには何が必要でしょうか。

 サプライチェーン全体の見直しを図って効率化を実現することが重要だと思います。その際は、デジタル技術で企業を変革するDXの果たす役割が大きくなるでしょう。当社で言えば、会員制EC(電子商取引)プラットフォーム「ファブリー」や、昨年実施した、3Dデータを駆使したサービスを展開する米国のスウォッチブックとの資本提携、シンガポールのグローバルEC運営会社、リングブルとの資本提携などの活用が肝になります。これらをうまく絡め合わせながら、サプライチェーン全体の見直しを図ることが、インフレを好機に変えることだと考えます。

 付加価値化も重要なテーマです。環境負荷低減や社会課題解決型の商材を開発していきます。糸や生地といった中間財は商社が値を決めることは難しいのですが、産地企業などと一体になって付加価値化を図っていくイメージですね。

 海外展開、いわゆる輸出や外・外ビジネスの拡大も大きな課題です。

 いずれにしても、サプライチェーンの見直し、あるいはそれを実現させるためのDX活用というのは、業界全体で取り組み、盛り上げていくものだと思います。自分たちだけが利益を享受するようなものであってはならない。当社が持つさまざまなツールを業界内に普及させ、全体の利益向上につなげていきます。

  ――23年3月期が終わりました。どんな1年でしたか。

 非常に先が読みづらい期だったと言えます。当社にはさまざまな部門、事業、商材がありますが、どこかが成長すれば、どこかが落ち込む。上半期は不振だった事業が、下半期に突然、絶好調になる。良くも悪くも安定感のない、先行きの予測が本当に難しい一年でした。為替変動や世界情勢の変化が立て続けに起こったのだからそうなりますよね。目先の好不調に一喜一憂してはいけないことを経営者として改めて学びました。

 詳細はまだ言えませんが、売り上げは全体として好調な推移でした。事業環境からすれば仕方がない面はあるとはいえ、海外事業は思うように伸ばせませんでした。ただ、香港法人で販売する再生綿糸「リサイカラー」は引き合いが良く、外・外ビジネスも増えてきました。8月に開かれる「インターテキスタイル上海」にも4年ぶりに香港法人として出展しますし、日本本社としてはパリの「プルミエール・ヴィジョン・ファブリック」に継続出展します。コロナ禍も世界的に収束してきましたので、海外事業の拡大はこれからが本番というところですね。

  ――社内でも、先を見据えたさまざまな取り組みを進めています。

 前期は選抜制の次世代リーダー育成研修や、社員同士が表彰し合う取り組みなどを進めました。今期も継続するものもあり、社員のスギルアップや良い雰囲気作りといった面で一定の成果は出せたと思います。

  ――今期の景況見通しを。

 消費の面で言えば、コロナ禍による行動制限がほぼ撤廃されたので、活発化するでしょう。訪日外国人観光客も含めてです。引き続き読みづらい情勢ではありますが、そこは前向きにとらえたい。

 減損処理や在庫処分など、ここ数年で落とせるものは落としてきたので、経営的には大きな不安もありません。ストレートに事業拡大に向かっていける環境は整えたつもりです。グループ経営を意識しながら、各現場の奮闘に期待します。幸い、現場からは今のところ、前向きな声が届いています。

  ――中期計画については。

 3カ年の中計が終わったのですが、コロナ禍で事実上の休止状態でした。近く発表する新中計で再び成長を目指します。

〈インフレを実感するとき/海・空の運賃高騰が……〉

 「旅行にはまっている」と八木さん。中でも家族で関西・九州間の深夜フェリーに自家用車とともに乗り、九州各地を巡るプランがお気に入り。フェリーの個室で寝れば、朝には九州に、帰路なら関西に着いているため「時間効率がすごくいい」。ただ、このフェリーの運賃が高騰している。高すぎて自粛するほどではないが、家計にはやはりジワリこたえる。仕事では海外出張も再開。飛行機代の高騰も経営者として頭の痛い話だ。

【略歴】

 やぎ・たかお 1999年4月インドネシア石油(現・株式会社INPEX)入社、2011年10月同社退社。同年11月ヤギ入社、13年6月取締役管理本部長代理、16年4月常務管理部門長、同年6月から現職